日経平均は3月19日に底を打ったものの、緊急事態宣言が発令されている間も株価は徐々に上がり続けていた。5月25日の全面解除後には、株価は急上昇を見せ、ほぼ半年前の水準に戻った。※日経平均株価の終値を基に作成

景気の悪化を示すデータが次々と出てくる一方で、なぜか株価は好調だ。日経平均は3月に一時1万6000円台まで落ち込んだものの、乱高下を繰り返しながら上昇を続け、6月8日には2万3000円台に回復。この不思議なバブルの行く末と、われわれが取るべき対策は?

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■今の株高は序章にすぎない

コロナ禍で景気が悪化するなか、株価はバブル気味だ。日経平均株価(以下、日経平均)は3月に1万6000円台まで落ち込んだものの、6月初旬には早くも昨年11月の水準である2万3000円台を取り戻した。その後多少の反発があったものの、6月中旬でも2万2000円台を中心にもみ合いが続いている。

なぜ、株価はスピード復活を遂げたのか? トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏に聞いた。

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――日経平均はコロナ発生前の水準に戻りました。とはいえ、生活や経済活動がコロナ前に戻ったとは思えません。なぜ株価だけが急上昇しているんですか?

エミン コロナにまつわる経済対策でお金が市場にあふれているからです。全国民への10万円配布のほか、企業や個人事業主向けに各種給付金、助成金が用意されるなど、さまざまな経済対策が実行されていますよね。

しかも、日本ではコロナ以前から日銀が異次元緩和を実施しています。これは市中に出回るお金を増やして意図的にインフレを起こそうという施策。つまり、日本はコロナ前からお金の流通量を増やしていたのに、それをさらに加速させたわけです。

直近では連日の続伸に反発して一時的に株価が下がる局面もありましたが、長期的に見れば現在の株高は一過程にすぎず、今後空前の株バブルが発生するとにらんでいます。

――実体経済が悪化しているのに、さらに株価が上がるなんてありえます?

エミン 「不況下の株高」などといわれていて、実はよくあることなんです。日本人はバブルというと80年代のイメージに引きずられてしまいがちですが、本来は必ずしも景気と連動するものではありません。

株価に限らず物の値段は、その本質的な価値のほかに需給のバランスで決まります。つまり「いくら払ってもいいからその資産を買いたい」という人が増えれば、景気と関係なく値段がつり上がるわけです。

そうして資産の価格が本来の価値より異常に割高になった状態が「バブル」。今は市場にお金が余っているので、株を買いたいというニーズが強くなっている。これがバブルを引き起こすわけです。

――でも、こんな不景気なのに、お金を運用したいという気持ちになぜなるんですか? 貯金でもいいですよね。

エミン 寝かせておくとお金の価値が減るから、リスクを取って運用するんです。

市中に出回るお金の量が増えると、通貨の価値が低下してインフレが起こります。私は、将来的には日本で年間3~5%程度のインフレが起こると予測していますが、もしそうなれば預金をしているだけで毎年数%ずつ資産が目減りすることになるわけです。

■バブルで格差はより広がるのか?

――投資先にはほかにも多くの選択肢があるのに、株がバブルになるのはなぜ?

エミン 資産の中でも、株は有利な条件がそろっているからです。日銀は異次元緩和の手段として株を購入しており、さらに最近、社債の買い入れも決めました。これは、企業に公的資金を注入して支えているに等しい。だから企業への投資には一定の安心感が広がっているんです。

さらに、不況下で始まった株高はバブルにつながりやすい。株価が上昇を始めた頃は「なぜこんな景気で?」と多くの人が違和感を抱きます。そんな人も、経済が回復し始めると「あの不景気でも株価が上がった。今なら」と株を買い始める。すると、株価上昇が加速してさらに人が群がり、バブルになります。

――とはいえ、バブルはいつか必ずはじけますよね。

エミン 正確な時期まではわかりませんが、日銀が異次元緩和をやめて、市中からお金の量を減らす金融引き締め策を始めたらこのバブルは一気に崩壊するでしょうね。

――バブル崩壊に巻き込まれるのは怖いから株には手を出しづらい。でも、寝かせておくと預金は目減りする。では、われわれはどうすればいい?

エミン 資産を増やしたければ株式投資はマストですが、全財産で株式投資をしなくてもいい。重要なのは資産をインフレから守ることで、選択肢はいろいろあります。

例えば、私の出身国のトルコではおばあちゃんが金のブレスレットをいくつも身につけています。これはインフレに悩まされているトルコ人の知恵。たとえ通貨が信用を失って価値が暴落しても、金の価値は大きく変わらないからです。このように金に連動する金融商品を買っておくのは簡単にできる対策です。

――ほかには?

エミン 逆説的に聞こえるかもしれませんが、今のうちに固定金利で借金をしておくのもいいですね。現在は史上まれに見る低金利。おトクに借りられる上、今後インフレになったらインフレ分は借金がチャラになったのと同じです。家を買ったり自分の事業を拡大するために使えば、資産価値の維持に役立ちます。

――不景気になるかもしれないのに借金はためらいますね。

エミン 借金に抵抗があるなら、例えば今回配られた10万円を自己投資に使うというのもよいでしょう。資格を取得したりすることも、十分将来の資産増大に役立ちます。とにかく、これからはお金の価値が低くなるわけですから、投資になるような消費行動を心がければよいのです。

――なるほど。では最後に、不況下の株高で投資家はより資産を増やすわけだから、今後起きるバブルで格差はより開くのでしょうか?

エミン 当然そうした動きが一時的には進みますが、経済的弱者の救済策が今後より充実するはず。というのも、リーマン・ショックのときにあくどい方法で儲けていた金融機関を公的資金で救った結果、庶民が犠牲となりポピュリズムの台頭につながったという過去の反省があるからです。

その過ちを各国のリーダーは繰り返さないでしょう。希望を捨てず、賢く当面の苦難を乗り切るのが大切です。

●エミン・ユルマズ 
トルコ・イスタンブール出身のエコノミスト、為替ストラテジスト。2006年に野村證券に入社し、投資銀行部門、機関投資家営業部門に携わる。2016年から複眼経済塾の取締役・塾頭に就任