市販ハイブリッドミニバン車両をベースとした自動運転の研究開発用車両型実験プラットフォーム「RoboCar MiniVan」。今回特別に、ZMPの秘密基地にある実車をご開帳! 谷口恒ZMP代表取締役社長(右)と小沢コージ

都内で自動運転タクシーの実証実験がスタート。しかも、一般客が料金を払い自動運転タクシーに乗るのは世界初の試みだ。おなじみ自動車ジャーナリストの小沢コージが聞いてきた!

■世界初の自動運転タクシーが営業開始!

8月27日、突如とんでもないニュースが飛び込んできた。日本で世界初の自動運転タクシーが営業を始めたというのだ。それも道路激混みの都心で!

とりあえず9月8日までの約2週間、大手町から六本木ヒルズまでの約5.3kmを一日4往復。ネットでお客さんを一般募集し、料金も片道1500円取っている。

このプロジェクトは、自動運転ビジネスベンチャーの雄、日本のZMPと、東京を代表するタクシー会社、日の丸交通がタッグを組む。しかも事業用の緑ナンバーをつけた自動運転専用車両で。

2020年の東京五輪で実用化を狙っているというが、ホントに可能なのだろうか。ZMP谷口恒(たにぐち・ひさし)社長を直撃した!

■社長が提案する自動運転優先道路

──谷口社長、びっくりしましたよ。世界初の自動運転タクシーの営業運転! しかも渋滞で有名な東京で。あの世界的ベンチャーのUberはもちろん、テスラもベンツもやってない試みです。反応はいかがでした?

谷口 もう想像をはるかに超えた手応えです。

──米のCNNや英のBBCも取材に来たらしいですね?

谷口 はい。中国のテレビも取材に来ました。一般の方を乗せた営業走行っていうのは世界初だったので注目を集めたのかなと。

──どんなきっかけで自動運転タクシーを始めたんです?

谷口 東京都には自動運転を世の中に広めたいというプロジェクトがあり、公募していたんですよ。結果、われわれとSBドライブさんが選ばれた。そしてわれわれはすぐに公道実験をしたわけですが、ウチとしては緑ナンバーを取得できたことに、何よりも意義があったなと。

──そうか。ちゃんと国交省であり、国が正式に自動運転車両にお墨付きを与えたってことですからね。ところで今回運転席に座っていたドライバーは二種免許保持者?

谷口 緑ナンバー取得はいろんな方に「風穴あけてくれた」と言っていただきましたが、ドライバーはやはりプロが同乗しました。この状況は世界と同じです。

国連のジュネーブ条約に定められているように完全無人運転はまだ許されていません。仮に機械が完全にブレーキ、アクセル、ハンドルを操作できたとしても、常に運転席に補助できる人がいないとダメです。

──現状は、いわゆる自動運転レベル2ですか?

谷口 技術的にはレベル3、一部はレベル4の技術が入っていますが、法的に事故を起こした場合の責任はまだ人間が取るんです。

──今回の営業運転の動画を拝見しましたが、ほんの少しドライバーがハンドル操作をしていましたよね?

谷口 基本的に機械に任せっ放しでいけますが、「万が一」に備え、隣のクルマが近づいてきたときはドライバーが早めにハンドル操作しました。

──谷口社長的には100%自動運転に任せても大丈夫だという認識なんですか?

谷口 僕が土曜日に乗ったときは100%自動運転で大手町から六本木まで行けました。ただ、どうしても自動運転車両は控えめな運転をします。合流は無理にしませんし。

──今年3月にはUberが自動運転実験中に死亡事故を起こしていますし、強気制御の自動運転はやっぱしダメ?

谷口 ええ。東京が世界に先駆けた自動運転タクシーが事故を起こしたら自動運転の進化に水を差しかねない。毎回、営業運転前に日の丸交通の整備士がチェックしました。

──社長の手応えだと9割がた人間の補助なしでいける?

谷口 今回の実証実験の速報で自動運転率90%という結果が出ています。東京都の小池百合子知事にも9月5日に試乗していただきました。

──小池都知事の評価は?

谷口 都知事は「私より運転はOKだなというレベルだった」と喜ばれていました。

──政治家は自動運転に対して前向きなんですか?

谷口 やりたい人は多いと思います。公共交通手段で困っている人も多いですから。

ZMP×日の丸交通のコラボで実現した自動運転タクシー

──今回の動きは2015年の「東京モーターショー」開催前に安倍首相が「2020年の東京には自動運転車がきっと走り回っている」と発言したのが始まりです。安倍さんは本気なんですかね?

谷口 本気だと思います。それにあの発言は私が首相官邸に自動運転のプレゼンに行ったのがきっかけなんです。当時ZMPとして2020年に無人タクシーを許可してほしいと要望に行きまして。と同時にAmazonの副社長と一緒にドローンの規制緩和も訴えました。僕はドローンを造っているエアロセンス社の社長もやっていますので。

──自動運転にドローン! 完全に"日本のイーロン・マスク"じゃないですか!

谷口 いやいや、僕はあそこまでスゴくないです(笑)。

──社長、ズバリ聞きますが、2020年に自動運転タクシーって実用化します?

谷口 具体的には今回の営業実験を踏まえてレポートしなくてはなりません。次はまた来年に行動を起こすと思いますが、もっと踏み込んだことをやります。

──ウワサでは谷口社長は東京五輪のときに、羽田空港と競技会場、選手村を結ぶタクシー輸送を自動運転タクシーでしようとかなり本気で考えているそうですね? 何台ぐらい見込んでいるんですか?

谷口 それらは許可の問題があります。今回も2台とはいえ申請は簡単ではなかった。

政府関係者でも慎重論者は多い。でも、僕個人としては東京にオリンピックを見に来られる観光客の方になるべく多く乗っていただきたい。試算では海外から日本に800万人は来るといわれています。

──2020年の五輪に向けた自動運転タクシーの課題ってなんですか?

谷口 すでに小池都知事には提案しましたが、ぜひ自動運転優先道路を造ってほしいと。五輪のときだけでもいいので。要はバスの優先道路みたいに緑の車線を造り、そこは自動運転車が優先的に走れるようにする。そうすれば割り込みもなくなり、完全無事故が実現できるはずです。例えば羽田から都心までの限定区間のみ優先化するとか。

──それはスゴい! 画期的で現実的なアイデアじゃないですか! 自動運転タクシーが苦手とする前への強引な割り込みがなくなるだけじゃなく、たとえ接触しても、優先道路だから相手のほうが悪いと言い切れる。

谷口 あとは政治家の方々の判断ですね。

■『週刊プレイボーイ』41号(9月22日発売)「無人タクシーが2020年実用化ってマジっすか!?」より

●谷口恒ZMP代表取締役社長
1964年生まれ、兵庫県出身。群馬大学工学部卒。制御機器メーカーでアンチロックブレーキシステム開発に携わった後、商社で技術営業、ネットコンテンツ会社の起業などを経て、2001年にZMPを設立。二足歩行ロボットや音楽ロボット開発・販売を手がけ、08年から自動車分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両の提供を行ない、無人走行、物流支援ロボット、宅配ロボット、ドローンなどさまざまな分野でロボット技術を展開中