「サラリーマンが60歳で定年し、再雇用を経て65歳で引退では、夫婦で豊かに暮らすには資金不足なんです!」と語る三戸政和氏

人生100年時代になると、サラリーマンは60歳で定年を迎えても、まだ40年の余生がある。そのときに年金と退職金だけで十分に暮らしていけるのか。

定年後、余裕のある暮らしをするためには「小さな会社を買って経営者になること」だと教えているのが、『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社α新書)の著者、三戸政和氏だ。

* * *

――この本のキーワードは「人生100年時代」と中小企業の「大廃業時代」ですよね。

三戸 はい。米カリフォルニア大学バークレー校とドイツの学術機関マックス・プランク研究所との共同研究による「将来の寿命予測」では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳まで生きるといわれています。また、現在20歳の人は100歳以上、40歳の人は95歳以上、60歳の人は90歳以上生きる確率が50%以上あるとのことです。

今、現役の日本のサラリーマンは、定年後に30年から40年生きることになる。そのときに数千万円の退職金ともらえるかどうかわからない年金で安心して暮らしていけるのでしょうか。

例えば、大企業で役員まで上り詰めた人は、会社を辞めても関連企業の社長などに就き、70歳くらいまで毎年1000万円以上の報酬がもらえたりします。そして、元の会社と天下り先の会社の両方から数千万円程度の退職金がもらえる。これくらいお金に余裕があれば、60歳以降の暮らしも楽ですよね。

でも、自分は大企業に勤めているわけでもないし、役員になんてなれないという人は、そんなのは夢だと思うでしょう。しかし、定年後の60歳から10年間会社を経営していれば、年間1000万円の役員報酬をもらうことは可能で、交通費や交際費、書籍代などは経費で賄えます。さらに、その会社が利益を上げていれば、買ったときよりも高く売れます。会社を買うことで、大企業の役員と同じような定年後の生活が送れるのです。

―会社を買うといっても、業績のいい企業が売りに出されているとは思えませんが......。

三戸 東京商工リサーチの「2016年『休廃業・解散企業』動向調査」によると、2013年から2015年に休廃業・解散した8万3555社のうち、売上高経常利益率が判明した6405社の50・5%が黒字で廃業しています。では、なぜ黒字で廃業しているのか。

帝国データバンクが発表した「2017年後継者問題に関する企業の実態調査」によると、国内企業の3分の2に当たる66・5%が「後継者不在」です。

特に中小企業は深刻で、「中小企業者・小規模企業社の経営実態及び事業継承に関するアンケート調査」(帝国データバンク、2013年発表)では、中規模企業の社長の6割が「事業をなんらかの形で他者に引き継ぎたい」と考えているそうです。

会社の規模で見ると、小規模、零細であるほど後継者不足は顕著で、売上高10億円から100億円未満の会社で57・5%、1億円から10億円未満の会社で68・5%、1億円未満の会社で78・2%が悩んでいます。

黒字経営でありながら、新しい社長を欲しがっている会社は、少なめに見積もっても100万社はあるでしょう。そういった企業を買えばいいのです。

私は、こうした中小企業の大廃業時代は、今後10年間は続くと思っています。

―でも、いきなり社長になれるのでしょうか?

三戸 大企業で働いていなくても、ある程度のマネジメント経験があれば大丈夫です。

実際、私が関わった中小企業では営業部がなく、定期的な会議が行なわれていませんでした。そこで「週に1回営業会議をしましょう」「議論で出た課題をやりましょう」「誰が何をやるか決めましょう」といった初歩的なことから始めました。

また、一般的な中小企業は、社長の知り合いや地元の商工会のつながりなどから仕事を受けている場合が多いんです。だから営業をかけていない。そこで「うちの会社はこういうところがターゲットだから、リストアップした会社は全部、営業に行きましょう」「きちんとPDCAサイクル(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Act=改善)を回しましょう」という話をしています。こういった基本的なことができている中小企業は少ないんです。

―多くの中小企業は親族や従業員が後継者になるのでは?

三戸 もちろん親族に譲るという企業は多いと思いますし、そこにわざわざ乗り込んでいく必要はありません。ただ、日本の中小企業約380万社の約2割が「自分の代で廃業することもやむをえない」と考えていて、その約22%が「後継者を探したが適当な人が見つからなかった」と言っているんです。その数は約17万社です。

―300万円で買える会社というのが、本当にあるんですか? ちょっと安すぎる気が。

三戸 いや、300万円は普通です。1円売却というのも多いんですよ。例えば、資産が1000万円あって、負債が1000万円あるとすると、この会社の価値は0円ですよね。「事業を引き継いで、1000万円の借金を返済してくれるならタダでもいい」という社長はいます。また、「3期連続赤字で、もうすぐ黒字転換が見えているんだけれども、親会社が売却を決めてしまったために売却します。1円でもいいです」というケースもあります。ですから、探そうと思えば300万円あれば買える会社は十分にあるんです。

―でも、その探し方がわかりません。

三戸 各都道府県には公的機関の「事業引継ぎ支援センター」があります。また「日本M&Aセンター」などの民間企業もあります。ただ、できれば自分の仕事に関連のある会社で内情がよくわかるほうがいいでしょう。例えば出版業界だと、少し前に約10万冊の雑誌の蔵書がある私営の雑誌図書館「六月社」が事業継続できないため閉店するというニュースがありました。ここにある雑誌を廃棄するのには何百万円もかかります。そこで、この会社をタダで譲ってもらって、どこかとコラボしたり、戦略的にプロモーション活動を行なうことで収入を上げることはできるはずです。

普段は読み流してしまうニュースでも、いつも頭の片隅に「買える会社はないか」ということを置いておけば、情報は確実に入ってきます。そういう姿勢が大事なんだと思います。

●三戸政和(みと・まさかず)
株式会社日本創生投資代表取締役CEO。1978年生まれ、兵庫県出身。同志社大学卒業後、2005年に「ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして、ベンチャー投資や投資先にM&A戦略、株式公開支援などを行なう。2011年兵庫県議会議員に当選。2016年に日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行なっている

■『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』
(講談社+α新書 840円+税)

現在、国内企業の3分の2が後継者不足に悩んでいる。黒字経営でありながら、新しい社長を欲しがっている企業は、少なく見積もっても100万社はあるという。サラリーマンは、そうした企業を買って役員報酬をもらい、定年後の人生を豊かに暮らそうというのが本書だ。人生100年時代、第二の人生は、社長を狙え!