『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、国産液晶事業の衰退を招いた時代錯誤の驕(おご)りを指摘する。

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経営再建中の液晶パネル大手JDI(ジャパンディスプレイ)がついに772億円の債務超過に転落した。実質、破綻(はたん)だ。

JDIは経産省の主導で、不振の日立、ソニー、東芝3社の中小型液晶事業を統合して2012年にスタートした会社で、いわば「日の丸液晶」の最後の砦(とりで)とでもいうべき存在だった。

そのJDIが債務超過となり、今後は中国系ファンドの金融支援を仰ぐ予定だが、そのファンドが手を引く可能性もまだ残る厳しい状況だ。

報道によれば、25%を出資する官民ファンドの旧産業革新機構(INCJ)は筆頭株主から外れ、取締役9人も半数以上を中国勢が占める見込みだという。東芝メモリ、シャープなどと同じく、またひとつ、有力な日本企業が外国資本の傘下に収まるというわけだ。

8月9日のJDIの記者会見で、印象に残った経営陣のセリフがある。記者から経営不振の理由を聞かれ、「市場変化のスピードが予測を超えた」「(官民ファンドの支援があるから大丈夫という)甘えがあったかもしれない」と答えたのだ。

JDIは「リスクが高すぎる」という経済アナリストたちの警告を無視し、経産省の意向を受けて、石川県白山市にアップル製スマートフォン向け液晶の巨大工場を建設した。しかし、中韓勢との競争に敗れ、業績が悪化。

さらに次世代の有機ELパネルの開発でも、中韓勢が市場を席巻しているのに、いまだに製品を出荷できないほど後れを取って、お先真っ暗の状態だ。

経営陣のセリフから見えるのは単なる経営判断の誤りだけではない。「日本の技術は世界トップで、中韓などアジアの後発グループに負けることはない」という時代錯誤の驕りと経産省の「日の丸液晶」という戦略なき夢物語がこの大失敗を招いたということだ。

実際、中韓の企業は意外と底堅い。例えば、中国・ファーウェイ。米中貿易戦争でこの5月、米政府の禁輸措置対象リストに載ったにもかかわらず、今年上半期の売り上げは前年比23%増だった。

米制裁でグーグルのOS「アンドロイド」の関連機能が利用できないという危機も、迅速にグーグルアプリなどと互換性のある独自OSを開発し、乗り越えようとしている。

つい最近も、ブラジルが5Gでファーウェイを使うと宣言した。また、安倍政権の輸出管理強化で半導体チップ生産が危惧された韓国・サムスンも、ベルギーからのフォトレジスト調達に成功するなど、着々と内製化と調達先の分散化を進めている。

世界に網の目のように広がる経済的結びつきは人間の神経細胞のようなものだ。どこかの国の指導者が人為的にその鎖を切っても別の神経回路とつながり修復される。

今回の日韓貿易摩擦も、日本以外には代替品など作れないと侮って圧力をかけているうちに韓国が代替ルートを見つけ、日本が毎年2兆円以上稼いできた大切な輸出先を失うということになりかねない。

そろそろ、日本は自分がいつまでもトップで、中韓などより上だという夢から覚醒すべきだ。現実はほかの国々と良くて横並び、多くの分野で大きく出遅れている。博士号取得者の数も先進7ヵ国で唯一その数を減らし、国際特許出願数でも中国に抜かれるなど現実は非常に厳しい。

日本は技術二流国に没落寸前だと認識できないと、第2、第3のJDIが生まれるだけだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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