日本の農業の明るい未来を見いだすシリーズ「日本の農業はオレたちが元気にする!!」シリーズ、第2回は「ドローン」だ。
人手不足解決の手段として大きな期待を集める"空飛ぶ農業機器"は、農業をどう変えるのか? 安全面に課題はないか? 新たなイノベーションの実像に迫る!
■片手で持てるほど軽く驚くほど静か
日本の農業の前に大きく立ちはだかる壁のひとつ。それは「人手不足」である。
農業従事者の平均年齢は、1990年代には50代だったが現在は66歳を超えていて、人口は半分以下の約200万人になっている。明るい材料はほとんど見当たらないが、そこにひとつの光明がある。
それは「ドローン」だ。ここでいうドローンとは、農業用の無人マルチローター(複数の回転翼で飛ぶ航空機)のこと。
昨年10月、千葉・幕張メッセで開催された「第5回国際次世代農業EXPO」ではドローンが大々的に特集された。このEXPOは植物工場やITソリューションなど、農業に特化した科学技術の見本市で、毎回国内外から注目を集めている。
会場には2万人以上の農業関係者がつめかけた。ドローンを扱う各社のブースの中でも、入り口から近いひときわ入場者の目を引く場所に陣取っていたのが、株式会社ワールドリンク&カンパニーの販売店「スカイリンクジャパン」(以下、スカイリンク)だ。
「大げさではなくドローンが日本の農業を変える可能性があります」
そう語るのは、同社マーケティング・市場創出グループの寺口豪さんである。
今、ドローンの開発・製造は中国企業が最先端を走っている。なかでもDJI社は、シェア7割を誇るトップ企業だ。最も人気が高い農業用の機体は「Agras MG-1」(以下、MG-1)。スカイリンクはそれをはじめ、DJI社製ドローンの正規輸入代理店になっている。
「MG-1を手で持ってみてください」(寺口さん)
8枚のプロペラを持つMG-1は真ん中にタンクや飛行を制御する装置などを搭載し、クモのような形をしている。大きさは回転翼(ローター)の端から端までが、だいたい1.5m。そこそこの重さがあるように思えたので、両手でつかもうとすると、寺口さんは笑った。
「片手で持てますよ」
確かに、片手で機体の一部をつかんでみると、軽い。楽々と持ち上がった。MG-1の重量はバッテリー込みで10kgほどとかなり軽い。
「農薬を入れるタンクの容量は10Lあります。機体本体よりも重い荷物を運べるんですよ」
そう話す寺口さんの目の前でMG-1のデモンストレーションが始まった。
見学者が口々に「すごい」「へえ」とつぶやくのが聞こえる。機体が浮上し、ホバリングする様子はかなりの迫力で会場がどよめくのもうなずけた。
だが何より驚いたのは、その"静かさ"だ。
「目の前を飛んでいても会話ができるくらいの音しか発しないんですよ。エンジン付き無人ヘリコプターとは比べものにならないですよ。これなら近隣にも迷惑にならない」(寺口さん)
屋内でこの程度の音なら、実際の圃場(ほじょう・田畑や牧草地など)なら推して知るべしだ。しかし、このドローンがどう日本の農業を変えるというのだろうか。
■人力だと7、8時間はかかるところを10分!
筆者はさらに話を聞くべく、京都のスカイリンク本店へ向かった。
「昨日は東北に行って、数台MG-1を契約してきました。方言っていいですね」
出迎えてくれた酒井美佑さんは、同社でトップセールスを誇る辣腕(らつわん)営業パーソンだ。全国の農業地帯へ赴き、ドローンを導入することで何が変わるのかを農業従事者に日々解説している。
「無人で飛行する機械は基本的になんでもドローンと呼びます。農業用ドローンは農業を支援するドローンで、具体的には農薬や肥料の散布、データ収集ができるんです」(酒井さん)
こう言われると、なんだそれだけかと感じる読者もいるかもしれないが、農業用ドローンのスゴさはそのスピードと正確さだ。
「例えば農薬散布なら、約1ha(ヘクタール・100m四方)を10分もあれば散布できます。人力だと7、8時間はかかります。それに従来使われている農薬散布用の無人ヘリコプターの場合は、離陸させるまでに燃料を補充するなど最低でも5分は必要ですが、ドローンはバッテリーが充電できていればすぐに離陸させることができます」(酒井さん)
農薬を均等に散布する能力も備わっている。
「MG-1は、インテリジェントスプレーシステムを搭載しているので、飛行速度によって散布する農薬の量を自動で調節して、満遍なく散布できます」(酒井さん)
また、赤外線カメラを搭載したタイプのドローンなら、野菜の生育の状態など、農作物のさまざまなデータを収集することもできる。
広い圃場では、エリアごとに環境は微妙に異なる。日照の加減、風の強弱、土壌の性質など、たとえ同じ圃場でも細かく見ていけば条件はひとつとして同じではない。
その結果、生育にも微妙な差が生じ、エリアによっては水、農薬や肥料などの散布量を変える必要があるのだ。
さらに農家にとってはドローンが軽量、小型なことも大きな魅力のひとつだ。例えば農薬散布用のヘリは、小さくても全長3m以上はある。重さに至っては軽いもので40kg以上、重いものでは200kgを超す機体もある。こうした農業機械は、運搬のために軽トラに積むだけでも重労働だ。
それに日本の場合、自宅と圃場が離れているケースも少なくない。
「自宅から田んぼまで曲がりくねった細い道になっていたり、畦(あぜ・田と田の間に土を盛り上げて作った仕切り)もある。満足な足場を確保できないことは珍しくありません。
そんな所で、機械の準備をするのは難儀なんですよ。年を重ねた農家さんならなおさらです。でもドローンなら、折り畳みができる機体もあるし軽い。それに倉庫に入れても邪魔にならない。これ、すごく大事なんですよ」(酒井さん)
このドローンをはじめとしたロボット技術や情報通信技術を活用する農業は「スマート農業」と呼ばれ、今注目されている分野だ。
その背景には、日本も参加するTPP(環太平洋パートナーシップ)という経済連携協定がある。現在、アメリカ抜きの11ヵ国で締結されているが、協定を結んだ国との間で農作物の関税は撤廃や削減をされ、日本の農家は厳しい競争にさらされることになる。
「TPPのせいで、日本の農家は世界を相手に競争しないといけなくなってしまった。でも、人員は絶対的に不足している。そんな状況で食の安全を担保しながら効率化を進めるには、ドローン導入は不可欠だと思います」(群馬県の農家Aさん)