新たな年の始まりに、あらためて男の人間関係を考えてみよう。ビジネスシーンにおける上司から部下へのマウンティングがどう変化しているのかを、「理想の上司ランキング」をもとに、その変遷をたどってみた。

■理想の上司から見えてくるもの

上司&部下のパートナー間マウントはどのように変化しているのか?

「当たり前ですが、現在も『マウンティング上司』は存在しています。いつの時代も、部下側の価値観は変化する一方、上司側は優位性を示すために自慢や威圧的な態度を取ってしまうものです」

と分析するのは、多くのメディアでコメンテーターとして活躍する、世代・トレンド評論家の牛窪恵氏。では、この20年間でどんなマウントの変遷があった?

「部下の価値観の変化のヒントとなるのが『新入社員の理想の男性上司』ランキング(産業能率大学調べ)。当時の経済状況を反映し、上司の感覚と部下の感覚のズレも垣間見え、マウンティング上司の歴史を知る参考になります」

というわけで、そのランキングを見ながらマウンティング上司の興亡史を学んでいこう!

■現在の40代はマウントも愛情と認識

まずは、現在の40代が新入社員だった2000~03年から。当時のマウントについて、実際の声を聞いた。

「上司にとっては、金を使うことが正義だった。飲み会を個室居酒屋で開いたときは『貸し切りじゃないの?』と言われ、自宅に電車で帰ろうとしたら『タクシー乗れ』と言われ、『今の若手はケチくさい』とマウントされていました」(44歳・化粧品)

そして、こんな声も。

「残業して終電で帰宅しようとすると、上司に『俺はこれからまだ仕事だ』と言われた。頑張らざるをえないという時代だった」(43歳・広告)

当時はマウントと鼓舞が表裏一体だった!?

「働けば働くほど経済が上向いたバブルを経験しているこの時代の上司からは『バブルマウント』が頻繁に取られていました。一方、部下も不況と第2次ベビーブームの影響で、厳しい受験戦争と就職氷河期を経験した世代。競争を勝ち残った自負がある分、出世欲や仕事への貪欲さを持っていました。

学校や家庭にもまだ厳しさがあり、『厳しくされることが愛情』『耐えるのが美学』との認識もあり、マウントがさほど問題視されませんでした」(牛窪氏)

当時の理想の上司ランキングを見ると、星野仙一や野村克也、北野武といった「監督」が上位の常連。

「迷いを打破してくれそうな『決断力』がある厳しい上司が理想の対象だったと言えます」(牛窪氏)

■30代後半は仕事マウントの被害者

04~08年入社の30代後半になると、こんなマウントが目立つように。

「若手の頃、私は営業成績トップだったのに、飲み会で『売り上げがいいだけじゃダメ。顧客といかに深い関係を築いたかが大切』と上司から語られ、ウンザリでした」(37歳・不動産)

「在庫管理がアナログだったので、新しいシステムを導入しないかと上司に提案したら『効率化ばかり求めるな』と却下されて理不尽だと思った記憶が」(38歳・物流)

このような「仕事マウント」はなぜ生まれた? 広告業界の第一線で活躍するコラムニストの八嶋まなぶ氏に聞いた。

「30代後半は長引く不況で、就職する前から企業の倒産やリストラ、年功序列や終身雇用の崩壊といった情報に触れていた。しかし『努力は報われる』『会社に尽くして出世すべき』といった熱意を重視する上司からは『貪欲さが足りない』と認識され、『仕事はこうあるべき』というマウントが横行しました」

そうした世代間ギャップを反映してか、理想の上司には古田敦也、イチローといった比較的若い"才能ある人"がランクインするように。

「転職も当たり前になったこの世代は『個人の技術を磨くこと』を重視。彼らのように己の能力で活躍する人に憧れたのでしょう」(八嶋氏)

■30代前半は「パワハラ」が盾に

30代前半が入社した09~13年は「パワハラ」という言葉が一般的になり、厳しい指導が見直された時代だ。

「『パワハラによる自殺』も報道されるようになり、部下に対する厳しい態度が見直され『仕事マウント』は減りました」(八嶋氏)

しかし、新たなマウントも誕生したという。

「最初についた先輩は親切だったけど、『こんなに優しい先輩はいないよ』と"自分が厳しくされたアピール"がすごかった」(33歳・IT)

「『僕のときは先輩がきちんと教えてくれなくて大変だったからマニュアル作っておいたよ』と、いちいち恩義を押しつけてきた」(32歳・保険)

そんな時代の理想の上司上位には「いい質問ですねぇ」が流行語大賞にノミネートされた池上彰が常連に。

「『ホメて伸ばす』『わかりやすく伝える』ことを好むのは、ゆとり教育を受けてきた影響もある。学校でも厳しい指導がNGとされたため、上司側も指導法に変化が生まれたのでしょう」(牛窪氏)

■20代にはいじりマウント

では現在はというと、今の20代からは仕事でなく、プライベートに関する「いじりマウント」の報告が。

「群馬出身ですが、東京出身の上司から都会マウントを取られます。帰省すると言うと『パスポートは更新したの?』と言われ、リアクションに困る」(25歳・家電)

「彼女いない歴=年齢であることを、事あるごとに上司からいじられ、『俺が若いときは合コンで......』とアドバイスのつもりの武勇伝を語られて不快です」(24歳・金融)

なぜこんなマウントが?

「20代の多くは学生の頃からSNSに触れ、グローバルな思考。ひとりっ子も増えて伸び伸び育ち、『個性』重視の価値観に。

そして本人は『個性』ととらえていることを、上司の側が『欠点』ととらえ、『いじり』のつもりでマウントを取ってしまいがちです」(牛窪氏)

そんな20代後半が入社した15~17年は、松岡修造が3連覇を果たしている。

「松岡氏のような『ブレない』上司が理想とされているのもこの世代の象徴。情報量が増えたため、振り回されすぎて意見が揺らぐ人は自分の軸がないと思われ、信頼されなくなりました」(牛窪氏)

そして18年以降は内村光良(てるよし)が3連覇中!

「現代の新入社員が『個性重視』である表れです。内村氏は『紅白歌合戦』の司会やコント番組での仕切りなど、強い言動で周囲を引っ張るのではなく、出演者をうまくいじりながら『個性を立たせてくれる』点が支持されていると考えられます」(牛窪氏)

このように、強弱や内容は変われど実社会でマウンティングが完全になくなることはなさそう。コロナ禍を経て、今年の理想の上司ランキングがどう変動するのかも気になるところだ。