『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、スマホ決済の普及により多重債務者が増加する現状に警鐘を鳴らす。

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多重債務者が再び増加へと転じている。

貸金業法が改正され、上限金利の引き下げや融資額の総量規制が導入されたのは2010年のこと。この規制でピーク時380万人もいた多重債務者は17年には115万人にまで減っていた。ところが、この2年間でじりじりと多重債務者が増え、19年12月には120万人になってしまったという。

背景にあるのはスマホ決済の普及だ。ここ数年、ポイント目的でクレジットカードをスマホにひもづけ、QRコードでのショッピング代金はもちろん、光熱費や通信費などの生活費までも決済するケースが一般化している。

しかし、支払い代金がかさんでもリボ払いを選べば、毎月の支払いは定額で済む。ポイントをためるために複数のカードを使う人も多い。こうして買い物を繰り返しているうちにクレジット総額が膨らみ、気づけば多重債務者になっていたという人が増えているのだ。

まずいのは政府がその多重債務者の増加に拍車をかける動きをしていることだ。それは昨年10月、経産省が消費増税対策として打ち出したキャッシュレス決済による5%分のポイント還元策である。

還元に伴い、政府はカード会社に手数料の大幅引き下げを要請した。カード会社が中小の加盟店から受け取る手数料は5%前後と高額だ。そのままではいくらポイント還元をしても資力の乏しい中小企業はクレジット決済をしたがらない。

そこでポイント還元分の原資を国がカード会社に補填(ほてん)する代わりに、手数料の上限を一律3.25%に引き下げるよう求めたのだ。

だが、補填があったとしても手数料が下がればカード会社の収益減は避けられない。リボ払いの金利収入が収益のメインである欧米のカード会社と違い、日本のカード会社の収益は加盟店から徴収する手数料が中心で、その目減りは経営を直撃する可能性が高いのだ。

その防衛策としてカード会社が打ち出したのが、「リボ払いの推奨」だ。リボ払いの金利は15%前後と高額で、これならカード会社は手数料収入が減っても利益を確保できる。ただ、利用者にすれば、返済額に多額のリボ払い金利がさらに上乗せされるわけで、多重債務者が増えるリスクはさらに上がる。

さらに心配なのは、ポイント還元が今年6月末で終了することだ。そうなれば、ポイント目当てに一度に多額の買い物をする、いわば"駆け込みクレジット利用"が多発してもおかしくない。

その結果、クレジット残額が一挙に増えれば、返済に行き詰まった人の中から多重債務者がますます増える危険性がある。現在多重債務者は120万人にとどまっているが、ポイント還元が終わった今年夏から秋にかけ、その数は上積みされることになるだろう。

防止策として、政府はポイント還元が終了する6月以前からポイント目当ての駆け込みクレジット利用は危険だということを国民に広く注意喚起すべきだ。

また、手数料上限一律3.25%要請も撤回すべきである。本来、手数料はカード会社が独自に経営判断すべきもので、そこに国が介入するのは、官製カルテルである。

企業側も利益最優先のリボ払い促進キャンペーンを自粛すべきだ。これ以上、多重債務者を増やしてはいけない。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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