アベノミクスの"総本山"である日銀をコロナショックが直撃している。
2020年1月現在、日銀が保有する日本株は約28.5兆円。デフレ脱却を目的とする大規模な金融緩和政策の一環として、1回当たり700億円、年間では6兆円ものETF(株価指数連動型上場投資信託)買いオペを繰り返してきたためだ。
その結果、日銀はなんと上場企業の約5割で実質的な大株主(上位10位以内)となっている。
ところが、コロナショックで東証の日経平均株価はダダ下がり。3月6日の終値は2万749円と、年初来最高値となった1月17日の2万4041円からわずか6週間ほどで3000円以上も暴落した計算になる。シンクタンク研究員が言う。
「日銀が保有するETFの簿価(購入時価格)は日経平均株価で1万9000円前後。今はまだ2万700円台ですから、辛うじて含み益を維持できていますが、さらに下がって1万9000円を割るようなら、逆に含み損が発生してしまう。そうなると、日銀は巨額の債券取引損失引当金を積み立てないといけません。
日銀の最終利益はここ数年、5000億円台から7000億円台あたりを推移していますが、もし損失引当金が最終利益を上回る規模に膨らめば、日銀は赤字決算に転落することになります」
日銀の危機感はETFの買いオペパターンの変化にもはっきりと表れている。3月2日、日銀は買い入れ額を一挙に増額し、一回の取引としては過去最大となる1002億円分のETFを購入して証券業界を驚かせた。
「購入額だけではなく、買いのタイミングも様変わりしています」
そう指摘するのは、経済ジャーナリストの須田慎一郎氏だ。従来、日銀は午前中の取引で株価が0.5%下がると、午後の取引開始時にすかさずETFの買いオペを発動し、株価を支える動きを見せてきた。その押し上げ効果は0.2~0.3%とされる。
「そのため、証券業界には『午後1時の日銀』というフレーズもあったほど。午前の取引で株価が下がっても、午後イチの取引で日銀が介入し、相場が持ち直すという安心感が株式市場を活性化させてきたんです。
ところがこの3月に入ってからは、日銀のものと思われる大量の買い注文が午前から入るシーンが続いています。ゆったりと午後イチに買い注文を出して株価を支える――そんな横綱相撲が通用しないほど、株価下落の圧力が強くなっているんです。日銀の焦りは相当なものです」(須田氏)
最悪のシナリオは、日銀の赤字決算が積み重なり、純資産約4兆円を食い潰(つぶ)して債務超過になってしまうことだ。
「日経平均株価が1万6000円前後まで下がれば、ETFの含み損は4兆円を超え、日銀は債務超過となる。通貨を発行する中央銀行なので民間企業のように倒産することはありませんが、中央銀行が債務超過になったというニュースは外国人投資家の心理を冷やし、日本売りにつながる。
そうなれば、円安・株安・国債安のトリプル安となり、日本経済は不況なのに物価が上昇するスタグフレーションの局面に突入しかねません」(前出・シンクタンク研究員)
スタグフレーションの先に待つのはハイパーインフレ、つまり日本経済の破綻だ。禁断のETF大量購入に走った日銀は、コロナショックに耐えきれるのか?