値動きがなく、最低投資額は1万円、利回りは最低ラインで年利3%。こんな手堅い投資手法「ソーシャルレンディング」が今注目を集めているという。
どういうものなのか? そして、こんなオイシイ話に落とし穴ってないの?
* * *
■個人が企業にお金を貸す?
老後資金の不足問題が広く知られるようになって以来、投資に関心を持つ人が増えている。株やFX、仮想通貨、投資信託などのさまざまな投資手法が存在するが、そのなかでも最近注目を浴びている投資が「ソーシャルレンディング」である。
「ソーシャルレンディングとは、ネット上で個人が企業などにお金を貸し付け、所定の期間を経た後にあらかじめ定められた金利を受け取る投資方法です。日本では2008年から始まっていて、最近になって急速に市場が成長しています。人気がある案件だと、申し込みが殺到して一瞬で枠が埋まってしまうこともあるんですよ」
こう語るのは『投資2.0~投資型クラウドファンディング入門~』(スタンダーズ)などの著書があるファイナンシャルプランナーの藤原久敏氏だ。
「映画の製作費用や個展の開催費用などの寄付をインターネット上で募る『クラウドファンディング』が広まっていますよね。ソーシャルレンディングは、そんなクラウドファンディングの一種です。
インターネット上で有名なクラウドファンディングは寄付が中心なので金銭的な見返りはほぼありません。一方、ソーシャルレンディングは貸し付けなので金利がついて収益が発生します」
つまりソーシャルレンディングは、従来の貸金業を個人でもやれるサービスといえる。最新の調査によるとソーシャルレンディングの18年の市場規模は約2000億円。14年から5年間で市場規模は約10倍になっており、19年以降も引き続き拡大していく見込みだという。ではその仕組みは具体的にどのようなものなのか?
「ソーシャルレンディングには、『お金を貸したい個人』と『借り手(企業など)』を結びつける仲介業者が存在します。ここが貸付先候補の選定と、お金の受け渡しを担います。つまりユーザーは、紹介された案件のなかから投資先を選び、出資するだけで投資ができるわけです」
仲介業者が間にいるため、個人と企業がやりとりをする必要はないらしい。では仲介業者を経営しているのはどのような企業があるの?
「有名な業者としては『SBIソーシャルレンディング』が挙げられます。大手金融グループであるSBIグループに属していて、経営基盤やコンプライアンスといった面で信頼性が高い仲介業者です。取り扱ってきた案件の借り手には、不動産や太陽光発電などの事業者がいます」
SBIをはじめ、ソーシャルレンディング仲介業者は現時点で20社以上も存在している。では、投資家にとって、ソーシャルレンディング投資の魅力とは?
「少額投資で高利回りが期待できる点です。ソーシャルレンディングは1万円程度から投資を始められて、案件の内容次第で3~10%の利回りが期待できます。また、貸付期間が3ヵ月~1年程度と短い点も魅力といえるでしょう」
現在、銀行の普通預金の利回りは高くても0.1%程度なので、かなりの高利回りといえる。なぜそんな高い利回りが実現できるのか?
「実績が少ない海外事業、自然エネルギー関連といった目新しい事業は、信用や担保がないため銀行から融資を受けるのが難しい場合があります。必要資金が少額のものも同様ですね。そういった事業のなかから、優良な貸付先を仲介業者が見つけているのです」
あと、銀行からの融資以外にも、株式の発行やベンチャーキャピタルからの資金調達という手段もあるのでは?
「それも経営に介入されるリスクをはらみます。一方、ソーシャルレンディングなら基本、その心配もありません」
企業にとっても個人にとってもウィンウィンのように見えるが、個人の側から見てリスクはないのだろうか?
「預金ではなく貸し付けなので、相手が倒産したりお金を返せなくなったりすると、元本が返ってこない可能性があります。仲介業者が返済能力を審査してはいますが、実際に債務不履行になった案件も存在するのでリスクゼロというわけではありません。大半の案件は、約束どおり元本と金利が返済されますが、債務不履行の危険性があることは理解しておくべきでしょう」
せっかく投資をするなら、そんな数少ないハズレくじを引かないようにしたいところだ。危ない案件を避ける方法はあるのか。
「最低限気をつけるべき点さえわかっていれば、必要以上に恐れる必要はありません。初心者の方がソーシャルレンディングで投資をするなら、まずは実績が十分にある仲介業者を選ぶことが重要です。選ぶポイントとしては、債務不履行の割合が低く、経営基盤が安定している仲介業者を選ぶことです」
日本のソーシャルレンディング仲介業者のなかでも、比較的実績と信頼性があるものについては表にまとめた。ソーシャルレンディングを始めるなら、まずはこの表にある仲介業者から選ぶのがいいだろう。
「仲介業者を選んだ後は、紹介されている案件のなかから、ローリスクなものを選びましょう。具体的には、最低投資額が低く、貸付期間が短い案件です。最低投資金額1万円、期間3ヵ月程度が目安となります。
また、リスク回避という点では、お金を借りる業者が担保として不動産を用意している案件もオススメです。不動産担保があれば、何か問題が発生したときでも、担保を売却したお金が投資家に分配されるので、元本が丸ごとなくなることはありません」
少額・短期間・不動産担保。これらの要素を満たす案件であれば、リスクを抑えられるということだ。
「ほかにリスクを挙げるとしたら、株やFXと違って途中で売買できないという点です。ソーシャルレンディングで投資をしたら、あとは定められた期間が来るまで待つしかありません。
ただし、株やFXのように日々の値動きを注視して一喜一憂しなくていいという意味ではメリットともいえます」
■約1000万円稼いだ人もいる!
『1万円からはじめる投資 ソーシャルレンディング入門』(かんき出版)の著者であるSALLOW氏も、株やFXなどを経てソーシャルレンディング投資を始めたひとりだという。
「個別株や投資信託、債券、FXなどいろいろな投資に手を出していましたが、毎日価格が上下する投資商品の値動きを追うのに疲れを感じ、15年に本格的にソーシャルレンディングを始めました。
19年8月末時点での通算損益はおよそ950万円プラス。いくつかの貸し倒れも経験していますが、それでもトータルではプラスになっています」
SALLOW氏がソーシャルレンディング投資で収益を出すために気をつけていることは?
「一にも二にも『分散』です。仲介業者にしても案件にしても、ひとつに集中投資することだけは避けています。また、同じ不動産担保であっても、オフィス・住宅・商業施設といった不動産の使い道でも分散させますし、所在地でも分散させます。
投資先を分散すると、そのなかで問題が起きる案件に当たってしまう可能性は増しますが、万が一の場合に大きな損害を負ってしまうリスクは下げられますから」
資金を分散させることは、あらゆる投資の鉄則といわれているが、その点はソーシャルレンディングでも同様らしい。ではソーシャルレンディング投資ならではの特徴は?
「ソーシャルレンディングは、株などのように投資家同士が買方・売方に分かれて資産を奪い合うわけではありません。初心者もプロも対立関係ではなく、同じ案件の成功を願う協力関係にあります。一般的な投資の世界では初心者がカモにされてしまうことがありますよね。
しかし、ソーシャルレンディングではそのような心配はほぼありません。プロも初心者も同じ方向を向いて投資することになるので、ソーシャルレンディングは投資の再現性が高いという特徴を持っています。だから、初心者でも成功しているプロの投資をまねしてみるのが有効なんです」
おふたりの話を総合すると、ソーシャルレンディングは少額・短期間でも投資の結果を出せる上に、比較的ローリスクで、日々の値動きに惑わされることもないという点が人気の理由といえそうだ。
「お金を貸す、というのは古今東西を問わず、財を成すための有力な方法です。そんな投資に個人が参入できるソーシャルレンディングは、資産を構築する方法としてとても魅力的だと考えています」(SALLOW氏)
初心者でも始めやすい投資として、ソーシャルレンディングがこれから広まっていく可能性は十分にありそうだ。