「結局、日本はもう後退戦に入っている。だからこそ、それを前提にした上で、どのようにしのいでいくかが今の時代に問われているんだと思います」と語るえらいてんちょう氏

「えらいてんちょう」なるハンドルネームをネット上で目にしたことはないだろうか? 「しょぼい起業」を合言葉に、「準備資金がゼロでも大丈夫」「食べていければ成功」などと説き、多くの支持者を持つ風変わりな青年だ。

インフルエンサーと聞くと、軽薄で地に足の着いていない印象を抱く人もいるだろうが、彼の生き方はその真逆だ。地元・池袋近辺に居を構え、イベントバー「エデン」も同エリアで経営。日夜、日本全国から多くの人々が集まっている。

そんな、えらいてんちょう(矢内東紀)氏がこのたび、「しょぼい自己啓発シリーズ」と題して、『ビジネスで勝つネットゲリラ戦術詳説』『静止力 地元の名士になりなさい』『しょぼ婚のすすめ 恋人と結婚してはいけません!』3冊を同時出版。それぞれ、「ネットを駆使したビジネスのノウハウ」「地域社会との関わり方」「結婚の仕方、続け方」について書かれている。

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──ネットではすでに有名人な"えらてん"さんですが、まず簡単に自己紹介をお願いできればと思います。

えらてん 1990年生まれの28歳で、実業家、コンサルタント、大学講師、YouTuber、作家をしています。そもそも出発点は起業家ですが、「朝起きられない」「満員電車がいや」など、起業の動機はすごく消極的なものだったんですね。

出身学部である慶應義塾大学経済学部には起業家が多いですし、一般的にも「起業」というと、もっと華やかなイメージがあると思うんですけども。

──確かに華やかなイメージはありますね。

えらてん その点、私の場合は「逃げの起業」で、最初に始めたリサイクルショップを皮切りに、学習塾やバーなど、専門性が高くない店舗の経営をしてきました。

そういった店舗経営のなかで蓄えた「都内でも家賃8万円で店舗物件って借りられるんだよ」「店に住むと安上がりだよ」といった知見を生かして書いたのが初の著作の『しょぼい起業で生きていく』でして、これがおかげさまでけっこう売れて、作家としても見ていただけるようになりました。

──同作は起業を「成功論」ではなく、「現実的に生きていく方法」として描いたところが新しかったと思います。

えらてん この本はもともと私から出版社に売り込んだもので、具体的に言うとツイッターで「出版してくれませんか」とつぶやいたんです。というのも、その頃、「しょぼい起業」について綴(つづ)ったブログにものすごく反響があって、僕に影響を受けて実際に起業する人が出てくるなど、熱狂的な支持者が増えたんです。すごく面白い現象なので本に残しておきたいなと。

──読者層は若い方が中心ですか?

えらてん 実は上の世代の人のなかにも「ビジネススタイルとして面白い」と思ってくださる人がけっこういたんです。具体的には、上場企業の偉い人や、雑務が多くて研究に手が回らない大学の先生などの、すでに"しょぼくなくなってしまった"人たち。

責任のある立場で仕事をしている方々はビジネスがいかに水物かを理解しているからこそ、需要がなくなれば仕事を失ってしまうとわかっているんですよね。そういう人たちに「身近なところで店舗を構えて、現実的に商売をしていく」=「しょぼい起業」という発想がウケたんだと思います。

──わかります。エリートほど「定年後は喫茶店を開きたい」とか考えますしね。

えらてん そうなんです。しかも、喫茶店というのが面白い。退職金の2000万円を運用して暮らしていこうとかじゃなくて、やっぱり社会のなかで仕事をしていたいと思うわけです。

でも、首根っこを誰かにつかまれているのはもういや。だからこそ、オーナー店長で、自分の目の届く範囲でやりたい。客に理不尽な文句を言われても、「おまえなんかもう来なくていい!」と言えますしね(笑)。会社員にはできないことですよね。

──とはいえ、喫茶店って大変ですよね。毎日開けなきゃいけないし、掃除も大変だし......。

えらてん それでも、人は喫茶店をやりたいんですよ。地域の人に必要とされたいという、よくわからない人間の非合理的な一面が出ていますよね。

──そういう、今までなら非合理的と切り捨てられていたものを再評価したのが、今回同時出版された3冊ですよね。今、話していただいたのは『ネットゲリラ戦術』や『静止力』の内容でしたが、例えば『しょぼ婚のすすめ』では、結婚というシステムをポジティブにとらえ直していますよね。

えらてん 結婚のことを「コスパが悪い」とか「悪しき風習」と言う人もいるけど、でも、その非合理性に救われることもあると思うんです。私は既婚者で、ふたりの子供がいますが、実際に結婚生活って大変なわけです。でも、必要なことというか。

──この本を読むと、結婚のハードルが下がると思います。世の中、恋愛結婚が正義みたいな感じで、相手のスペックについて考えてばかりだけど、「ふたりでいれば案外生きていけるから、ひとまず結婚しよう」みたいな(笑)。えらてんさん自身、奥さんと出会って2週間で入籍されていますよね。

えらてん 私は宗教の研究が趣味で、YouTubeには宗教関連の動画もアップしているのですが、結婚においてはイスラムの世界観に影響を受けているんです。会う前に親が薦める人と結婚しちゃう、みたいな。

最近では人権侵害のような扱いをされることも多いですが、私は古くからの慣習に違和感を覚えるのはすごく近代的な価値観じゃないかと思うし、だったら、むしろ「恋なんてしなくていいじゃん」と思うんですよ。

──知人の36歳男性は「国がお見合いをセッティングしてくれて、その人と半ば強制的に結婚しなきゃいけない状況のほうが楽」って言っていました。

えらてん 全部自分で決めるってアホらしいですよね。だいたい人間ってそんなに自分の意思なんてないんです。「どうしても、この人と結婚したい」なんてなかなか思わないですよ。

──とはいえ、子供をつくって社会を存続させていくのって大事なことですもんね。

えらてん 結局、日本はもう後退戦に入っているんです。少子高齢化がこれからさらに進むことを考えると、経済成長なんてしないし、ましてや「ジャパン・アズ・ナンバーワン」なんて時代はもう訪れない。

だからこそ、それを前提にした上で、後退戦をどうしのいでいくかが今の時代に問われているんだと思います。

●えらいてんちょう(ERAI TENCHO)
1990年生まれ、東京都出身。本名は矢内東紀(やうちはるき)。慶應義塾大学経済学部卒業。バーや塾の起業の経験から経営コンサルタント、YouTuber、著作家、投資家として活動中。2015年10月にリサイクルショップを開店し、その後、知人が廃業させる予定だった学習塾を受け継ぎ軌道に乗せる。2017年には地元・池袋でイベントバー「エデン」を開店させ、事業を拡大。若者の間で人気を呼び、日本全国で10店、海外に2店(バンコクと中東)のフランチャイズ支店を展開。昨年12月には初の著作『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)を発売し、ベストセラーに。YouTube『えらてんチャンネル』のチャンネル登録者数は約14万人(2019年8月現在)

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