経済ニュースのバックヤードを解説する坂口孝則氏 経済ニュースのバックヤードを解説する坂口孝則氏

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか?

調達・購買というビジネスの舞台裏を専門とし、データ収集・分析を得意とする坂口孝則(さかぐち・たかのり)氏の新連載が週刊プレイボーイ47号(11月5日発売)からスタートした。

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■イオン、セブンに対抗する第三極に

週刊プレイボーイでビジネスニュース解説の連載を開始した。読者にヒントとなればうれしい。

一回目はドン・キホーテだ。

ドンキホーテホールディングス(HD)がユニー・ファミリーマート(以下、ファミマ)HD傘下のスーパーのユニーを買収する。両社は今年から、ユニーの一部店舗を「MEGAドン・キホーテUNY」へ転換し共同運営をしていた。そのためにドンキはユニーに4割を出資した。

転換した店舗では売上高は56億円から109億円(今年3月~7月実績、転換前比較)へと成長を遂げた。また、ドンキは実験的にファミマとコラボしたコンビニもオープンしていた。そこにきての買収だ。

さらに、ドンキは、ユニー・ファミマにたいし、逆に2割の株式を売却する。これによって、イオン、セブン、ドンキ連合の三巨人の構図が生まれた。

ドンキは2007年に総合スーパーマーケットの長﨑屋を買収し、そこから食品販売のノウハウを培ってきた。もともと総合ディスカウンターは、お客の来店頻度をあげるのが課題だ。

そこで、ドンキは、食品を「驚安販売」することでお客を訴求し、他の日用品を「ついで買い」させる。そして、その非食品領域で稼いだ利益を、さらに食品仕入れに充(あ)てたり、あるいはプライベートブランド商品開発につぎ込んだりして、その優位性を高めてきた。

結果、ドンキは29期連続で増収増益を果たした。ユニー・ファミマとあわせ売上高4兆7000億円もの連合が誕生し、ドンキグループで見ても1兆円に達しようとしている。亜流の小売業者も、いまや日本有数の企業となった。

そもそもドン・キホーテの各種手法は、安田隆夫創業会長が、前身の「泥棒市場」なるディスカウントショップを運営する過程で偶然に見つけられたものが多い。たとえば、手書きのPOPは、氏が卸から廃盤品を大量に買い取って、そこに洪水のように手書きの商品紹介を付けたのがはじまりだった。

同社の看板でもある圧縮陳列も、置き場と倉庫がなかったため、苦肉の策として誕生した。また、深夜営業も、氏が夜な夜な荷解(にほど)きをしていた際に、通りすがりのお客から入店して良いかと声をかけられたためだった。

ドンキ1号店の開店以来、29期連続増収増益。2007年にはホームセンターのドイドやスーパーの長﨑屋を子会社化し、今年10月にユニーの完全子会社化を発表 ドンキ1号店の開店以来、29期連続増収増益。2007年にはホームセンターのドイドやスーパーの長﨑屋を子会社化し、今年10月にユニーの完全子会社化を発表

■「非合理の極限」で勝負するリアル店舗

おそらく、今回のユニー買収、ならびにユニー・ファミマからの出資受け入れは、次の狙いがある。

一つ目。海外展開を視野に入れたとき、ドンキ単独ではなく、海外進出で先行しているファミマと、そして親会社の伊藤忠商事のノウハウを摂取できる。ドンキは、日本と世界に軸足を置くとしており、すでに、米国(ハワイ、カルフォルニア)、シンガポール、タイなどに進出している。

積極的な買収などにより、海外事業の売上高は、1期前とくらべて82%も増えている。国内市場は中長期的に縮小が見込まれるなか、海外での拡大は必須だ。海外をにらみ、ドンキホーテHDは来年2月1日にパン・パシフィック・インターナショナルHDと名前を変える。

二つ目。以前のユニーへの出資4割は、現在の成功を考えると「低すぎた」可能性がある。ドンキ流で改善したものの、取り分が4割ということは、逆に6割分は手にできない。

近隣のドンキが痛手を食らうほどに好調のようだ。これでは小売ブランド間のカニバリゼーション(共食い)が生じてしまう。カニバリゼーションが生じても売上高全体があがればいい。しかし、それならば、買収してしまったほうが合理的な選択だろう。

三つ目。アマゾンエフェクト(アマゾンが多くの企業を窮地に追い込むこと)対策。各社ともネット販売にも進出しているが、やはりアマゾンに対抗できるかというと難しい。ネットで勝とうとしているというよりも、リアル店舗での強みを伸ばそうとしている。

ドン・キホーテは、システムをAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)に移行したほどだ。つまり、アマゾンの力を利用しながら、アマゾンとは別の土俵で戦うということだ。

私は、この三つ目こそ、ドンキの強みがもっとも活(い)きるのではないかと考えている。ネットが合理の極限までいくとしたら、リアル店舗は非合理の極限で勝負せねばならないのではないだろうか。

想像もしなかった商品と出会う喜び、驚き。それまで購入を検討すらしたことのなかった商品との遭遇。そして買い物自体の愉悦。パーティーグッズのフロントにTENGAが大量に並べられ、小さな女の子が手にとって、母親に用途を質問し赤面させる、といった光景はなかなか見られるものではない。

なお、ドン・キホーテの手法で、私たちが学べるものとして、商品の3D展開ともいうべきものがある。一般的な小売店が棚を2Dで見せるとしたら、ドン・キホーテは店奥までふくめて大量の商品を網膜に焼き付ける。

お客に対して棚を正対させる(左)のではなく、斜めにズラして配置(右)し、大量の商品を見せる お客に対して棚を正対させる(左)のではなく、斜めにズラして配置(右)し、大量の商品を見せる

ドンキの店舗に入ると、いかに多くの商品を見せるか工夫がなされている。たとえば上の図は店舗を頭上から見たものだが、一般的な棚配置にたいして、ドンキの一部店舗ではこう並べる。

は、丸い透明なプラスティック什器だ。こうすることで、歩くお客の視野により多くの商品が入ってくる。ドンキがプロデュースしたファミマの店舗も、レジ前にいたるまで、さまざまな「ついで買い」商品候補を溢(あふ)れさせている。

なお、これはデメリットもある。商品をたくさんもつわけだから、保有在庫は大きく膨らむ。売上高にたいする棚卸資産の比率をみると、ドンキは約15%になる。これはトップ小売業者とくらべても2倍以上となる。それは圧縮陳列ゆえの宿命ともいえる。

ドンキは、長﨑屋買収と、ユニー買収の大きな変化ゆえに「3度目の創業」といわれる。社名の由来となった小説の主人公「ドン・キホーテ」は、3度目の旅の果てに死んでしまう。あ、そうか、だから縁起でもないので名前を変えるのか。もちろんこれは陰謀論なので信じないように。

●坂口孝則(さかぐち・たかのり) 
調達・購買コンサルタント。日本テレビ系『スッキリ』コメンテーター。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。近著に『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038』。11月18日に最新刊『ドン・キホーテだけが、なぜ強いのか?』を発売予定