長髪にサングラス、そしてド派手でサイケデリックなファッションは、まるでロックスター。この御仁は誰かといえば、最近の高級食パンブームの仕掛け人として名を馳せている、ベーカリープロデューサーの岸本拓也氏である。

ファッション同様その発想と手腕は非常にユニークで、一番顕著なのは、その店名にあるだろう。『考えた人すごいわ』『だきしめタイ』『わたし入籍します』『キスの約束しませんか』......。

ほんの一部ではあるが、これらすべてパン屋の店舗名であり、他にはない個性が際立っている。現在までに手掛けた店舗は240以上、全国津々浦々に進出しているというからやり手であることは言うまでもない。

「僕らがパン屋を作るときは『音』『旅』『服』『食』というのをテーマにしています。これらが一体となり、店の個性として貫かれています。いわばアートであり、僕のファッションも表現方法のひとつというわけです」

先進的なスタンスと戦略でパン屋の黒船となった岸本氏だが、そんな彼が社長を務める『ジャパンベーカーリーマーケティング』が9月10日に開催された格闘技イベント『Road to ONE:3rd TOKYO FIGHT NIGHT』のスポンサーにつき話題となった。

同大会はアジアを中心に展開する格闘技団体『ONE Championship』を目指す若手選手の登竜門となる大会だが、なぜパン屋が格闘技イベントのサポートをするに至ったのか?

『Road to ONE:3rd TOKYO FIGHT NIGHT』の会場にて、岸本社長と秋山成勲

「まずはONEという団体のフェア精神というか厳格化したルールと礼儀を重んじる姿勢に惹かれたというのはありますね。

じつは私自身、プロレスや格闘技が好きだということもあるんです。幼いころは金曜夜8時の新日本プロレスの放送を楽しみにしていましたし、90年代から2000年代の格闘技ブームもチェックしていました。

例えばK-1のレジェンドであるアンディ・フグやアーネスト・ホースといった選手たちがいましたが、どの格闘家も個性際立ち、輝きを放っていました。そういった部分で格闘技と弊社のスタンスというのは似ているのかなって」

じつは岸本氏の会社はONEばかりでなく、サッカーJ1の北海道コンサドーレ札幌の公式スポンサーにもなっている。その理由はスポーツと食には親和性があるからだという。

「とくに欧州などでは、どこの街にもサッカーチームがあります。そして同じようにどの街にもパン屋はあるものです。つまりスポーツとパン屋は日常生活に必要不可欠なものであり、"地域密着"といった観点からコンサドーレさんのサポートをさせてもらっています。

また今後はさらに幅広げると言いますか、地域密着だけではなく"世代密着"ということを考えて格闘技は非常に魅力的なコンテンツだと思っているんです。かつては各テレビ局がこぞって大みそかに格闘技イベントを放送していましたが、それは広い世代にアピールできる力があるからだと思います。そこで特にターゲットとしているのが男性なんです」

たしかに、とくに主力商品の高級食パンは女性が好む傾向がある。パンという食文化全体を見ても、そのターゲットは女性のように感じられる。しかし岸本氏は、あえて男性に興味を持ってもらうパン屋を作ったという。

「8月29日に札幌に『カレーパンだ。』というカレーパン専門店を開いたんです。これまでカレーパンだけを専門に扱う店はなかったのですが、開店時には約2000人の方が訪れてくれました。驚くことに、そのお客さんのほとんどが男性でした」

言われてみれば、カレーパンは男らしい食い物だ。カラッと揚げられ、辛くて美味い。

「スパイシーでホットなカレーパンは、格闘技が持っている"熱さ"や"激しさ"と通じるものがあると思うんです。

またカレーパンも格闘技も、広い世代の男性が興味を持っている。僕としてはカレーパンを大衆化したいし、もっと身近なものにしたいんです。格闘技と一緒に盛り上がって『食べて燃えろ!』って感じですね(笑)」

『カレーパンだ。』は今後、全国に展開していく予定だ。取り扱う商品は2種類、スパイシーな『Sexy カレーパン』とフルーティーな『めんこいカレーパン』(税別280円)。両商品ともに牛ステーキ肉がゴロっと入っており、インパクト十分な味わいだ。

9・10『Road to ONE:3rd TOKYO FIGHT NIGHT』のメインイベント、青木真也×江藤公洋。青木が3-0の判定で勝利した

「ONEという格闘技イベントはまだ歴史が浅く、非常にチャレンジングな舞台だと思っていますし、弊社もまた若く、これまでにはなかった新しいアイディアで展開をしている企業なので、チャレンジをする若者たちを一緒になってバックアップしていきたいですね。

コロナ禍で厳しい飲食業界ではあるのですが、こういう時期だからこそ新たな挑戦をする必要はあると思います。とくにうちは買って持ち帰り食べる"中食"ですので、家で楽しんでもらったり、憩いを与えられるような商品、また格闘技イベントのように華やかで楽しい店舗をどんどん出していきたいですね」

個性を貫く格闘技とパン屋の意外な関係。異色のタッグチームの今後の展開に注目だ。