もはやスポーツもTVではなくスマホで視聴するのがスタンダードに?

「TVがネットに呑み込まれた」――7月20日、Jリーグとイギリスのデジタルスポーツコンテンツ企業「パフォーム・グループ」(以下、パフォーム)が2017年以降、10年間の放映権契約を結んだニュースを目にすると、あるTVマンは半ば諦め顔でそう呟(つぶや)いた。

TVに関わる者とすれば、一大事件である。放映権料は10年で2100億円という驚くべき数字だ。17年が160億円(推定)で、その後、段階的に増額されるという。地上波も含め、現在Jリーグが放映権料として手にする額は年間約50億円といわれていただけに、一気に4倍を超えることになる。

これまでJリーグはスカパー!を中心に放送されてきたが、これからの放送形態はパフォーム主体になることが予想される(今後、既存のTV局はJリーグを放送する時にはパフォームから放映権を買うことになる)。

これに対し、TV関係者は「黒船の襲来だ!」と戦々恐々としているのである。

『W杯に群がる男たち-巨大サッカービジネスの闇-』『電通とFIFA』などの著作を持つノンフィクション作家の田崎健太氏は次のように解説する。

「元々、サッカーはスポンサーを持つのが大前提で発展してきました。TVでスポンサーをつけるのが第1段階だとすれば、第2段階は放映権料が大きくなってきてPPVが出てきたこと。今年はネットTVが既存の地上波やケーブル局を超える第3段階の年になるかもしれません」

パフォームは2007年に設立され、スポーツを軸とした動画配信で業績を伸ばし、世界40ヵ国以上でサービスを展開している。サッカーのイングランド1部リーグやNBAの放送権を所有して配信。世界最大のサッカー情報サイト「GOAL.com」、NBA日本公式サイト「NBA.co.jp」、米国プロゴルフツアーの日本公式サイト「PGATOUR.COM」も運営している。

さらに、スポーツのライブストリーミングサービス「DAZN(ダ・ゾーン)」を世界に先駆け今夏、日本で開始し、様々なスポーツを配信予定。Jリーグの他にバレーボールのVリーグやアメリカの総合格闘技UFCの放送を発表し、海外サッカーやテニス、野球、ラグビーなども予定している。

DAZNマーケティングディレクターのピーター・リー氏は日経新聞のインタビューで「年間6千試合以上のスポーツを配信します」と発言している。

ここ数年、ネットTVの興隆は目を見張るものがある。最近では、テレビ朝日とサイバーエージェントが設立し今年4月11日にスタートしたabemaTVが、完全無料と使いやすさを武器に6月には400万ダウンロードを突破するなど破竹の勢いで視聴者を増やしている。

スポーツに特化した例でいうと、3月17日にスタートし、着実に視聴者を獲得しているスポナビライブがある。ソフトバンクが出資したネットTVで、プロ野球、大相撲、なでしこリーグ、海外サッカー(プレミアリーグとリーガ・エスパニョーラ)、MLBなどが現在視聴できる。

世界のスーパースターがJリーグに来る?

さらに、スポナビライブは今秋スタートする男子プロバスケットボールのBリーグと4年間で約120億円(推定)もの放映権契約を結んだ。

かつてネットメディアはお金になりにくいといわれていた。しかし、それも今は昔話。地上波からネットTVまで幅広く番組を制作する映像ディレクターA氏はこう解説する。

「TV局などの既存メディアより、ネットメディアのほうがお金を生み出す術(すべ)を持っている。スマホは誰もが持っている端末機。ユーザーは多いわけです。単価は安いけど、ひとりひとりのユーザーから数百円ずつでも徴集したら立派なビジネスとして成り立ちます」

とはいえ、パフォームはJリーグに2100億円も払って利益を上げられるのか? そんな疑問をA氏は一笑に付(ふ)す。

「確かに巨額ですが、それこそヨーロッパのサッカーになるとケタが違います。プレミアリーグなんて3年1兆円ですから。パフォームが世界に先んじて日本でDAZNをやるほど力を入れているのは、Jリーグへの先行投資という意味合いもあるでしょう。アメリカでの成功例があることも大きいといわれています」

アメリカの成功例?

「かつてアメリカはサッカー不毛の地といわれていたけど、今は違う。なぜそうなったかといえば、アメリカのサッカー協会がお金を集めて各チームに強化費を分配した。その強化費によってベッカムなどの世界的スーパースターがアメリカにやってきた。そうなると、アメリカの試合の放映権を海外に売れる。

同様にJリーグもこれからは海外のスターを連れてきて、日本だけではなく、海外への放映権の売買を目指していると考えられます。それにパフォームグループは元々イギリスのブックメーカーの会社ともいわれているので、Jリーグが海外で賭けの対象になるケースも出てくるでしょう」

今後、第2、第3のDAZNが襲来する可能性は?

「大いにあります。というか、スポーツ専門局ではないけど、すでにHulu、NETFLIX、Amazonプライム・ビデオが進出しています。中でもHuluは提携している日本のTV局も多いので日本でも加入している人が多い。既存のTV局も生き残りをかけて、ネットTVと手を組み始めたということでしょう。どうにしかしてネットTVと一緒に共存していこうと考え始めたんですよ」

もはや地上波TVが権威を持った時代は過去のもの。スマホの小さい画面を舞台に、既存のメディアはネットメディアと共存共栄を図ることで生き残っていくしかないようだ。

(取材・文/布施鋼治)