ビジネスの目的を言語化、感じたことをまずは言語化、人生の夢を言語化、メモを使って言語化......。近年、世の中で声高に「言語化」の大切さが叫ばれるようになった(「言語化」でググってみれば一目瞭然だ)。
なぜ今、これほどまでに「言語化」が重視されるのか。そもそも「言語化」とはなんなのか。
発売前から予約でアマゾンのビジネス書ランキング1位、発売翌日に2刷、翌週には3刷で早くも計3万9000部(電子版の売り上げを含めれば4万部突破)となったデビュー著作『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』で、この問いに真正面から挑んだのがクリエイティブディレクターの三浦崇宏氏。
超人気漫画『キングダム』を「今、一番売れてるビジネス書」と再定義することで新たな読者層を掘り起こし、昨年も名古屋PARCOの「LOVE PARCO」やクラウドファンディング最大手CAMPFIREの「夢を諦めてはいけない」など、言葉を軸に鮮烈なメッセージを発信する広告で数々の現象を巻き起こした三浦氏がたどり着いた結論は――。
■広告クリエイティブの仕事の8割は「言葉」
――いきなり聞いてしまいますが、なぜ今「言語化」がブームなんですか?
三浦 今って"答えのない時代"だとよく言われますよね。社会の変化のスピードが早く、いくら数字だけを追っても、たったひとつの正解などない。そういう時代だからこそ、最初に仮説や理想を堂々と言語化して発信できたヤツが強いんです。
「俺はこう思う」って先に言い切って、新しい価値を提案できた人間や企業がリーダー、旗振り役になる。言葉が最強かつ最もコスパのいい武器なんですよ。
――しかし、言葉に関する本というと、広告業界ではコピーライターの人が出すイメージがありますが、三浦さんは専業のコピーライターではないですよね。
三浦 僕は、広告クリエイティブの仕事の8割は言葉だと思っているんです。世の中に出るポスターのコピーやCMのセリフを考えるのはコピーライターですが、そこに至るまでの企画書を書くのはマーケッターだったり、プレスリリースを書くのはPRプランナーだったりする。
コピーライターはオーケストラにおいて一番目立つバイオリニストみたいなものではあるけれど、実際はコントラバスもチェロも大事なんですよ。その比喩でいうと、クリエイティブディレクターの僕は指揮者で、過去にコントラバスとティンパニーとピアノの経験があります、みたいなイメージですね。
■面白さを伝える「言語化」にはノウハウがある
――三浦さんが「自分の武器は言葉だ」と自覚したのはいつなんですか?
三浦 この本には、小学5年生で実家が破産したときのエピソードを書いていますが、実はもっと前の話があって。
さすがに自分では覚えていないので、母親や先生に後から聞いた話ですが、僕、4歳のときに私立の幼稚園を受験しているんですね。そのとき、いじめっ子が、細くて小柄な子から大きな積み木を取り上げているのを見て、なぜか米軍ばりに武力介入しちゃったんですよ。いじめっ子から積み木を奪い返して、ガツンと頭に一発食らわせて(笑)。
そしたら、その子が流血しちゃって。当然、いじめっ子は号泣。やっちゃった僕も号泣。やられていた子もビックリして号泣。そこに先生があわててやってきて、「どうしたの?」と。
――絶体絶命すぎる!
三浦 そうしたら、急に僕だけめちゃくちゃ冷静になったらしいんですよ。で、「これは彼が積み木を取っちゃったのを僕が止めようとして、そしたら間違って頭に当たっちゃって」と、完璧な説明をしたと(笑)。4歳ですでに異常に言い訳の上手な子供だったみたいです。
――早熟すぎる言語化力!
三浦 その後も、小学4年生のときに作文で文部大臣賞を取ったり、中学時代も短歌で大きな賞を取ったりという感じで、やっぱり言葉に対しては異常な執着があったと思います。小学校時代には、エモ散らかした言葉を短文で叩きつける自分の文体の原型がもうできていたし。
――この本には明日から使える「言語化」のノウハウがたくさんあります。例えば、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』という映画の面白さを言語化するプロセスを、超具体的かつ実用的に紹介していたり。
三浦 あれは、自分も普段は無意識にやっていることで、実はあらためて書くとなったらかなり苦労したんです。ウサイン・ボルトにどうやったら速く走れるのかと聞いたら、「膝を速く遠くへ突き出すだけだ」と答えたというエピソードがあるんですが、それと似たようなところがあって。
自分の中であらためて因数分解してみたというか、「そういえば俺、膝を突き出す前に腰を動かしてるよな」といった具合に、丁寧に思考を再言語化してみたんです。
■「言語化」の技術があればあるほど思考は深くなる
――あれは文章を書くことを仕事にしているような人でも、目からウロコだと思います。しかし、そういうノウハウだけでなく、人間は「言語化」を通じて人生観や社会観を再構築できるというのがこの本全体を通しての強烈なメッセージですよね。
三浦 言語化というのは、自分対他人のコミュニケーションにも必要だし、SNSが発達した現在では「自分対社会」というより大きな規模で使うこともあるし、逆により内省的に、「自分対自分」という場面で使うことも多々あります。
人間は言葉以前に、「感じる」とか「思う」とか「悩む」とか、そういう脳の一次反応みたいなものがあります。僕が子供の頃に大人気だった『おぼっちゃまくん』という漫画で、なんとなくイヤな感じのことを「むんな気持ち」、逆にうれしい気持ちのことを「みんな感じ」と表現しているんですが、あれは限りなくその一次反応そのものを表現したものだと思います。
そういう反応を、"自分という他者"と共有するために言語化し、解像度を上げていく――例えば朝起きて「今日はなんかイヤだな」と感じたら、具体的にどういうことなのかなとか、なぜなのかなとか、言葉で丁寧に砕いていって具体化していくというプロセスそのものが、「考える」という行為だと僕は思っているんです。
だとすれば、自分の語彙(ごい)や、言語化のための技術があればあるほど、思考は深くなっていくと思うんですね。自分の人生の指針を決めるとか、理想を定めるとか、そういうときにも。
――それだけ言語化の大切さを説く一方で、この本の終盤近くでは、いきなり「そもそも言葉なんか、全部ウソなんだよ」と、ちゃぶ台をひっくり返すようなひと言が出てきます。これにはびっくりしましたけど、でも、このひと言があるからこそ、この本が誠実なものになっているような気がしました。
三浦 これはね、本当にそう思っている面もあるんです。言葉は大切だし、ものすごい武器になるけれど、なんでもできるわけじゃない。言葉にすることを突き詰めた先で気づかなきゃいけないのは、言葉にできないこと、言葉ではないことのほうが大事だっていうことなので。
僕はブランディングの仕事をしていますが、ブランディングって広告だけじゃできないんです。広告でできることは「宣言すること」だけ。環境にいいブランドです、じゃなくて、「環境に優しくなろうとするブランドです」としか言えないんです。それをブランドとして証明するのは、本当に環境にいいという事実と行動の積み重ねしかない。
でも、それは言葉が無意味だということじゃなくて、だからこそ言葉は重要なんです。自分のなりたい生き方、進むべき道を言葉で宣言した後に、その言葉に従って行動や事実を積み上げることで、自分を作り直すことができるわけですから。
●三浦崇宏(みうら・たかひろ)
1983年生まれ、東京都出身。博報堂、TBWA\HAKUHODOでマーケティング、PR、クリエイティブ部門を歴任し、2017年に独立。新規事業開発から広告まで幅広く問題解決を手がけるThe Breakthrough Company GOを設立し、PR/クリエイティブディレクターを務めている。昨年秋よりニッポン放送『ラジオ新大陸』のパーソナリティも務める
■『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』
三浦崇宏・著(SBクリエイティブ 1500円+税)
デビュー著作ながら異例の初版1万8000部、発売後1週間で累計3万9000部となり話題沸騰。SNSなどで誰もが言葉を気軽に発信できる時代、それでいて社会の変化のスピードが速く、"たったひとつの正解"がない時代に、自分の思考や理想、メッセージを正しく「言語化」することの重要性と、その具体的な技術を丁寧に伝授した一冊。読んで仕事に生かすもよし、自分を見つめ直すもよし。人生観や社会観がアップデートされること確実!