毎年1月に相次いで開かれる、アサヒ・キリン・サッポロ・サントリーの大手ビール4社の事業方針説明会。ここで各社は力を込めた新製品を発表することが多いのだが、今年はひとつ大きな特色があった。
第三のビール市場において昨年「本麒麟」で圧勝したキリンを除く3社が、まるで示し合わせたかのように、そろって「辛口・キレ」を売りにした第三のビール新製品を発表したのだ。
その狙いを、ビアジャーナリストの木暮亮氏はこう読み解く。
「アサヒビールの調査によると、ビール類に対する味嗜好(しこう)でキレ・刺激を求める人は今3割強いるといいます。おそらく他ビールメーカーの調査においても同様な傾向があるはずなので、今年は各社キレ重視の新商品が出たのでしょう」
各社が消費者のニーズに応じた商品開発を行なった結果、横並びの新製品となったのだ。しかしなぜ、いずれも看板のビールではなく第三のビールで勝負に出たのだろうか?
「今年10月に控える消費増税の影響が大きいです。『ビール酒造組合と発泡酒の税制を考える会』の調査によれば、消費税が10%に上がると、ビール離れの意向を示す人が3割います。その3割の節約志向層を狙って、酒税率の低い第三のビールを拡充させたのではないでしょうか」(木暮氏)
増税による消費の冷え込みを警戒しているというのだ。一方、経済ジャーナリストの片山修氏は別の要因を指摘する。
「社会不安が広がっていると、アルコール度数が高いお酒が飲まれやすい傾向があります。これは見たくない現実から逃避したり、憂(う)さを晴らすためにお酒が飲まれるためです。実際、アメリカのウォール街では株価が下がると強いお酒の消費が増えるといいます。
蒸留酒を混ぜて造る第三のビールは、安価かつアルコール度数が高いものが多いため、社会不安や経済の停滞感が広がる日本の現状とマッチしたのではないでしょうか。キレとハイアルコールは味の相性がいいので、それが今年の"キレ偏重"の一因になったとも考えられます」
時代のニーズと合致した第三のビール。しかし、2026年にはビール・発泡酒・第三のビールの酒税率が均一化され、ビールのみ今よりも安くなる予定だ。そうなった場合、消費者がビールへと回帰し、第三のビールは将来的に市場が縮小したり、消えてしまったりしないのか?
「酒税率が一本化されても、第三のビールは高価な原料である麦芽の使用率がビールに比べて低いため、価格差は多少残ります。節約志向の人は少しでも安いものを求めるため、第三のビール市場はなくならないはず。そのため、今のうちに各社が市場のシェアを取りにいったのではないでしょうか」(片山氏)
今年は辛口ビールをグイッと飲んで不安を吹き飛ばし、来年は景気のいい新商品が出ることに期待!