「持っている服の写真からAIが好みを分析しオンライン上に相性の良い服を探しに行ってオススメしてくれるアプリもあるんです」と語る齊藤孝浩氏

ファストファッションの台頭により、誰もが多様な服を安価で買えるようになった現代。そしてeコマースの進出などによって、アパレル業界は新たな変革期を迎えている。

『アパレル・サバイバル』を上梓(じょうし)したファッション流通コンサルタントの齊藤孝浩氏は、ITを駆使し、ショッピングや着こなしに関する消費者の悩みを解決することが求められていくという。果たして、アパレルのデジタルシフトは消費者にどんな影響を与えるのか。

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──現在、オンライン化が進むなかで、ショッピングにおけるストレスのどのような部分が改善されてきているのでしょうか。

齊藤 お店に行かずに済むという点はもちろんありますが、オンライン化によって消費者がスマホから事前に商品のリアルタイムな在庫情報を入手した上でお店に行けるようになったことは、ショッピングをより効率的にし、ストレスを減らしている一例だと思います。

在庫がないのにお店に行くような無駄足をなくせますからね。オンラインと店舗の情報を有効活用する動きは、国内でもユニクロなど大手で始まっています。

──海外視察もされていますが、欧米ではどんな事例が?

齊藤 アメリカやヨーロッパでは「ストアピックアップ」や「クリック&コレクト」といって、オンラインで注文と決済までが終わったアイテムを、自分が指定したお店に取りに行くことができるサービスが広がっていますね。商品を受け取る時間が短縮されるのも特徴です。

──日本でも、ユニクロやGUはすでにそうしたサービスを始めていませんか?

齊藤 はい。ただ、日本の商業施設は売り上げと連動した家賃契約が一般的で、欧米のようにオンラインで決済まで済ませて、店舗へは商品を取りに行くだけという、店舗の売り上げにならない受け取りサービスは商業施設の抵抗もあり、浸透しづらい現状があります。

そんな環境でも、顧客自らオンラインから店舗へ商品を取り寄せ、試着後に購入できるようにするなど、日本特有の商慣習に合わせた取り組みを始めているブランドもあります。

──なるほど。齊藤さんは、10年後のアパレル業界についても予測されています。ファッション消費を取り巻く環境はどう変わるのでしょうか。

齊藤 これまでアパレル業界は、消費者に対して売る局面までしか関わってきませんでした。しかし、これからの時代は、新たに買う服と手持ちの服との組み合わせの相性を考えることや、着用シーズン後の収納、メンテナンス、売却などの悩みにも寄り添う必要が出てくると思っています。

──ファストファッションの服は、つい買って増えてしまいがちです。その先どうするのか、という悩みはありますね。

齊藤 コーディネートのお悩みに関していえば、自分が持っている服の写真さえ登録すれば、AIがその人の好みを考えて1週間分のコーディネートを提案してくれたり、オンライン上に相性の良い服を探しに行き、オススメしてくれるアプリが日本でもすでに出ています。

──アパレルのAI活用もそこまで来ているんですか。

齊藤 そうです。ただ、洋服というのは100着持っていても、そのなかでよく着るのは30着程度だったりしますから、これからはその30着の好みをうまくAIが分析して、そこと新しい服との組み合わせを提案してくれるようになればもっと良くなると思いますね。今のテクノロジーの進化は、そうしたことも可能にすると思っています。

そして、持っていてもあまり着ない服に関しては、メルカリなどのフリマアプリで売ればクローゼットもスッキリします。クリーニングもオンラインで頼めますし、収納サービスも、ボックスに入れて倉庫に預けた服を自分のスマホから確認できるようになってきています。

──すでにけっこう便利なサービスが整っているじゃないですか!

齊藤 とはいえ、まだこれらのアプリやサービスは互いに関連してはいません。これらが将来的に連携するようになったら、消費者にとって非常に便利な循環ができるのではないかと思っています。

──なるほど。こうしたアパレルの未来を考えると、話題に事欠かないZOZOの動向からも目が離せないのですが。

齊藤 ZOZOもコーディネート投稿アプリの『WEAR』が大ヒットしています。投稿された大量のコーディネート画像をもとにZOZOTOWNで服を購入する流れは、月ベースで40億円もの利益を出しています。

──そうなんですか!

齊藤 ZOZOは確かに世間からいろいろな叩かれ方をされていますが、立派な企業だと思います。現在こうしたファッションテックの分野において、国内で最も人材を抱えているのは、関連会社のZOZOテクノロジーズです。

ZOZOは傘下に子会社としてIT専門の会社を設立し、従来のアパレル業界と給与体系を変えることで(引き上げることで)IT業界の優秀な人材を引き入れることにも成功しています。

こうした形での人材調達とテクノロジー開発が、今後はほかの企業も必要になってくると思いますね。4月に発表されたZOZOARIGATOなどの事業頓挫は、確かに飛ばしすぎた感が否めませんが、いったん踊り場に戻り、また新たな成長軌道を描くようになるのではないでしょうか。

──ZOZOが戦う相手はどこになるのでしょう。

齊藤 アマゾンと楽天ですね。アマゾンはあれだけの規模ですから、あとはプライム・ワードローブ(送られてきたものを試着してから購入を検討できるサービス)の商品がさらに充実すればかなりの強豪です。

また、アメリカではアマゾンのプライベートブランドのアンダーウエアがかなり売れています。日本の市場では本領をまだ全然出し切っていないんです。

──楽天はどうでしょうか。 

齊藤 楽天市場のほかに老舗ECブランドのスタイライフを吸収合併した楽天ブランドアベニューが脅威です。特に30~40代の女性、主婦の方からは支持が大きい。

楽天経済圏といわれるように、ポイントで買い物がしたい人を大勢取り込むことに成功しています。ZOZOに出店するブランドは楽天にも力を入れ始めており、現状、伸び率も上がってきています。

●齊藤孝浩(さいとう・たかひろ)
1965年生まれ、東京都出身。ディマンドワークス代表。ファッション流通コンサルタント。総合商社、欧州ブランド日本法人、アパレル専門チェーンなどに勤めた後、独立。現在はアパレル製造小売業型企業を中心に在庫最適化と人財育成を支援するコンサルタントとして活躍する傍ら、海外視察を頻繁に行ない、グローバルチェーンに詳しい専門家として多数の媒体にも寄稿。大学でファッションビジネス論の講師を務めるほか、投資ファンド向けのアドバイザー業務も行なう

■『アパレル・サバイバル』
(日本経済新聞出版社 1500円+税)
ITの参入により、既存の構造が大きく変わりつつあるアパレル業界。その流れは欧米から始まり、各企業は生き残りをかけて「来店」「試着」などの消費者が抱えるストレスをテクノロジーで次々と解決している。本書では、実際に著者が赴いた海外視察の様子をリポート。そして、メルカリやZOZOなど話題の日系企業についても成功の秘訣を解説。さらに、アパレル流通の革新者と共に、10年後のファッション消費の未来にも迫っている

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