岸本拓也(きしもと・たくや) ジャパンベーカリーマーケティング代表取締役社長。「考えた人すごいわ」など奇抜な店名の高級食パン専門店を多くプロデュースし、高級食パンブームを巻き起こした仕掛け人

「考えた人すごいわ」など、妙な名前の食パン店を見たことはないだろうか? 実はあれ、たったひとりのプロデューサー・岸本拓也(きしもと・たくや)氏によって仕掛けられたものなのだ。その彼が今熱視線を送るのは――カレーパンだった!!

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■客単価は1500円

「カレーパンだ。」札幌市内に昨年8月にオープンした、カレーパン専門店。「Sexyカレーパン」「めんこいカレーパン」の2種を提供している。●札幌市中央区南3条西4丁目16番地2 3・4 キノシタビル ●TEL:011-206-0561 ●営業時間:11:00~20:00 ※パンがなくなり次第終了 ●不定休

――「考えた人すごいわ」(東京都ほか)や「乃木坂な妻たち」(北海道)など、奇抜なネーミングの店舗を多数プロデュースし、高級食パンブームを巻き起こした岸本さんですが、昨年8月に札幌市にカレーパン専門店「カレーパンだ。」をオープンされました。なぜ今、カレーパンに着目を?

岸本 パン市場を見渡してみると、売れ線として定着しているのは食パンを筆頭に、メロンパンやカレーパンなどです。ところが、メロンパン専門店を見かけることはあっても、不思議とカレーパン専門店というのはほとんど存在しなかった。その気づきがきっかけになりました。

――「カレーパンだ。」はオープンから約半年。実際に手ごたえはありますか?

岸本 はい。ここで提供する2種の「Sexyカレーパン」「めんこいカレーパン」はいずれも1個290円(税抜)と決して安くはないですが、客単価は1500円にも上っています。

食べ歩きはもちろん、札幌では観光客向けのお土産需要もあるでしょうし、今はテイクアウト需要も多い。幅広いニーズを取り込めるだろうとは考えていました。今後「カレーパンだ。」は、3年間で50店舗まで増やしていく予定です。

Sexyカレーパン 1個290円(税抜) スパイス香るセクシーなルーを包んだ個性派カレーパン

めんこいカレーパン 1個290円(税抜) 幅広い層に好まれるまろやかなルーを包んだカレーパン

――1号店を札幌に出店したのはなぜでしょう?

岸本 お店が多く情報も早い東京では新しいことをしても埋もれてしまいがちなので、最初から1号店は地方都市に出すつもりでした。その点、札幌は全国でも有数のカレー激戦区で、カレーが受け入れられやすい土壌があります。ここで成功すればほかの地域で展開するのも容易だろうと考え、開業の地に決めました。

――ヒットの裏には、何か特別な仕掛けが?

岸本 「カレーパンだ。」では、お客さんから見えるところでパンを揚げることで、揚げたてならではの熱々のおいしさをダイレクトに伝えています。

このほか、音楽プロデューサーのFPMの田中知之さんにテーマ曲の制作をお願いし、店頭でひっきりなしに流しているんですが、このテーマ曲は地元のラジオ局で時報のSEにも使ってもらっているんですよ。聴いてみますか?

――......時報が「カレーパン」連呼とはシュール!

岸本 スゴいいい曲ですよね。

奇抜な店名の高級食パン専門店「考えた人すごいわ」

――音楽を使ったプロデュースとは型破りですね。さて、商材としてのカレーパンにはどんな魅力がありますか?

岸本 カレーライスという国民食が前提にありながら、カレーパンはアプローチがまったく異なっているんです。カレーはライスの上にルーをかけるので味の足し算を考えればいいのですが、カレーパンはパン生地のコクと油の甘みとカレーのスパイスを一体化させなければならない。これが難しさでもあり、面白さですね。

また、今は牛肉ステーキをドカンと丸ごと包んだ商品を提供していますが、肉の種類、ルーの種類、パンの生地、スパイスなど、アイデアと組み合わせ次第でまだまだバリエーションは無限に広げられます。工夫の余地が広いのも魅力でしょう。

――ちなみに、「カレーパンだ。」は比較的直球のネーミングですね。

岸本 単に、カレーパン市場がまだガラ空きだったため、ネーミングで目立たせる必要がなかっただけです(笑)。むしろ、ストレートにカレーパン店であることを伝えることが今回は重要でした。

――ほかの事業者もカレーパン市場に参入し始めています。今年はさらなるブレイクが期待できそうですね。

岸本 間違いないでしょう。カレーパン専門店は特別な設備が不要で、狭小テナントでも開業できるのがメリット。そのため、ブームが去ったタピオカ店のテナントをそのまま転用することだって可能です。

そうした参入障壁の低さに加えて、昨今のリモートワークの定着も追い風でしょう。作業中に片手で食べられるフードが求められますから。

知人のパン屋さんは「最近カレーパンが売れる」と言っていました。すでにブームが広がり始めていることを実感しましたね。

――競合が増えることをどう思いますか?

岸本 マーケットを盛り上げる事業者さんが増えるのはうれしいですよ。カレーパンならではの自由度を生かして、ショップごとの個性や地域色が出ると、さらにブームが広がるなぁと思います。

実際、数年前に長崎県の壱岐島(いきのしま)で壱岐牛カレーパンを食べたときには衝撃を受けました。その名のとおり、壱岐牛という希少和牛のステーキが入ったカレーパンなのですが、その土地ならではの個性を全面的に打ち出して地域おこしに活用しようというこの取り組みには、僕自身大きな影響を受けています。

――言葉の端々から並々ならぬカレーパン愛を感じますが、そのきっかけは?

岸本 カレーパンというのは家庭で作るものではないので、いわゆる「おふくろの味」ではありません。それでも幼い頃、母親と行ったスーパーで買い与えられたカレーパンは、今も鮮明に記憶に残っています。僕の中では何かのご褒美として買ってもらえるものだったんです。

そんな原体験もあったので、その意味では食パンよりも思い入れの強い商品と言えます。昨年は食パンの年でしたが、今年はカレーパン旋風を巻き起こします。お楽しみに!