「経済のグローバリズムは終わり、ブロック経済化が進むはず。日本は、チャイナリスクに気づいた各国企業の生産拠点を呼び込みアジアの金融ハブになるべきです」と語るエミン・ユルマズ氏 「経済のグローバリズムは終わり、ブロック経済化が進むはず。日本は、チャイナリスクに気づいた各国企業の生産拠点を呼び込みアジアの金融ハブになるべきです」と語るエミン・ユルマズ氏

新型コロナの影響で日本経済の先行きは不透明だ。今年1月に最高値2万4000円台をつけた日経平均株価も、3月に一時1万6300円台に落ち込んだ後、もとの水準を取り戻せずにいる。

そんななか、「日経平均は30万円になる!」と力強く説くのがトルコ出身のエコノミストで『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する』の著者、エミン・ユルマズ氏だ。

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――本書のサブタイトルは「令和時代に日経平均は30万円になる!」です。率直に聞きますが、これ、ホントですか?

エミン 念のために言っておきますけど、今年や来年に30万円になるわけじゃないですよ(笑)。日本の株式市場のサイクルは約40年に及ぶ株価上昇の局面に入っているので、その間に日経平均は低くても30万円にはなるという見立てです。

――株式市場のサイクルって?

エミン 日本に証券取引所が開かれた1878年から現在までの株の値動きを検証したところ、日本経済は約40年かけて上昇してから23年間ほど下降し、その後また上昇するというサイクルを持つとわかったんです。

――1回のサイクルで株価はどれくらい上がるものですか。

エミン 1878年からスタートした1回目のサイクルで株価がピークをつけたのは1920年。297倍になりました。約23年の下降と戦後の株式市場閉鎖を挟んで、2回目のピークはバブル真っただ中の1989年です。株価は市場再開から225倍になっています。

――とはいえ、本書発売(2019年11月)後のコロナ騒動で、この予想も影響を受けるのは?

エミン 日経平均30万円の予想は、両サイクルから戦争などの特殊要因を除いた上で、控えめに見積もりました。だから、コロナ騒動があっても予想に変更はありません。

――控えめな予想だったとは! 1989年を前回のピークとすると、下降を挟み2012年あたりから上昇が始まる計算になりますね。

エミン サイクルの年数はあくまで目安。前後することはあります。ただ、サイクルが入れ替わるタイミングには、必ず人々の価値観を変えるような大事件が起こっているんです。今回の上昇は、シリア内戦をきっかけに始まったと考えています。

――シリアの内戦が、日本経済に影響を?

エミン 内戦で見えてきた、いわば「新冷戦」の構造が日本経済に影響を及ぼすんです。当時、アサド政権を支持したのは中国、ロシアなど。一方の反政権側支持はアメリカ、イギリス、フランスなど。

まるで、20世紀の冷戦の東西陣営そのものです。後のロシアのウクライナ侵攻(2014年)でも同様の対立が発生し、地政学的断層が明らかになりました。この新冷戦はアメリカと中国を主役に深刻化するでしょう。

――新冷戦が、ロシアでなく中国とアメリカの対立になるのはなぜですか?

エミン 新冷戦は、経済的覇権をめぐる争いだからです。中国はこれまで製造コストの安さを武器に、世界の工場の役割を果たしてきました。しかし、その安さのウラには他国の知的財産をパクって、研究開発費を浮かせている実態もあった。

さらに、自国の市場からグーグルなどアメリカのIT企業を締め出しておきながら、そのビジネスを模倣したバイドゥなどの企業をアメリカで上場させるという不公平なことをやっている。

それに待ったをかけたのがトランプ大統領です。中国製品に大型関税を実施して自国のコスト競争力を高めようとしました。さらに、21世紀の覇権のカギ、5G技術で有力なファーウェイを締め出した。米中貿易摩擦なんていわれていますが、実態は新たな冷戦です。

――コロナ騒動でも、トランプ大統領が"武漢ウイルス"と呼んだり、中国の高官が「アメリカがバラまいた」と発言したりと、両国がやり合ってますね。

エミン 今回、中国が民主化する見込みは薄いと各国に知れ渡りました。これを機に経済のグローバリズムは終焉(しゅうえん)に向かい、ブロック経済化や新冷戦の流れが加速するでしょう。そうなると、旧冷戦時と同じように、アメリカや西側諸国にとって日本の重要性が高まるんです。

――それはなぜ?

エミン 企業がチャイナリスクに改めて気づけば、アジア圏のビジネス拠点として日本を選ぶからです。というのも、日本は経済規模が大きく、中国が資金力で牛耳ることは考えづらい。ほかのアジア諸国では華僑が経済の重要な位置を占めている国もあり、チャイナリスクと完全に無縁ではありません。

日本企業は反日デモなどで痛い目を見たため、数年前から工場などの国内回帰を進めています。その点で、いまだに中国に軸足を置く外国企業より日本企業は競争上有利ともいえるでしょう。

その流れに各国企業が追随して日本に拠点を構えれば雇用も増え、国全体にも経済的な恩恵が生まれます。現在アジアの金融ハブを担うのは香港ですが、東京が取って代わる可能性もあると考えています。

――アジアの金融ハブになることで、どんな未来が?

エミン 東京に世界中の資本と優秀な人材、素晴らしい企業が集まります。この一流のリソースがつくり出す付加価値により、日本が抱える諸問題、例えば高齢化や年金問題なども解決できると思います。ただし、そうなるには、努力も必要なんです。

――努力というと?

エミン グローバルマネーを引きつけるための方法を、覚悟を持って考えるべきです。もし必要なら、徹底した規制緩和や改革を推し進める。例えば、特別区を設置して域内では日本語のほか英語も公用語にするとか。

――規制緩和や改革は、日本が苦手なことの代表という気もしますね。

エミン 実は日本には、どの時代にも改革を望む人がいて、外圧を口実に改革を実行してきました。黒船来航で明治維新が実現したようにです。今回のコロナ騒動は"第二の黒船"と思ったほうがいい。収束後、世界経済は一気に変わります。日本は生き残りをかけて改革に取り組むべきです。

――われわれは何をすべき?

エミン 個人的な備えとして、少しでも株式投資の勉強をしておくといいでしょう。株価は今後1年から1年半程度下げると思いますが、長期的には上昇の途上にあります。人生に一度のチャンスかもしれません。まずは勉強だけでも、第一歩を踏み出してみてください。

●エミン・ユルマズ
トルコ・イスタンブール出身のエコノミスト。1996年に国際生物学オリンピックで優勝。97年に日本に留学。1年後に東京大学理科一類に合格。東京大学工学部卒業、同大学院で生命工学修士を取得。2006年に野村證券に入社、投資銀行部門、機関投資家営業部門に携わり、2016年から複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。『日経マネー』『ザイFX!』『会社四季報オンライン』で連載を持ち、『日経プラス10サタデー』(BSテレ東)などのテレビ番組に出演

■『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』
(かや書房 1800円+税)
著者の分析によれば、日経平均を大きなサイクルで見ると、40年間上がった後に23年間下がるというサイクルがあるという。第2次安倍晋三内閣が本格的に始動し、米中新冷戦が始まった2013年に、日本は40年にわたる上昇サイクルに入った。世界はこれからどう動くのか? そこで日本はどうするべきか? 新しい時代の投資はどうあるべきなのか? トルコ出身のエコノミストが大胆予測する!

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