今年1月末、『ホワイト企業大賞』の授賞式が東京で開催された 今年1月末、『ホワイト企業大賞』の授賞式が東京で開催された

週プレNEWSの連載『こんな会社で働きたい!』では人を大切にする、世界に誇りたい“大切な会社”はこの国にまだまだある!ということで、褒(ほ)め称えたいステキなホワイト企業を紹介し好評を得ている。

今回はその番外編として1月末に『ホワイト企業大賞』を受賞した各企業の取り組みを紹介しよう。

同賞は、ソニーの元上席常務で経営塾『天外塾』を主宰する天外伺朗(てんげ・しろう)氏が2014年に企画したホワイト企業の“賞レース”。天外氏はホワイト企業を「社員の幸せと働きがいと社会貢献を大切にしている会社」と位置づける。

4回目を迎えた今年は社員の幸福度を測る「ホワイト企業指数アンケート」による書類審査、同賞企画委員会の審査員による会社訪問と経営者や従業員へのヒアリングを経て、大賞3社、特別賞14社、推進賞4社が選出された。

ここでは、その中から受賞企業7社をピックアップし“ホワイト”な取り組みを取り上げる。

【健幸志向経営賞】旭テクノプラント株式会社(岡山・倉敷市)

電気設備をメインに水処理施設や受変電施設のプラント設計、施工管理を手掛ける同社の社員数は100人(2018年3月時点)。『社員とその家族の心身の健康がすべての基盤』とする健“幸”経営を掲げ、社内完全禁煙はすでに完了済み。仕事の合間や定時終了後にはオフィス内に備えたフィットネスルームのエアロバイクやルームランナーで汗を流し、さらにリラックスルーム(マッサージチェアやシャワールームを完備)で体を休めることもできる。次なる目標は『“メタボ社員”ゼロ』だという。

その他の福利厚生も手厚い。全社員に地震に備える避難セットを貸与し、給与手当として、結婚したら10万円、社員の妻(夫)の誕生日に2万円、子どもの誕生日に1万円、マイホームを買ったら10万円。さらに、出産祝いとして第1子10万円、第2子20万円、第3子30万円、子どもひとりにつき毎月3千円の“教育手当”も支給し、勤務歴4年の優秀な社員には学生時代に借りた奨学金の残額を会社で一括返済する制度もある。

他にも、社員全員とその家族の誕生日、結婚記念日を記載したオリジナル手帳や、誰もが自分のアイデアを上司の承認なしに提案できる「創意工夫提案制度」などユニークな取り組みを実施。日頃、面と向かっては言いにくい感謝の気持ちを文字で相手に伝える『ありがとうカード』は毎月の給与明細に同封し、このカードをメインに人事評価を行なう。

健康志向と働くモチベーションを高める職場風土を作り上げ、過去5年間の新卒社員25人中、辞めたのはふたり、過去3年間では0人という離職率の低さも強みだ。

【笑顔が生まれる経営賞】株式会社カルテットコミュニケーションズ(名古屋市)

ヤフーやグーグルなどの検索キーワードに連動して広告を表示するリスティング広告の専門ベンチャーで社員数は47人(17年4月時点)。長時間労働がまん延しているとも言われる広告代理店業界にあって、同社では「社員の健康は仕事の成果やモチベーションに大きく影響する」と数年前から“働き方改革”に着手した。

リスティング広告の運用業務を大幅に省力化するシステムを自社開発し、堤大輔社長は「今日やらないでいい仕事は明日以降に」「そのことをお客様にも交渉し理解してもらう」ことを全社員に推奨。社員の月間平均残業時間の公開にも踏み切り、毎月、同社のホームページのトップ画面に掲載している。そこで堤社長は「自社にプレッシャーを与える目的と、労働時間削減の“文化”を業界に広げたい思いがあった」と言っている。

その結果、17年の社員の月間平均残業時間は4.1時間。直近の今年1月はわずか3.6時間だ。1日当たりでは10分以下と、ほぼ“残業ゼロ”を達成し続けている。その点については毎年の就職説明会でもアピールしているが…「ほとんどの就活生に信じてもらえず、入社後に『嘘じゃなかったんですね』と言われることが多い(苦笑)。『ホワイト企業大賞』はその証拠にもなると思うので受賞できてよかった」と堤社長は授賞式の壇上でスピーチした。

“男社会”の建設業界で女性社員が7割

【人間愛経営賞】株式会社基陽(きよう、兵庫・三木市)

建設現場の職人が使う安全帯や腰ベルト、作業バッグを製造する会社で社員数は30人。金物の町、兵庫県三木市で先代社長の父親から12年に現在の社長である藤田尊子さんと常務の山下典子さんの姉妹で会社を引き継ぐ。建設業界では珍しい“姉妹経営”だ。

それもあって“男社会”の建設業界にあって女性社員が7割。入社5年目の20代の女性を係長に抜てきするなど性別、年齢不問の能力に応じた管理職登用にも積極的で、17年には内閣府の『女性チャレンジ賞』を受賞。毎日17時30分にはほぼ全員が帰宅し、勤続3年以上の社員が毎年取得できる“7日連続”のリフレッシュ休暇の取得率は100%。

社員は顧客対応を考える『お客様“恋人”委員会』や社員間の交流を促す『ハピネス委員会』など7つある社内委員会のいずれかに所属し、“全社員参加型”の経営を実施。14年には鳶職人らの命綱である安全帯で『グッドデザイン賞』を受賞するなど女性の感性を活かしたモノづくりにも定評がある。

「建設業界の隅っこから、安全保護具を通じて『職員さんってカッコいい』と子どもたちに思ってもらいたい」(山下常務)と、建設職人の地位向上に大きく貢献している点も高く評価された。

【学習する組織経営賞】有限会社たこ梅(大阪市)

ホワイト企業大賞では珍しく、居酒屋業界から選出された。初代から現在の5代目・岡田哲生社長まで170年以上続く、大阪・道頓堀の老舗店・たこ梅(大阪・梅田を中心に4店舗展開)は“日本最古”のおでん屋となる1844年の創業。初代から受け継ぐクジラの舌(さえずり)や伝統のダシで炊く「たこ甘露煮」が名物となっている。

01年、先代が亡くなり、岡田社長は大手メーカーを退職して店を継ぐ。会社員時代に培ったマーケティングのノウハウで赤字の店を再生させるも、08年のリーマンショックを契機に売り上げは激減の一途…。「どないすんねん!?」と途方に暮れていたある日、たまたま本店のカウンター席で祖父、父、孫の3世代が酒を飲む姿を見て悟ったという。

「これから100年、親から子へ、子から子へと続くお客様を見守り、いつでも帰ってこられる場所を守り続ける!」――一念発起すると、組織運営に関する本を読みあさる中で出会ったのがピーター・センゲの著書『学習する組織』だった。

「これなら100年後もたこ梅はある」と感じ、たこ梅流の“学習する組織”づくりに着手してから今年で9年目。従業員の創意工夫を引き出す店長会議や研修に力を入れるなどして売り上げは復調。「まだまだ道半ばですが、“学習する組織”にはゴールがない。死ぬまで楽しむつもり」と岡田社長は笑った。

障がい者を戦力に創業以来、黒字経営

そして、ここからがホワイト企業大賞の『大賞』受賞企業、今年は3社が選ばれた。

1社目はドコモショップに長年勤務していた桑野隆司社長が05年1月に設立した株式会社ピアズ(東京・港区)。

主に携帯ショップ向けの店舗コンサルティングを行なう会社で「作業量が膨大で労働時間も長い割に給与が低い通信業界を変革したい」との桑野社長の強い思いが経営に活かされている。社員の行動の基となる利他の心を生み出す源泉を『EH(社員幸福)』と位置づけ、会社の利益と社員の幸福を両立する経営が評価された。

2社目は株式会社森へ(神奈川・横浜市)。企業経営者ら組織で働くリーダーを対象にして、森の中でゆっくり、静かに内省する時間を提供する“森のリトリート”事業を展開。森に囲まれながら自分を見つめ直し、焚き火を囲んで参加者同士で対話する2泊3日の行程を経ることで自分の原点を再発見し、新たな経営ビジョンが拓けてくるという。

その機会と場を提供する同社の山田博社長は社名でもわかる通り、「森のような経営を目指している」と話すが、働くことの本質的な意味を追求し続けている点が評価された。

3社目はリベラル株式会社(東京・江戸川区)。OA機器の販売やリユース業を営む会社で従業員30数人中27人が障がい者だが、08年の創業以来、黒字経営を持続している。大賞選考の過程で同社の社長や従業員をインタビューした審査員(株式会社ブロックス・西川敬一社長)も「昔から“良い会社フェチ”でいろんな良い会社を見てきたが、一番すごい会社」とベタ褒め。

「事務所に入ると、社員のほとんどが知的障害者で、中古のOA機器をピカピカに磨き上げる作業をされていましたが、その姿が生き生きとしていて、私たち(健常者)では到底できないような品質に仕上げていました。

この会社は障がい者雇用を福祉と捉えていません。健常者と同じ戦力と見ているから怒る時は怒るし、褒(ほ)める時は褒める。障害者だからと特別扱いしない姿勢が会社全体に行き渡っていました」(西川氏)

同社には社内のチームをまとめるリーダーに就いている障がい者までいるそうで、福祉の一環ではなく、彼らを戦力と見るその経営手法について本間省三社長はこう話した。

「職場には文字が読めない、数字が理解できない、話している内容がわからない…様々な障がい者がいます。でも例えば、自閉傾向の強い人はひとつのことを一心不乱に継続する能力に長(た)けています。ひとりひとりの興味や能力を見極め、それを活かせる場を用意してあげれば健常者以上のパフォーマンスを発揮してくれます。そういう職場づくりを心掛けてきました。

弊社は、親会社が障がい者雇用をする目的で設立した特例子会社ですが、会社から生み出す中古OA機器の品質に一切の妥協はありません。障がい者の仕事だから許される…のではなく、障がい者が日本一の商品を作ることに意義がある。そう思っています」

★次回の連載『こんな会社で働きたい!』は、福島県伊達市の自動車リサイクル会社・ナプロアースを3月18日に配信予定!