米中貿易摩擦、日韓関係の悪化など、不安定な国際政治・経済情勢のあおりを受け、今年7月の企業倒産件数は前年同月比2桁増と急増。月間倒産件数は約800社、1日平均で約25社が倒産している計算だ。明日、自分や知り合いの会社が破綻してもなんら不思議ではない。
そのような厳しい経済情勢のなか、倒産研究・分析のスペシャリスト集団、帝国データバンク情報部が上梓(じょうし)したのが『倒産の前兆 30社の悲劇に学ぶ失敗の法則』だ。倒産した中小企業30社をケーススタディして失敗の要因を分析し、8つの「破綻の公式」を提示。成功をつかむためには、失敗から何を学ぶかが重要なのだ。
本書の執筆者である帝国データバンク東京支社情報部情報取材編集課課長・丸山昌吾氏と帝国データバンクデータソリューション企画部情報統括課課長・遠峰英利氏に聞いた。
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――破綻の公式は、帝国データバンク情報部が経験則として見いだしたものですよね。
丸山 「ヒト」「モノ」「カネ」の動きを見ることで、倒産の兆候をつかんできた経験から、倒産のパターンはこの8つの公式にほぼ収まると考えました。ごく最近の事例を挙げています。
遠峰 弊社では、「危ない会社を見分ける99のチェックポイント」というリストを随分昔からつくっているんです。「ヒト」(「社長」「幹部・従業員」)、「モノ」(「商品」「設備」)、「カネ」(「資金」「借入金」「担保」)、「その他」に分類されていて、具体的な危ない兆候を挙げています。
例えば、「ヒト」(「社長」)ならば、「ワンマン経営である」「経歴に一貫性がない」「過去に倒産歴がある」というような項目が並んでいます。
――具体的な項目にチェックをつけることで危険度を可視化できるわけですね。
遠峰 破綻の公式は、これらのチェックポイントと倒産した30社のケーススタディから導き出したものになります。
丸山 実際の企業倒産はいろいろな要因が複雑に絡み合って起こりますが、こうしたチェックポイントを心得ておけば、その予兆をつかむことができるのです。
――8つの破綻の公式について、簡単に説明していただけませんか?
遠峰 例えば、「破綻の公式1 業界構造、市況変化の波を打破できない」のケースとして、ステーキレストラン「KENNEDY」を展開していたステークスの事例を紹介しています。
一時は40店舗を出店していましたが、「いきなり! ステーキ」のペッパーフードが打ち出した「ひとりステーキ」「立ち食いステーキ」などの業界のトレンドに乗り遅れ、業績が低迷。2~5割の割引券の発行、新コンセプトの「ヌーヴェルケネディ」も出店していましたが、いずれも奏功せず、倒産に至りました。
ただ、ステークスが競合に負けた「いきなり!ステーキ」も最近は失速していますから、時代の変化への対応が遅れてしまっているのかもしれません。今の時代、どんな会社も常に一歩先を考えておかないと、破綻の危機がありますからね。
――「破綻の公式2 大ヒット商品が綻びを生む」「破綻の公式3 旧来型ビジネスモデルにしがみつく老舗は潰れる」「破綻の公式4 ベンチャー企業の急成長は急転落の序章である」「破綻の公式5 攻めの投資で上場企業が破綻する」も時代の変化を読み切れないことが原因となるケースですね。
丸山 「破綻の公式6 経営陣と現場の乖離(かいり)は取引先の離反の元」「破綻の公式7 信頼構築のためにトップが不正行為に手を染める」「破綻の公式8『倒産の兆候』はあなたの会社にも存在する」は経営の問題ですね。
――「破綻の公式3」のように老舗企業が倒産することもありますが、御社の調査によると、日本で100年以上続いている老舗企業は約3万3000社。毎年1000社以上が創業100周年を迎えているそうですが、多くの老舗企業は「旧来型ビジネスモデルにしがみついていない」ということなのでしょうか?
遠峰 日本の老舗企業の強さはそこにあります。時代の変化に対応して、創業当時から業種を変えている企業が多いんです。
――御社も来年で創業120年。老舗企業ですが、現在と創業当時の業種、業態はどのように変わっているんでしょうか?
丸山 弊社は信用調査会社として創業しましたが、当時の社名は帝国興信社、その後、帝国興信所に社名を変更しました。主な業務は企業の信用調査のほかにも結婚調査や雇用調査などの個人調査も行なっていました。そして、大蔵省銀行局からの依頼もあって、1964年から情報部が倒産企業の集計や調査を始めることになりました。
遠峰 その後、81年に帝国データバンクに社名変更。個人調査をやめて、企業の信用調査に注力するようになりました。また、同時に蓄積したデータを各企業に提供するビジネスも開始するなど、業界ではいち早くコンピューターを活用し、データベースを構築してきたことが大きな財産になっています。
――本書はどのような人に読んでもらいたいですか?
丸山 まず、一般のビジネスマンの方に手に取ってもらいたい。自分の勤めている会社、取引先の企業にどんな倒産のリスクがあるかを知っておくことは、万が一のために役立ちますからね。また就職、転職活動中の方にも参考になると思います。
遠峰 ユーザー目線でも有意義に読んでいただけます。ここ数年、一般消費者が被害を受ける事例が増えていますからね。旅行会社のてるみくらぶ、振り袖販売・レンタルのはれのひ、磁気健康器具販売会社のジャパンライフなどの倒産による騒動は記憶に新しいですよね。本書では被害者3万人、負債1000億円超を残して自己破産したケフィア事業振興会を紹介していますが、これも悪質な投資詐欺でした。
――計画倒産の予兆も見えてくるものなんでしょうか?
丸山 てるみくらぶの場合、「現金一括入金」「◯日まで振り込みの方限定」で旅行代金が格安になるという広告を出していましたが、少し考えれば明らかにおかしいことがわかりますよね。
遠峰 それから、CMを流している企業は信用できそうですが、必ずしもそうではありません。「破綻の公式4」で取り上げた格安スマホ「FREETEL」のプラスワン・マーケティングが破綻した要因のひとつが、過剰な広告宣伝費が利益を圧迫したこと。
業績が伸び悩むからこそ、博打(ばくち)的に不釣り合いな広告費を投じるケースもあるのです。危うい企業を見抜くためには、些細(ささい)なことにも注意を払い、監視するしかありません。
●帝国データバンク(TEIKOKU DATABANK,LTD.)
国内最大級の企業情報データベースを保有している帝国データバンクは、1900年創業の民間信用調査会社。同社情報部は中小企業の倒産が相次いだ64年、大蔵省銀行局からの要請で創設された。著書に『なぜ倒産』(日経BP社)、『御社の寿命』(中央公論新社)、『あの会社はこうして潰れた』(日経BP社)などがある
■『倒産の前兆 30社の悲劇に学ぶ失敗の法則』
(SB新書 850円+税)
成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には「公式」がある――。帝国データバンク情報部が長年にわたり、企業の信用調査をしてきて見いだした、企業が陥りがちな8つの「破綻の公式」とは? 急成長の裏にあった投資詐欺、急転落を招いた急成長、過剰な投資による破綻、粉飾決算や会計不正など、本書で取り上げられた30社はなぜ倒産してしまったのか? 破綻の裏にあった激動のドラマからケーススタディしていく!