TENGA代表取締役の松本光一氏

TENGAは60ヵ国以上の国と地域で7000万個超を販売し、まさかのNHKニュースにも登場! TENGAはいったいどこを目指すのか取材した(文中敬称略)。

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目を疑った。

6月20日放送のNHK『ニュース シブ5時』に、あのTENGAが登場したからだ。テーマは「お年寄りの性欲とどう向き合うか」。いったいどういう経緯でNHKのニュースに? TENGA広報宣伝部の西野芙美(ふみ)が説明する。

「今回、NHKさんのニュースでTENGAというブランド名は紹介されていません」

確かにそのビジュアルはモロに出ていたが、その商品名は一ミリも触れられていない。西野が続ける。

「もともと弊社は高齢者の性のセルフコントロールに取り組み、それは当たり前のことだと発信してきました」

TENGAが昨年(2017年)行なった"オナニー国勢調査"の結果によると、60代男性の52.5%が月1回以上のペースでマスターベーションをしているという。

「そういった活動のなか、高齢者の介護サービス業を全国展開する『いきいきらいふ』さんから声がかかりました」

介護現場では高齢者の性欲が課題になっていた。原因は女性職員へのセクハラの増加だ。しかし、高齢者も人間なので当たり前だが性欲はあるし、それを楽しむのは決して悪いことではない。

程なくして両社は意気投合し、今年1月、TENGAはいきいきらいふとの協働を発表。そして職員へのセクハラ対応策を考える研修を実施し、高齢者でも安全に使用できるTENGAを施設に導入した。その模様をNHKが取材したというわけだ。

TENGAの創業者であり、代表取締役社長である松本光一はこう補足する。

「高齢者の方々にも、そこで働く人たちにも、『これなら使ってみたい』と思ってもらえないと導入にはつながりません。単にウチの商品を施設に手渡すだけではダメで、価値を伝え、商品の説明をしなくてはいけない。何より現場の人と協力してやっていかないと次へは進めません」

NHKに露出し、その存在感を増すTENGAはこの先、どこへ向かうのか。松本の理念に答えがあった。

「弊社のビジョンは"性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく"です。高齢者や障害を抱えている方、射精障害など性的な面で不自由を抱えている方がもっと性と向き合えるような社会をつくり、その分野で最先端の企業でありたい。何よりも世界中の人々の性生活を豊かにしたいんです」

TENGAの未来戦略のキーワードは「医療」と「世界」。かなり無謀な挑戦にも思えるが、TENGAは現在地にたどり着くまで前へ前へと突き進んできた。

社長の松本は1967年、静岡県に生まれた。専門学校を卒業後、自動車の整備士、自動車の営業マンなどを経て、34歳で脱サラする。以前からマスターベーションのアイテムが「特殊でヒワイなもの」として世間に認識されていることに違和感があった松本は、「一般プロダクトとしてのアダルトグッズを作ろう」と決意し、商品開発に専念した。

そして試行錯誤を繰り返し、脱サラから3年。2005年3月に有限会社典雅を設立し、同年7月7日に5種類のTENGAを世に送り出す。

それまでのアダルトグッズとは一線を画すシャープで都会的なデザインと、圧倒的な使用感で男たちをとりこにし、「5000個売れたらヒット!」といわれるアダルトグッズの世界で発売初年度に100万個を売った。波に乗ったTENGAは設立当初、目標に掲げていた300万個を発売から3年であっさり突破する。

破竹の勢いは衰えることなく、当初5種類だった製品は現在、女性用なども含めると、約120種類にも及ぶ。今回の取材場所は東京都港区にある洗練されたTENGA本社の会議室だ。オフィスには40名近くの女性も働く。松本が挑戦した「一般プロダクトとしてのアダルトグッズ」は大きな成果を収めたように見える。

だが、松本にとってこの結果は通過点でしかない。次に参戦するのは「医療」。すでにその戦いは始まっている。

★TENGAが仕掛ける医療機器とは? この続きは明日(4日)配信予定です。

●松本光一
1967年生まれ、静岡県出身。自動車整備の専門学校を卒業後、車の整備士や中古車販売などの職を経て脱サラ。38歳のときに株式会社TENGAを設立した