8Kをはじめとするシャープの映像技術は今も世界トップクラス。“組み立てメーカー”から脱したい鴻海にとっては喉から手が出るほど欲しかったはずだ

日本の官民合同出資ファンド・産業革新機構と台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が激しく競っていたシャープの買収劇が4月2日午後、ついに決着した。鴻海が3888億円を出資し、シャープの経営権を握ることになったのだ。

鴻海は当面、全従業員の雇用を維持するとしているものの、もちろんシャープ側の旧経営陣は退陣。三重・亀山、大阪・堺の巨大液晶工場への投資失敗で経営危機に陥ってから4年余り、ついに外資傘下で出血覚悟の構造改革に取り組むことになる。

かつて栄華を誇った国内家電大手8メーカーの一角をアジア企業が買収―これは家電業界のみならず、日本産業界にとって“激震”だ。一体、何が起きているのか? 産業界の事情を知り尽くす面々が舞台裏を明かす!

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非政府系産業シンクタンク・アナライザーA氏(以下、A) 今回の買収劇は、鴻海の周到な情報戦による完勝です。彼らは「債権放棄しなくていい」「株も買い取る」と、シャープに融資しているメガバンクを味方につけた。一方の産業革新機構側は「国益」「技術流出阻止」という錦の御旗(みはた)を振りかざしたものの、主導していた甘利(あまり)明前特命担当大臣が政治資金スキャンダルで退任し、動きが鈍ってしまった。

元メガバンク副頭取B氏(以下、B氏) 経営危機下のシャープには、みずほ銀行と東京三菱UFJ銀行という両メガバンクから執行役員や部長クラスの人間が多数送り込まれていた。彼らの目的は自行の融資を早期に回収し、少しでも焦げつきを減らすこと。言葉を選ばずに言ってしまえば“借金取り”ですよ。近年のシャープは銀行の意向に沿った経営しかできず、成長どころか、「本社ビルを含め、金になるものは売り飛ばせ」というような状態でしたが、最後はついに会社ごと売り飛ばされたと(苦笑)。

アジア企業に詳しい中堅証券会社取締役C氏(以下、C氏) 特に、みずほと鴻海は15年以上前から巨額の融資を行なう蜜月関係。今回の買収劇もシャープへの融資を回収したいみずほが鴻海をけしかけたとの見方もあるほどです。いずれにせよ、鴻海がみずほを通じてシャープの社内事情を知り尽くしていたのは間違いない。“産業革新機構派”の役員の切り崩しや、各事業のキーマンへの接触、取り込みもかなり激しかったとか。

 実際は産業革新機構側の再建案のほうが、のちの展望も含めれば“良心的”だったかもしれないんですけどねえ。事実、鴻海は2月に買収契約大筋合意を発表して、まず機構側に手を引かせた後、図ったように「シャープの偶発債務が新たに判明した」という“爆弾”を公表。融資額を当初の予定から大幅に減額しました。さすがというか、なんというか(苦笑)。

 中国系商人がよくいう『相手に商品を梱包(こんぽう)させてから値切れ!』ってヤツね。中国や台湾でビジネスを行なう顧客が、契約後の値引き交渉や条件変更で泣かされる姿を私も何度も見ました。シャープもみずほも、結局はしてやられたというわけ。

 ただ、みずほにしてみれば、年間売上高15兆円を誇る鴻海のテリー・ゴウ(郭台銘)会長は超VIP顧客ですよ。今回の融資減額も買収成功への“ご祝儀”みたいなものと考えて割り切っているんじゃないですか。

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だが、これも家電業界のみならず、日本産業界の衰退の幕開けに過ぎないのか? 今回の“激震”の裏で一体、何が起きているのか…この座談会の続きは『週刊プレイボーイ17号』(4月11日発売)「さよならシャープ、さよなら東芝、さよなら日本ブランド(号泣)」にてお読みいただけます!

(取材・文・撮影/近兼拓史)