セブン-イレブンがキリンビールと組んで、首都圏の数店舗で生ビールのテスト販売を始めると明らかにしたのは7月14日のこと。
客はレジで年齢確認を受け、専用のカップを受け取り、サーバーのボタンを押して注ぐ。レジ横のコーヒーマシンを使う「セブンカフェ」と似たシステムだが、そのコスパがすごい!
Mサイズ190円の値段にもびっくりだが、Sサイズはなんと100円ポッキリ(それぞれ価格は税込み。分量は未発表)。激安の居酒屋でもビールサーバーで提供される生ビールは300円以上というのが相場だ。
缶ビールを買って街中で飲むのは人目が気になるけど、ワンコインで冷えた生ビールをサクッと飲めるなら、さして抵抗感はない。折しも日本列島は酷暑の真っただ中。セブンの100円「ちょい生」、かなりイイんじゃないの!
というわけで、販売開始の17日、記者はテスト販売店の三鷹牟礼(むれ)6丁目店(東京都三鷹市)、新所沢駅東口店(埼玉県所沢市)へと急行したのだが――。
両店ともレジ横の生ビールサーバーはカバーで包まれ、その上には「生ビール販売は急遽(きゅうきょ)、中止になりました」との張り紙が。
「今日から生ビール発売するはずじゃなかったんですか?」
店員さんに聞いてみると、
「本部から、問い合わせには何も答えないようにと、きつく言われているもので......」
と答えるばかり。
SNSなどを見ても、消費者の期待が高かったことは一目瞭然。なのになぜ、販売をいきなり中止にしたのだろうか?
セブン-イレブンによれば
「反響が大きく、需要が高まると予想され、販売体制や品質保持が難しくなる可能性があるので、販売の中止を決定した」とのことだが、生ビールの品質管理に自信が持てなくなったというのであれば、これは合点がいかない。
というのも、JR東日本系のコンビニ「NewDays」はすでに2年前から生ビールの販売をしているのだ。しかし、これまでに生ビールの品質に苦情が寄せられた形跡はない。NewDays側もこうコメントする。
「2015年夏にまず2店舗でテスト販売をし、16年5月より本格販売をスタートさせました。現在493店舗中46店で生ビールを提供していますが、これまでに衛生面、安全面などで問題点はなく、お客さまに好評をいただいています」(JR東日本リテールネット広報)
同じことがコンビニ界トップのセブンにできないわけがない。
となると販売中止の本当の理由は、品質うんぬんではなく、「未成年の飲酒を呼ぶ」「飲酒運転を助長する」「店舗周辺で飲んだ客が大騒ぎして、住民が迷惑する」といった批判にさらされることを恐れたからなのか?
だが、流通業界に詳しいアナリストは首を横に振る。
「すでにコンビニはビールどころか、もっとアルコール度数の高いワインやウイスキーも販売している。いまさら生ビールを売ったところで、新たな社会的批判を招くとは考えられず、テスト販売を中止する理由にはあたらないでしょう」
■「生ビールは売れる!」をセブン以外も確信
では「ちょい生」販売中止の深層には何があるのか?
フードジャーナリストのはんつ遠藤氏がこう分析する。
「アイドルイベントならば、人が集まりすぎて危険なので中止ということはありえますが、店舗販売でそんな話は聞いたことがありません。
おそらくセブンは、ひっそりとテスト販売を行なって改善点を見つけたかったのでしょう。でも、あまりの反響の大きさから、それができなくなってしまったのでは。仮に今回、ビールサーバーの清掃が不十分で生ビールの味が落ちるなどの改善点が見つかったとします。
すると『セブンのビールはまずい』という悪評があっという間に全国に広まってしまう。そうした事態を避けるために、ある意味、万全を期して販売中止を決断したのではないでしょうか」
「ちょい生」の今後について、現状、セブンは延期ではなく、中止と発表しているが、はんつ氏はこれを額面どおりには受け取れないという。
「今回の反響の大きさから、『ちょい生』は絶対に売れるという手応えを得たはずです。しかもセブンは今、パック入りのしめさばなど、おつまみ系の商品展開に力を入れている。『ちょい生』が売れればおつまみ類も売れるので、相乗効果は計り知れません。
はっきり言って、『ちょい生』販売はメリットだらけで、逆にデメリットはほとんどありません。セブンは生ビールの品質管理に万全を期した上で、近いうちに販売を本格的に再開すると予想します」
これにほかのコンビニも追随するはず、と語るのは前出の流通アナリストだ。
「今回の『ちょい生』の反響の大きさを見て、ローソンやファミリーマートなどほかのコンビニチェーンも『生ビールは売れる!』と確信したはず。となると当然、アサヒやサントリーといったキリン以外のメーカーと組んで、これに対抗してくるでしょう」
その意味するところは、間もなくコンビニ業界でビールメーカーを巻き込んだ熾烈(しれつ)な生ビール販売戦争が勃発するということ。今回の「ちょい生」販売中止は、その号砲といえるのかもしれない。