「DJ社長がすごいのは『ドームに立ちたい』と言って、実際にやったこと。『リーダーはこうやって振る舞うんだな』って思ったし、とにかく説得力がある」と語る伊藤羊一氏

ヤフー株式会社のコーポレートエバンジェリストにして、同社の企業内学校「Yahoo!アカデミア」で学長を務める伊藤羊一氏が、『1行書くだけ日記 やるべきこと、やりたいことが見つかる!』を上梓した。

リーダー育成に辣腕(らつわん)を振るう一方、45万部を超えるベストセラーとなった『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』などの著作でも知られる伊藤氏だが、口を開いて出てきたのは「昔は本当に仕事ができなかった」という意外な言葉だった。

「50代の今がいちばん成長曲線が伸びている」とも語る、「学びのプロ」を直撃した。

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――「Yahoo!アカデミア」に関わることになった経緯はどういったものだったのですか?

伊藤 入社したのは2015年4月で、前社長の宮坂学さん(現東京都副知事)に誘われたのがきっかけです。Yahoo!アカデミアは簡単に言うと、リーダーを育てる学校。

最近、組織の再編があり、Zホールディングス株式会社になりましたが、今年3月にはLINEも経営統合されることが決まっています。社内のリーダーを育てたり、対話する場所を作ったりすることが今のミッションです。

――キャリアを通して、ずっと教育に関わってきたわけではないんですよね?

伊藤 教育を本業にしたのはここ6年くらい。僕は経歴だけを見ると、エリートと言われたりしますが、実際は全然そんなことなくて、特に若い頃は社会で生きづらさを感じている人間でした。学歴と生きる力は関係ありませんから。

新卒で入社した銀行でもめちゃめちゃつらくて、27歳でメンタルを病んで会社に行けなくなったこともありました。「どうやって仕事をしていいか」とか「どうやって学んでいいか」が全然わからなかったんです。

その後、いろんな人に助けてもらいながら少しずつ立ち直って、ビジネススクールに通って学び始めた。そうやって身につけたことを本にしたり、人に教えたりした経験が今につながっています。

――伊藤さんの本はどれも内容がわかりやすく、「普通の人」向けですよね。

伊藤 仕事ができずに悩んでいる人に「大丈夫、大丈夫」って伝えているんですよ。次第に「自分がたどってきた道筋はけっこう使えるかもしれない」と思うようになってきて。その最たるものが、今回の『1行書くだけ日記』なんです。

――話は変わりますが、SNSを通じて、DJグループ「レペゼン地球」のDJ社長への言及も多い印象です。どういうことですか?

伊藤 『好きなことで生きていく』という動画を2年前に見て興味を持ったんですけど、ほかの動画ではゴキブリを食べたりしていて、「なんだ、こいつら......」って思っていたんですよ(笑)。

でも、一昨年の炎上を機にちょこちょこ曲を聴くようになって、その後に『レペゼン地球が解散する本当の理由【これが最後の動画です】』を見たんですけど、あれはちょっとやばくて。もう毎日見てましたね。

――ビジネスを学ぶことの素晴らしさを語った動画ですよね。

伊藤 DJ社長がすごいのは「ドームに立ちたい!」と言って、それを実際にやったこと。「リーダーってこうやって振る舞っていくんだな」って思ったし、とにかく説得力がある。彼のしゃべり方や身振り手振りを研究してるくらいですから、僕。

――リモート会議が普及した今、ビジネスマンもDJ社長のように画面越しに相手を魅了する必要が出てきてますよね。

伊藤 そうそう。例えば、話しているときにカメラに近づいたりするテクニックは、Zoomでもすぐ応用できます。そういうふうに研究しながら見ていると、シバターとかも面白いんですよね。

あの人って実はめちゃくちゃ頭がよくて、うまくディスりながら最終的に相手を立てたり、自分の好感度が高くなりすぎると、あえて下げるようなことをしたりしていますよね。

――伊藤さんが本書で書かれていた「優秀なビジネスマンはメタ認知能力が高い」に通ずる話ですよね。

伊藤 年齢は関係なく、彼らのことを純粋にリスペクトしてるんですよ。特に僕は20代がダメダメだったからこそ、「全員から学んでやる!」という気持ちがあるんです。

そういう姿勢の後押しになったのは孫正義さんの影響です。ソフトバンクアカデミア(ソフトバンクグループを担う後継者発掘・育成を目的とする企業内学校)に通っていた頃、孫さんは生徒全員のプレゼンを真剣に聞いてくれていたんですよ。

――なんと、あの孫さんが!

伊藤 険しい表情で、iPadで盛んにメモを取って。今思えば、なかには拙いプレゼンもあったはずですし、みんな孫さんにびっくりしてたんですけど、そこで僕は気づいたんですよ。「ああ、真剣になることが本当の謙虚さなんだな」って。孫正義ともあろう人がこんなことやってるんだったら、俺はもっとやらないとって。

――そもそも、社会人にとって「成長」とはなんでしょう?

伊藤 漠然とした言い方になりますけど、「より多くの人が、自分の仕事によって笑顔になってくれる力を身につけること」だと思います。例えば、営業の仕事をしていて、お客さまから「提案ありがとう。助かってるよ」って言われたらうれしいですよね。

そして、喜んでくれる人が2人、3人と増えていく。それが成長かなと思います。昨日より今日、今日より明日できないと、多くの人を喜ばせられないので、よりいろんな力を鍛える必要も出てきます。

――確かに。そういう意味では、『1行書くだけ日記』は自分を変えて、成長させる入門書として最適ですね。

伊藤 この本で訴えているのは「成長しろ。そのためにとにかく振り返って気づいてやってみな」ということ。そうやってサイクルを回すことができればいいから、日記は1行書くだけでいいということなんです。気づきの回数が成長を決めるので。

――表紙にも書いてありますもんね、その内容。

伊藤 実は、『1分で話せ』も帯に書いてあるんですよ。「『結論』『根拠』『例えば』で相手の右脳と左脳を動かす、以上!」みたいな。極端な話、これがわかる人には読む必要がない本で(笑)。今回の本も表紙に書いてありますから。「よし、やってみよう!」と行動に移すために、この本を読んでくれたらうれしいです。

●伊藤羊一(いとう・よういち)
1967年生まれ、東京都出身。ヤフー株式会社コーポレートエバンジェリスト Yahoo!アカデミア学長。株式会社ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBAプログラム(GDBA)修了。1990年に日本興業銀行入行、企業金融、事業再生支援などに従事。2003年プラス株式会社に転じ、事業部門であるジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編などを担当した後、2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見いだし、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEOコースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。2015年4月にヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行なう。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。2021年4月より武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長に就任予定

■『1行書くだけ日記 やるべきこと、やりたいことが見つかる!』
(SBクリエイティブ 1400円+税)
Yahoo!アカデミア学長、グロービス経営大学院客員教授、プレゼン講師と、さまざまな肩書を持ちながら活躍を続ける伊藤羊一氏。30代後半まではダメダメサラリーマンだったという伊藤氏だが、毎日の日記と振り返りを続けることで見事にキャリアを好転。本書では「1行日記」を通じ、過去・今・未来をつなげる技術、いくつになっても成長する技術を伝授。落ちこぼれを自認する伊藤氏が「普通の人」向けに書き下ろした超簡単人生改革本!

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