このところ暗いニュースばかり続く日本の家電メーカー。でも、長年培ってきた商品開発力はダテじゃない! アジアを中心に地元目線のアイデアで消費者のニーズをつかむ「ご当地商品」を次々と発売し、ヒットさせているのだ。
その代表例が、シャープ(厳密にはもう外資メーカーだけど…)が今年4月から日本でも発売している世界初の蚊が取れる空気清浄機(蚊取空清)。
昨年9月からマレーシアやタイなど東南アジア6ヵ国で発売されると、一躍注目を集め、現地の人々にとっては高い価格帯にもかかわらず、目標を大きく上回る売れ行きとなっている。
果たして、熱帯ならではの悩みを解決するこの商品は、どのように開発されたのか? シャープの健康・環境システム事業本部、冨田昌志さんに聞いた。
「日本や中国と違って、もともとASEAN(東南アジア諸国連合)地域では空気清浄機(以下、空清)の市場は小さく、どうすれば多くの人に空清のよさを知ってもらえるのかを考えていたんです。そんな時に弊社のASEAN統轄責任者から『こちらではウイルスや菌よりも蚊の問題のほうが大きい。蚊も取れる空清を作れば絶対に売れる』という意見が出たのです」
そこから開発プロジェクトが立ち上げられたものの、当初は失敗続きだったそう。
「いかにして蚊を取るかという部分で、やはり苦労しましたね。最初は殺虫剤メーカーと共同開発しようとしたのですが、殺虫剤と空清の相性がよくなかった。ちりやほこりを吸うために空清が起こす気流によって薬剤も拡散し、蚊に対する殺虫効果を弱めてしまうのです。
その後、試行錯誤の末、別のアプローチ法として考え出されたのが、蚊を空清までおびき寄せて吸引するという方法です」(冨田氏)
これにより薬剤使用による健康面への影響を気にしていた現地の消費者へのフォローもできたそうだが、具体的にはどういう仕組みなのか?
「蚊は蚊にしか見えないUV(紫外線)ライトに引き寄せられたり、黒い所や小さな隙間に入りたがるという習性があります。そこで、黒色の本体側面に複数の小窓を設け、UVライトを照らして空清の近くまでおびき寄せたところを吸引して、内部の粘着シートで捕らえるという仕組みを考えたのです。
そこからは、東南アジアにいる代表的な3種類の蚊を6畳くらいのテストルームに放ち、捕獲試験を1年以上かけて67回行ないました。そして、構想開始から6年を費やし、ようやく昨年9月に発売にこぎ着けました」(冨田氏)
日本でも生産が追いつかず予約殺到!
開発に6年もかかっていたとは…まさにシャープ渾身の一作だ。ちなみに、東南アジア向けに開発したこの商品を、なぜ日本でも発売することにしたのだろう。
「日本でも2年前から蚊による病原体の媒介が取り沙汰されている状況になっていたので需要があると判断しました。発売にあたっては、日本にいる蚊でも捕獲試験をしっかりと行ない、一般家庭によくいるアカイエカでは約95%の捕獲に成功しています」(冨田氏)
発売後の反響は?
「非常に大きく、3月の商品発表から発売までの1ヵ月間で2千台以上のご予約をいただきました。こんなこと家電製品ではなかなかないんですよ。現在も生産が追いついていない状況ですが、夏までには安定供給できるよう、当初計画の3倍の増産態勢に入っています」(冨田氏)
実勢価格で5万円程度という値頃感のある価格もヒットの理由だろう。鴻海による買収騒動で揺れに揺れていたシャープだけど、内外の市場でガツンと存在感を発揮している。
実は、こうした海外ご当地ニーズ家電で成功を収めているのはシャープだけではない。インドでバカ売れ中のカシオ計算機の「インド桁電卓」、インドネシアから火が点いたエプソンの大容量インクタンク搭載プリンタなど、ご当地の悩みを日本の家電メーカーならではの技術力とアイデアで解決し、大ヒットに導いているのだ。
発売中の『週刊プレイボーイ』25号では、そんなご当地ニーズ家電の開発現場を紹介。メーカー担当者たちの証言に新たなヒットのヒントが? 日本が本当に自信を取り戻せるのは、やはりプロフェッショナルな現場から!というわけで、是非そちらもお読みいただきたい。
(取材・文/昌谷大介 日下部貴士[A4studio])
■週刊プレイボーイ25号「日の丸メーカーよ、『海外ご当地ニーズ家電』で巻き返せ!!」より