■デリバリー専門の飲食店が増える可能性も
ひと昔前は「出前」と呼ばれるフード宅配サービスは、たまに利用する程度のものだった。それが数年前のUberEatsの登場により、アプリひとつで簡単に注文できる時代に。そしてコロナによるステイホームがきっかけで一気に需要が増加。今や一般的なサービスとして定着しつつある。
そんなデリバリー業界の今後に関して、さまざまな業界を調査しビジネスモデルを分析するビジネスリサーチ・ジャパンの鎌田正文氏はこう分析する。
「国内の外食や中食などの出前市場の規模は、2018年のデータによると4084億円(エヌピーディー・ジャパン調べ)。一方、アメリカの市場規模は日本をはるかに上回り、2019年の規模は530億ドル。日本円に換算すると6兆円ほど。
UberEats1社だけでも取扱高が80億ドル(2018年)から145億ドル(2019年)と急伸しています。アメリカでフードデリバリーのビジネスがこれだけ大きなものとなっていますから、今後日本でも市場は大きくなっていくのではないでしょうか」
しかし、サービス自体は便利なものだが、デリバリーには当然、配達手数料がかかる。例えばUberEatsの場合、マクドナルドのてりやきマックバーガーセット(640円)を注文すると、近くのお店からの注文でも配送料込みで1000円以上だ。
「UberEatsの場合、料理を運ぶ際にお店側に商品の価格の30%前後を手数料として請求します。手数料を取られると店側は利益が出ないので、多くのお店では通常価格よりUberEatsで注文するときの価格を高くしている。こうして高くなった価格に配送手数料がプラスされるため、利用する人にとってはけっこうな負担になります」(鎌田氏)
それでも現在、利用者は急増中だ。
「コロナをきっかけにテレワークを導入する企業が増えましたが、自宅での仕事でネックとなるのは食事です。仕事中に自炊はちょっときついし、たまにはおいしいものも食べたくなる。となると、ランチタイムにちょっと贅沢(ぜいたく)する感覚でデリバリーを頼みたくなるものです。
最近では新たにデリバリーサービスを始める企業も登場しています。こうして多くの企業が業界に参入すると、手数料の値下げ合戦が始まる可能性があります」(鎌田氏)
さらに、料理を提供するお店側にも変化が表れるのではと鎌田氏は推測する。
「多くの収益を上げるために駅の近くなど、できるだけ人通りの多い立地に客席スペースの広い店を構える、という常識が今後は崩れていくと思います。3密を避けることを考えると、客席に人をびっしり入れることはできないため、客席で飲食するスタイルは収益性が低くなる。
だったら、駅から離れたテナント料の安い場所に店を構えてデリバリー専門で営業したほうが効率はいい。効率が上がれば料理の価格も下がって、利用しやすくなります」
今後は「お店の料理を食べる」=「フードデリバリー」という流れが生まれてくるかもしれない。
■一番気になる配達員の質は?
コロナ後にデリバリーサービスがさらに一般化していくとすれば、よりお得に賢く使いこなしたいもの。そこで、UberEatsのサービス開始当初から配達員を務め、4月より始まったmenuデリバリー事業立ち上げの際は運営側にアドバイスを行なったYouTuberのヒカリマン氏、そして出前館、menu、UberEatsの配達員をかけ持ちしているB氏や、前出の鎌田氏に、デリバリーの現状や分析に加えて、配達の裏事情をインタビュー。それぞれのサービスやアプリを効率よく使いこなすテクニックなどを探ってみた。
まずは、デリバリーサービスの筆頭というべきUberEats。最近は高速道路を自転車で走る動画がニュースになったり、歩道を猛スピードで駆け抜ける姿がSNSで拡散されるなど、配達員のマナーの悪さが目立つが......。
「自分が配達員になった頃は、配達員になるための説明会をネットで予約して、指定された日時に会場で仕事の説明や配達に関するレクチャーを受け、配達員用のバッグを受け取ってから仕事を始めるという流れでした。
ところが、コロナの影響で説明会の会場が閉鎖されてからは、配達員用のアプリを自分でダウンロードしてバッグをAmazonで買えば誰でも配達員になれますからね......」(ヒカリマン氏)
研修を行なわないことが質の低下を招いていると?
「menuもアプリをダウンロードしてバッグを購入したら始められ、UberEatsと変わらないので、そこは一概には言えません」(ヒカリマン氏)
出前館については、B氏がこう話す。
「出前館には2種類の配達員がいます。時給制のアルバイトと、UberEatsやmenuのような個人事業主の配達員です。どちらも各地の配送拠点に所属し、仕事についてのレクチャーを少しは受けますから、UberEatsやmenuよりはしっかりしていると思います」
では、ファインダインやdデリバリーは?
「ファインダインは、宅配ずしの『銀のさら』と同じ運営会社。dデリバリーは、出前館と業務提携をしているので配達員の質は問題ないでしょう」(鎌田氏)
研修を皆が受けていて、より丁寧に運んでくれそうなのは、出前館、ファインダイン、dデリバリーあたりのようだ。では、配達のスピードはどうか? B氏が各社の事情を教えてくれた。
「menuは、注文が入ると近くにいる配達員に一斉に依頼を出し、一番早くスマホの操作をした人が仕事にありつけるシステムなので、注文から配達員が決まるまでのスピードが速い。
また、UberEatsは依頼を受けると、お客さんに配達員の現在位置が表示されるシステムになっているので、配達員さえ決まれば料理が早く届くと思います。
ただ、出前館はたくさんの料理をかけ持ちで配達可能なシステムなので、時間がかかるときがある。配達員のケースの中にはAさんの家に届けるハンバーガー、Bさんの家に届ける牛丼、Cさんの家に届けるカレーのように、いろんなお店から受け取った商品が5、6品入っていたりする。
しかも、Aさんのところへ届けた後、Bさんの家に行く途中で新たに注文が入ると、Bさんのところへ行く前にお店に寄り道することも。なので、注文が多い時間帯だとものすごく時間がかかる場合があります」
昼休みなどの決まった時間に食事をしたい場合は、出前館やdデリバリーの利用には注意が必要なようだ。
■この業界の未来を握る意外な企業とは?
肝心な料理のバリエーションはどうか? 加盟店舗数は出前館とUberEatsが多いが、4月から参入したmenuの店舗リストには銀座久兵衛など名店の名前も見かける。ファインダインも高級レストランの料理が味わえることを売りにしている。
「すでに業界で台頭している出前館やUberEatsに対抗するには『ここでしか注文できない!』というラインナップが必要不可欠です。後発なので、ほかとの差別化を図る戦略でしょう」(鎌田氏)
現在のところ出前館とUberEatsが2大勢力となっている日本のフードデリバリー業界だが、将来はどうなっていくのか?
「このふたつがさらに大きな勢力となるでしょうが、気になるのはソフトバンクの動き。実はソフトバンクはUberEatsに出資しています。そして昨年、LINEを実質的に買収しましたが、出前館とLINEは先日、資本提携をしたので、出前館もUberEatsもソフトバンクの資本が入った企業になるわけです」(鎌田氏)
資本提携がユーザーにとってどんな影響を与えるかはわからないが、白い犬とダウンタウンの松本人志さんが、上戸彩さんの家まで食べ物を届けるというCMが近いうちに見られるかもしれない!?