「不動産の価値を、現金化できる点に見いだしていた時代は終わり。その土地をどう活用するか考える『不動産2.0』の時代となりました」と語る長谷川高氏

1月、東京23区で販売された新築マンションの平均価格(1戸当たり)は1億511万円と、バブルの余韻を残す1992年以来、27年ぶりの最高値をつけた。不動産市場の先行きは視界良好に思える。

しかし、これに異を唱えるのが『不動産2.0』(イースト・プレス)の著者・長谷川高(はせがわ・たかし)氏だ。デベロッパー勤務を経て法人・個人向けの不動産コンサルティングを手がける同氏は「従来の不動産の常識が通用しなくなりつつある。企業も個人も、不動産に関する知識をアップデートしないと生き残れない」と警鐘を鳴らす。

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──本書の帯には「不動産・投資・金融関係者、企業経営者必読」とあります。不動産事情の変化が、金融機関や企業経営者にも影響するんですか?

長谷川 大いに影響します。日本の経済界は戦後ずっと、不動産価格は右肩上がりで上昇するか、少なくとも価値が下がることはないという前提の下にビジネスを組み立ててきたんです。

例えば、銀行が企業に融資する場合、不動産を担保に取ってその評価額の約7割を融資するのが通例でした。企業は自社ビルや工場を担保にすれば比較的容易に資金を調達でき、それを原資に新たな事業に取り組み、利益を上げる。

そんな具合に、日本経済は不動産に対する信頼を基盤に拡大してきた面があります。ところが近年、肝心の不動産評価額が当てにならなくなってきました。

──どうしてですか?

長谷川 人口減少や高齢化によって、特に地方における不動産に対する需要が減っているからです。「○億円の価値がある」として担保に取っていた土地をいざ売ろうとしても、買い手が現れないという事態が起こっている。買い手のつかない不動産の評価額なんてなんの意味もありません。

最近、地方銀行の経営状態が良くないといった内容の報道を目にしますよね。これは、人口減少による経済収縮が起きている地方経済の一側面でしかありません。

──地方を本拠とする銀行や企業の先行きは暗そうですね。

長谷川 少なくとも、従来のビジネスモデルを転換する必要は出てくるでしょうね。地方金融機関にとって、今後は融資業務だけでは生き残っていけないと思います。

例えば、地元企業への融資と併せて経営のコンサルティングや販路開拓のアドバイスなども手がける、いわば「地域商社」のような役割に活路を見いだすことが不可欠でしょう。そうすることで、共倒れになるのを防ぐことができるんです。

──ビジネスモデルを変更すれば、不動産価値が低下しても地方企業が生き残る道はあると。一方で、地方に不動産を持つ個人はどうすべきですか? 

長谷川 一般の人が持っているような地方の不動産は、売買が難しくなりそうです。これからは個人でも、時代に合わせて不動産の見方をとらえ直す必要に迫られるでしょう。

今までは、不動産の価値を一定の額で現金化できる点に見いだしていたことが多かったと思います。しかしこれからは、地方の不動産は売れなくなることを視野に入れ、どう活用するかを検討する「不動産2.0」の時代になります。

具体的に考えるために、都会に生活基盤を持っている人が、売却できそうもない田舎の不動産を相続するケースを想定してみましょう。

──売れない上に、持っているだけで固定資産税を取られるかもしれないし、かなり困りそうです。

長谷川 売却し現金化することに重きを置くと、そういう考えになりますね。

でも、その不動産を活用するという視点からは価値を見いだせると思います。例えば、民泊を始めてみるのも一考です。私も熊本県天草市の島で民泊施設を営んでいます。過疎化が著しい上、交通の便も想像を絶するほど悪い、地元の人が不動産の流通を諦めているような場所です。

そんな地域で、海の近くの眺めの良い土地を格安で借り、地場の木材を使い費用を抑えて施設を造りました。実験のつもりで始めたのですが想像以上の好況で、アジアやヨーロッパから足を運んでくれる人もいます。

似たようなことを、相続した田舎の実家で始めたっていいわけです。初期投資が少ない分、そのほうが有利かもしれません。

──なるほど。とはいえ、民泊はおいそれとはマネできないケースだと思います。

長谷川 別に民泊じゃなくたっていいんですよ。大切なのは変化しつつある日本経済を前提に「手持ちの不動産をどうしたら活用できるか」と考え、日頃からアンテナを張って工夫することです。

ある過疎地域のマンションの大家さんは、周囲の物件が空室に苦しむなか、長いこと満室をキープしています。一日1食、飲食店の惣菜を入居者にサービスして、単身者を取り込んでいるんです。

お年寄りなどの単身者が多い一方、飲食店は少ない地域独自の事情をうまく分析していますよね。工夫次第で地方の不動産を生かす方法はあるということです。

それに、不動産の活用法は何も収益を上げることだけに限りません。今後は「自ら田舎の家に移住する」という選択肢も視野に入れるべきでしょう。

──それはなぜ?

長谷川 日本経済が衰退して、都市生活に必要なコストを負担できない人が増えるからです。地方では都会より物価が安いこともあり生活コストを抑えられます。

私が民泊施設を運営している天草では、食べ物を山ほどいただけるし、人的なつながりをつくれば暮らしやすい地域です。都会に住む人の移住先や心のよりどころとして、地方の不動産が価値を見直される可能性はあると思います。

──となると、地方の不動産価格も持ち直したりして?

長谷川 それはわかりませんが、取り巻く状況が変化して、低迷していた不動産の価値が上昇することは、これまでにもありました。日雇い労働者の街として有名だった山谷(さんや)地区(東京都)は、今では外国人観光客向けの宿泊施設が増えて、交通機関の利便性の高さもあって不動産価格が上昇しています。

時代の変遷とともに、不動産との正しい付き合い方も変わります。人口減少や高齢化で日本が未知の局面にある今、本書が不動産との関わり方を考える端緒になればうれしいですね。

●長谷川 高(はせがわ・たかし)
東京都出身。長谷川不動産経済社代表取締役。立教大学経済学部経済学科卒。株式会社コスモスイニシア(旧リクルートコスモス)にて、ビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わり、バブルの絶頂期からその崩壊と処理までを現場の第一線で体験。1996年に独立し、不動産及び不動産投資に関するコンサルティング、投資顧問業務を行なう。著書に『家を買いたくなったら』(WAVE出版)、『愚直でまっとうな不動産投資の本』(SBクリエイティブ)など多数

■『不動産2.0』
(イースト・プレス 1500円+税)
人口減少、供給過剰、信用収縮、IT、SDGs......こうした動きから、大転換期を迎えている不動産のマーケット。地方では「不動産がタダでも買い手がつかない」など大きな変化が起きており、東京の郊外でも同様の現象が見受けられるようになっているという。これまで信じられてきた不動産に関する常識がまったく通用しなくなる新時代をチャンスに変えるために、知っておくべき最新の不動産教養を説く

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