週刊プレイボーイで『経済ニュースのバックヤード』を連載中の坂口孝則氏 週刊プレイボーイで『経済ニュースのバックヤード』を連載中の坂口孝則氏

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか?

調達・購買というビジネスの舞台裏を専門とし、データ収集・分析を得意とする調達・購買コンサルタントの坂口孝則(さかぐち・たかのり)氏が解説する、『週刊プレイボーイ』の連載コラム「経済ニュースのバックヤード」。

今回は、月額定額課金「サブスクリプション」モデルを導入したYouTubeに関して解説する。

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Googleが広告なしに動画を視聴でき、スマホでもバックグラウンド再生が可能となる有料サービス「YouTube Premium」を日本でも開始した。無料試用期間3ヵ月が終わると、アンドロイドとiOSで、それぞれ月に1180円と1550円。さらに、有料の音楽定額配信サービス「YouTube Music」も開始した。

同社は数年前から「Google Play Music」を始めていたものの、スポティファイやアップルなどの後塵(こうじん)を拝しており、将来は「YouTube Music」に統合される予定だ。

これはつまり、いわゆる月額定額課金「サブスクリプション」モデルの本格的な導入だ。IT企業に先駆けてサブスクリプションを実現したのはNHKだと私はよく冗談をいうが、このモデルは非常に収益性が高い。ネットフリックスも、もとはDVDのレンタル業から始め、今や大企業になった。

現在、5Gネットワークの実験がさかんで、高質・低質含めて動画コンテンツ、ライブ配信が拡大するのは間違いない。さらに、サブスクリプション利用率は中年世代よりも、20代が高い。動画と音楽を押さえておこうというGoogleの戦略は理解できる。

私は残念ながらYouTuberデビューを果たしていないものの、同業のコンサルタントによると、いまだにYouTubeで企業動画をバズらせるセミナーは集客が期待できるという。

そこで紹介される方法のひとつは、すでに人気の動画とセットでミックスリストを作ること。それなら人気にタダ乗りできるからだ。全員メディア時代=YouMedia時代にあっては、動画ミックスリストや、楽曲プレイリストなどからバズ動画やヒット楽曲が生まれてきている。

ところで、私はGoogleのヘビーユーザーであり、有料サービスも「Google広告」、「Google Apps」から「G Suite」まで使用してきた。しかし、その不満は、課金と申し込みの煩雑(はんざつ)さにあった。残念ながら、やはりアマゾンの利便性が逆に輝くほどだった。

今回のネーミングにしても、「YouTube Premium」と「YouTube Music」の違いを理解していない人たちが多いのではないだろうか。とはいえ、今回、私はPremiumをiPhone経由でたやすく登録できた。あ、なるほど、iTunes経由だからか。

ともあれ、サブスクリプション課金で得た利益をコンテンツのクリエイターに還元できれば、質の高い配信が可能になるだろう。

ただ、あえて懸念点を述べる。スポティファイも、ネットフリックスも社会人層をつかんでいる。一方、YouTubeで再生回数を伸ばす中心層は幼児から10代だ。もちろん、 YouTubeもファミリープランを用意しているが、実際にお金を払う大人向けのコンテンツをどれほど用意できるだろうか。

しかし、一般ユーザーが危惧するのは、YouTube無料版の広告が長くなって、さらにスキップもできない状態になることではないだろうか。そんな露骨なことは、かつて「Don't Be Evil(邪悪になるな)」を規範としていた企業はやらないだろうけれど。

今、規範は「Do the Right Thing(正しいことをやれ)」に変わっている。あれが、YouTubeの右(Right)にある有料ボタンを押せという意味じゃなきゃいいけど。

●坂口孝則(さかぐち・たかのり) 
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。好評の9月発売刊『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019~2038』に続き、11月18日に最新刊『ドン・キホーテだけが、なぜ強いのか?』が発売