国税庁は多国間協定による海外口座の個人資産把握に努めているが、イタチごっこは続く

「老後2000万円不足問題」もあり、社会保障の財源問題が注目されるなか、富裕層の資産の海外流出が加速傾向にあるという。富裕層を顧客に持つ金融アドバイザーの山口 聰(そう)氏がこう話す。

「昨年からキャピタルフライト(資産移転)の増加を見越し、クレディ・スイスやUBSなどの外資系プライベートバンク(PB)が富裕層の囲い込みを強化しています」

野村総合研究所によると、2017年末時点で金融資産の保有額が「1億円以上5億円未満」の富裕層は118万世帯(2000年時点では77万世帯)、「5億円以上」の超富裕層は8万世帯(同7万世帯)と、増加傾向。そこで今、国内外の金融機関の間で顧客獲得競争が過熱しているのだ。

「ターゲットは大きく2種類です。ひとつは間もなく70代を迎える団塊世代と、その子供の団塊ジュニア世代。親子間の相続の本格化を見据えて囲い込みが始まっています。

もうひとつは、2000年以降に台頭した"ニューリッチ層"。主に、自ら起業してIPO(新規株式公開)や事業売却で富を築いた20代から30代のIT長者ですね。多くの金融機関が今、彼らに群がっています」(山口氏)

国内の大手都銀や証券会社も営業部隊を増強するなど富裕層開拓に躍起だが、外資系金融機関には大きく後れを取っているという。税理士の奥村眞吾氏がこう話す。

「高税率の日本では相続財産や所得のおよそ半分を徴収されます。それに対し、国内の金融機関は自社の金融商品やマンション投資を勧めるくらいしかできませんが、海外のPBなら相続税も贈与税もないタックスヘイブンとのネットワークも強く、重課税を逃れる策を具体的に提示します」

資産の移転先としては、米国のデラウェア州やネバダ州、アジアならシンガポール、さらに近年はニュージーランドが人気だという。

「外資系PBは海外への送金サポートから現地金融機関の専属スタッフの紹介、そして移住希望者向けには物件仲介や子供の留学支援までやります」(前出・山口氏)

もちろん日本の国税庁も目を光らせており、近年は海外に5000万円以上の資産を持つ人に「国外財産調書」の提出を義務化。また17年には、約100ヵ国の税務当局間で口座情報を交換し合う多国間協定に日本も参加している。しかし、その効果は限定的だという。前出の奥村氏が言う。

「国税庁によると、国外財産調書の提出者は約9500人(18年分)。一方、実際にはハワイに口座を持つ日本人だけで7万人いるといわれており、明らかに少なすぎます。

例えば、シンガポールや香港などの金融機関では本名を使わずに口座を開設でき、資産が一定額以上あれば『こちらで用意した外国人名でも口座開設できます』と向こうから提案してくることもある。また、そもそも米国は多国間協定に参加しておらず、ネバダ州などに資産を移されたら今のところ国税庁は手も足も出ません」

逃れるほうも必死。対策は追いつくのか?