定着しつつあるリモートワークだが、上司からメールやビデオ通話で怒られて、「これなら対面で怒られたい」と嘆くサラリーマンが相次いでいるという。一方、上司は上司で悩みがあるようで......。両者の言い分を聞いた。
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■ビデオ会議で公開説教される
リモートワークを導入している企業では、「満員電車に乗らなくて済む」「子育てや家事と両立できる」といった好意的な意見も多いが、オフィスに出勤しなくなったことで新たな悩みのタネが生まれている。それが、リモート下での説教だ。
「上司と顔を合わせて怒られることがなくなったから気がラクですよ。スマホをイジリながら説教を聞いてます」(20代男性)とうそぶく若手社員もいるが、IT企業勤務のAさん(30代男性)は「ひとり暮らしの自宅で怒られるくらいなら会社で詰められたほうがよっぽどマシ」と断言する。それはなぜ?
「在宅勤務が始まって以降、説教グセのある上司から毎日のように電話でお叱りを受けるようになりました。会社にいたら近くの席の誰かがフォローしてくれたり、同僚と話して気分転換ができるのですが、自宅だと電話を切った後にひとりで感情を整理しなければなりません。孤独感が際立ち、気がめいっています」
上司からの電話が終わった後は、しばらく放心状態になっているとか。
「時にはモノに当たってしまうこともあります。同僚に愚痴を聞いてもらったり、喫煙所で仕事と無関係な話をするのが意外とストレス解消になっていたことにあらためて気づきました」
デザイン事務所に勤務するBさん(20代男性)は、メールで怒られた後の謝り方に悩んでいる。
「メールだと、上司がどれくらい怒っているのか把握しづらいんです。
ある日、『これはダメだよ』と短文が届いたので、ささいな指摘をしているのかと思って『はい、気をつけます』と返しました。しかし、どうやら上司はかなりそれを重要視していたようで......。すぐに長文で説教メールが届きました」
上司から何か指摘を受けた際にどの程度怒っているのかわからない場合、とにかく低姿勢で丁寧に謝ったほうがいいだろうとBさんは考えた。ところが、この対応が新たな説教のもとに......。
「『このたびは自身の未熟さからこのようなミスをしてしまい大変猛省しております』といった感じで念入りに謝罪したときは、『おまえの謝罪には心がこもっていない』と返されることもありました。最近では説教メールの文面を何度も読み返して上司の怒り具合を推測し、謝罪文を推敲してからメールを返しているのでとても疲れます。
対面であれば謝るときの声色や、うつむいたり、汗をかくなどの態度でいかに反省しているかを伝えられるんですが......。こんなよけいなことを考えなくても済む、対面での説教が正直恋しいです」
続いては、食品会社勤務のCさん(20代女性)のエピソード。
「4月に配置転換があり、新しい上司の下に配属されたのですが、メールがとても短文で冷たいんです。新しい企画の提案をしたときも『作り直して』とバッサリ。『パソコンの前でどれくらいカンカンに怒っているのだろうか?』と気を揉(も)んでいます」
尾を引くこんなメールが届いたことも。
「取引先に企画提案をしたとき、私の連絡不備で先方に迷惑をかけてしまったのです。すると上司から『ありえないミスだよ。詳しくは直接会ったときに』とだけ書いたメールが。出社したときに怒られることが確定しているのでとても憂鬱です」
このリモートワークで一気に利用頻度が上がったビデオ会議でも、ツラい説教が発生している。人材会社に勤める、20代女性・Dさんの声だ。
「うちの会社では、ビデオ会議から退室する際には『お疲れさまです。失礼します』とひと声かけるのがルールになっています。ところが、会議が終了したタイミングで上司が『そういえばキミさあ』と説教を始めてしまったのです。出席者たちが退出の挨拶をするタイミングを逃して気まずそうな顔をしているなかで、延々と説教をされました」
もはやリモート公開処刑! その間、会議の出席者たちは何をしていたの?
「同情するような表情を画面に向ける人や、なかには画面をチラチラ見ながら別のタスクを始めている人もいました。叱られている様子を見られる恥ずかしさとメンバーの時間を奪っているという申し訳なさで、いたたまれない気持ちになりました」
この春入社した新卒社員の中には、まだほとんど出社経験のない者もいる。今年大手商社に入社したEさん(20代男性)は、オンラインで受けた研修で「リモート怒られ」を経験した。
「在宅だと仕事をしているという実感が湧かず、学生気分に戻ってしまうことがあるんです。上半身だけスーツ、下半身はパジャマで研修を受けていたら、人事にバレてキツく怒られてしまいました。あまり面識のない上司に怒られるっていうのは、かなり怖かったですね」
■リモートで怒る側も意外と大変だ!
ここまでリモートでの説教に悲鳴を上げる人々を見てきたが、その一方で、実は上司たちも慣れない環境での叱り方に頭を悩ませている。多くの部下を束ねているIT企業役員のFさん(50代男性)は「リモートワークでの怒り方がいまだにつかめない」と困惑する。
「部下がミスをしたのでメールで問題点を指摘したのですが、読み返してみるとあまりにも長文かつ理詰めの文章になっていて、受け取った側はつらいだろうなと思いました」
フォローのためにとFさんは部下に電話をかける。
「話してみたら、想像以上に部下があっけらかんとしていたのでついまた怒ってしまい、切った後に再び反省しました。対面とは違って、後からフォローがしづらいのが悩みどころです」
こちらは、少し心配性な金融系勤務・40代男性のGさんによるエピソード。
「目の前に部下がいないので、サボっていたり、はたまた何かで悩んでいないかと気になって、ついついあれこれ言いたくなってしまいます。かといって傷つけてしまいハラスメント認定されたり、うっとうしがられるのも怖い。注意すべきかどうかを考えすぎてしまいます」
怒る側も怒られる側も悩みが尽きないが、お互いがうまくコミュニケーションを取るにはどうしたらいいのだろうか? 『恥をかかない コミュマスター養成ドリル』(扶桑社)などの著書があるコラムニストの石原壮一郎氏に聞いた。まずは上手な叱り方から。
「リモートワークの推進によって、対面せずに指導する機会が激増しました。こちらの意図を声のトーンや表情で伝えにくくなった分、部下は普段よりも指導を重たく受け取ってしまいがち。必要最小限なことだけを注意するように心がけましょう」
では、その伝え方はどう工夫すればいい?
「できる限りクッション言葉を挟むのがいいでしょう。例えば、『いつもとは違う環境でも頑張ってくれてるのはわかってるんだけど』とか、『成長してると感じるけど、こうすればもっとよくなる』といった感じで、叱る前に少しホメる。そうすると部下も、ただ怒られただけだとは感じません。
また、電話で叱る場合はすぐに本題に入らず『お昼食べたか?』などの雑談を挟むのも効果的。怒るにしてもいきなり電話をかけるのではなく、予告しておくのも有効です」
では、リモートで怒られたときの理想の謝り方は?
「これまで見てきたように、上司も上司でリモートワークでのコミュニケーションに不安を感じています。そんな心情をくみ取って『指導に感謝している』という姿勢を見せるだけで十分でしょう。
具体的には、『すみません』という謝罪に加えて、『指摘してくださってありがとうございます』『○○さんの下でよかったです』などの一文を添えるのがオススメです」
怒る側も怒られる側も、心持ちと伝え方ひとつで結果は大きく変わってくると。
「上司だって、部下を困らせてやろうと思って怒っているわけではありません。慣れない環境のなかで仕事をうまく回そうとお互いに苦心しているということを両者が念頭に置き、歩み寄る気持ちを持つだけでずいぶん違ってくると思いますよ」