無人販売といえば、田舎にある野菜の販売所のイメージだが、コロナ禍の今、ギョーザやラーメン、そして服に至るまで。これまでなかったジャンルの無人販売が急増している。いったいなぜ成立しているのか、そこにどんな勝ち筋を見たのか? 無人販売ビジネスの現場を直撃した。

■超緻密な計算であえて一気に拡大!

ガラス張りの店内には、大きな冷凍庫と賽銭(さいせん)箱が置かれただけで人は誰もいない。しかし、わずか3年で関東や中部を中心に全国165店舗まで広げた無人の店がある。それが「餃子の雪松」だ。

利用者が勝手に冷凍庫のドアを開けてギョーザのパック(36個入り、1000円)を手に取ったら、賽銭箱風の料金箱にお金を入れて、帰るだけ。お釣りも出ず、完全に野菜の無人販売と同じ仕組みだ。

「餃子の雪松」の発祥は群馬で、80年以上続く老舗中華料理店。芸能人もお忍びで通う名店のギョーザを全国に広めようと、2年以上かけて冷凍ギョーザを開発。

大きな冷凍庫と料金箱のある店内。買い方に戸惑っても、映像でガイドが流れているので問題なし
2018年9月に1号店を出すと、すぐ評判を呼んだ。

「無人販売にしたのは19年7月に開店した12店目からです。手軽さを追求するのに、無人なら注文や会計など店員とのやりとりもなく、ストレスフリーで利用できると思ったんです」

そう話すのは運営会社のマーケティング部長・高野内(たかのうち)謙伍さん。無人化の結果、人件費も削減でき、店舗拡大の一因に。地方の野菜の無人販売がヒントになったという。

「80年の伝統があるものなので、卸売でスーパーの棚に埋もれるのはむなしい。自販機だとチープな印象になりそうだなと。セルフレジも考えましたが、あまり利便性を感じなかった。昔からある野菜の無人販売なら、情緒もあって雪松のイメージに合うと思ったんです。周囲の猛反対も『ダメならやめればいい』と強行突破して(笑)」

パッケージ裏の調理説明はかなり大きめ。フードアナリストの重盛高雄さんいわく「目立たせて指示どおり焼いてもらうことで再現性を上げ、満足感につなげている」
この戦略は見事に当たり、どの店舗も一度も赤字を出さず、今も拡大中。「一日でキャベツ10t以上使用する」ほどの生産量だという。無人販売のきっかけは軽いノリのようだが、戦略は綿密だった。

「ギョーザは埼玉の工場から、全店に社員が直接配送してます。そのため、新たな地域に出店する際には一気に何店舗も出して効率的な配送ルートを組んでいます」

各地で出店希望の声も上がるが、生産が追いつかないのが現状だとか。戦略は店舗設計や設備にも及ぶ。

「24時間監視のカメラだけでなく、冷凍庫やパッケージなど、すべて安全性や防犯面を考えて選びました。一見わかりませんが、食中毒や異物混入を防ぐ工夫もしています。食品ですから、まずそこが一番です。最近、同じようなギョーザの無人販売が増えていますが、表面的なところだけマネされると不安ですね」

見た目も奇抜で目立つ「ホルモンショップ naizoo」
一方、ブランディングのため今年5月に東京・恵比寿で店を構えたのが、「ホルモンショップnaizoo」。

ホルモンだけでなく、トリッパやハンバーグなどのホルモン料理を冷凍して販売。

ホルモンそのものはもちろん、レストランなら1000円以上する料理が500円程度と、どれも破格の値段だ。代表の蒲池章一郎さんは、こう話す。

「低価格で出すにはセルフレジを置いて無人にするしかなかったんです。人を雇うと3倍くらいの価格になるので。盗難も気になりましたが、肉のために犯罪はしないだろうと。それに、実は裏のキッチンで調理していたりと、けっこう人はいるので(笑)」

「ホルモンショップ naizoo」では、黒毛和牛ホルモンを販売。甘味噌などの味付きも。ホルモン料理では、心臓などを使ったハンバーグが人気
ホルモンの魅力を広めたいが、店舗を増やす予定はない。

「オープンと同時に通販も始めていて、店舗はその導線だと考えています。店舗があれば、どんな店かコンセプトがわかりやすい。店はブランディングとしての存在ですね」

■ネオ無人販売の元祖は古本屋だった

無人販売は食品だけでなく、ファッション業界にも。昨年8月にオープンし、話題になったのが東京・中野の古着店「ムジンノフクヤ」だ。

代表の平野泰敬(やすのり)さんによると、構想はありつつもコストや防犯の問題などで二の足を踏んでいたが、コロナ禍で非接触が求められていると思い、とりあえずスタート。

「半年は赤字を覚悟しましたが、初月から黒字に。2件ほど盗難もありましたが、想定より少なくて安心しました」

「ムジンノフクヤ」では、店内にある連絡帳でスタッフと交流でき、欲しい商品など要望を書いておくと叶うことも
メディア露出の影響もあり、月の最高売り上げは50万超え。服は通販での購入が増えているが、サイズや素材感などを実際に試着して確かめたいという人は一定数いると確信したそう。年内には4店舗増やす予定だ。

「同じ形態の店が出てきているので、今後はリメイクなどオリジナル商品に力を入れて差別化していきたい。また副業向きの形態なので、100万円程度の低価格で参入できるFC展開も考えています」

実は、すでに無人販売のノウハウを副業向けに教えている人がいる。「餃子の雪松」の高野内さんも参考にした東京都武蔵野市の古本屋「BOOK ROAD」の運営者・中西功(こう)さんだ。

弟と共に2013年にこの古本店を立ち上げ、野菜の無人販売をアップデートした第一人者的な存在である。

「店は自分が楽天に勤めながら、副業で運営していたんです。仕事も家庭もあり、店だけに時間を割かずに済むよう考えて」

「ROAD BOOK」は看板すら置かず、知っている人だけが来られる古本屋。商品の多くは、利用者が不要になった本を店内の木箱に入れ、それを陳列して販売している
中西さんはこの数年間で、無人古本屋の運営ノウハウなどをこれまで20人以上に伝えてきた。もちろん、無人販売の増加にも前向きだ。

「本屋もですが、今までのあり方に加えて、その文脈とは違ったやり方があっていいと思うんですよ。そのためにはほかのジャンルで活躍する人が参入したほうがいいし、思いもよらない面白い店が生まれると思う。

僕らがやっているような、アナログな無人販売はとにかくローコスト。常温管理できて、リピートしやすい商材ならよりリスクも下がります。これからもプレイヤーが増えると思いますよ」

■無人決済店舗が地方の人々を救う!

最新技術を駆使した無人販売にも、動きが出ている。小売流通業界に詳しいメディア『リテールガイド』の竹下浩一郎編集長が説明する。

「小売業界の無人化は人手不足を解決するため、1990年代に登場したセルフレジを筆頭に以前から進んでいました。そして今、各企業が無人決済店舗を広げ始めています」

特に注目されているのが「TOUCH TO GO」(TTG)が展開する無人店舗決済システムだ。

「TTGの仕組みは、AIカメラと棚の重量センサーなどで、誰がどの商品を購入するのかを把握し、決済端末に会計を表示。利用者はそこで決済して退店します。その認識率は95%程度。企業にとっては防犯面が大きな課題ですが、今後はさらに機能も良くなるはずです」

3月31日にオープンした無人決済店の「ファミマ!!サピアタワー/S店」。決済の際に、商品をスキャンする必要もなく、スピーディに利用できる
昨年3月に同名の店舗を高輪ゲートウェイ駅に開店。続いて、このシステムを導入したスーパー「KINOKUNIYA Sutto目白駅店」が昨年10月に、今年3月末には丸の内に「ファミマ!!サピアタワー/S店」がオープン。ファミリーマートは今夏にも、西武鉄道の駅ナカ・コンビニ「トモニー」で同様の無人決済店舗を出店する予定だ。

こうした無人決済店舗は地方でこそより必要性が高いと、竹下編集長は話す。

「企業にとって人口の少ない地方などは出店したくとも、採算が合わないケースが多い。だからこそ、人手のかからない無人決済店舗にマイクロマーケットの運用を期待しています。高齢者を中心に買い物難民の問題が表面化するなか、無人決済店舗がその解消に貢献する部分も大きいのでは」

天井一面にAIカメラが設置された「ファミマ!!サピアタワー/S店」の店内。このカメラが客の購入商品を認識し、決済をスムーズにしている
では、日本中の小売店が無人になる未来もありえるのか。

「小売りはもともと薄利。大型店はカメラやセンサーなどのコストがかさむため、無人化は向かないように思います。それに、結局は接客したほうが売れる場合も多いので、すみ分けしていくでしょう」

■最新自販機が登場。社会問題の解決に?

「大平軒」では店舗前に冷凍自販機を設置。商品のクオリティは、ほぼ毎日来ていた常連客が自販機購入に乗り換えるほど、まったく劣化していない
無人店舗や無人決済店舗だけでなく、自動販売機も無人販売のひとつだが、今年1月に革新的な自販機が登場。それが冷凍自販機「ど冷(ひ)えもん」だ。アイスクリーム専用自販機はあったが、さまざまなサイズ・種類の冷凍食品を収納できる自販機はこれまでなかった。

それを早々に取り入れたのが、ラーメン業界だ。「大平軒」(東京・四谷3丁目)の店主・藤山立博さんは、営業自粛であいた穴を埋めるため、「1万円でも足しになれば」と3月に飲食店として初導入。

「自販機限定ラーメンを出すなど、工夫したかいもあって今のところ約40万円の売り上げ。かなり助かっています」

丸山製麺の工場前に4台の冷凍自販機を設置。麺やスープなど冷凍されたラーメンパックが1台に55食入るが、多い日は3回補充する
東京・上池台の製麺会社、丸山製麺もほぼ同時期に「ど冷えもん」を導入。「ヌードルツアーズ」と命名し、取引先のラーメン店の商品9種類を販売。周囲が住宅街であることも功を奏した。

「一日30個ほどの売り上げ予測でしたが、初日で50個購入され、今や多い日で500個も。土日の食事時がピークなんですが、周りに飲食店がなく、ラーメン屋に行く気分で近所の方が購入しています」

現在は大森や大阪にも展開。さらに飲料自販機と同じように、オーナーも募集中。企業だけでなく、投資として始める個人なども多数決定し、目標の年内50台はクリアできそうだという。

右から「焼き鳥 翔輝」「ヤキトリマン」「炭火焼鳥ときわや」の焼き鳥自販機。「焼き鳥 翔輝」の初代のデザインは自販機だと認識できるようにコカ・コーラの機体に似せたそう
このように最新の冷凍自販機が活躍する一方、手作りの焼き鳥自販機も地味ながら全国的な広がりを見せている。

「緊急事態宣言で街から人が消えてヤバいと思い、保温機をべニヤで囲ってオリジナル自販機を作りました」

こう話すのは宮城県石巻市で「焼き鳥 翔輝」を営む草野雄太さん。

ぬくもりあふれる「無人焼き鳥き鳥販売機」が話題になったのを機に、大阪狭山市の「炭火焼鳥ときわや」や熊本・天草の「ヤキトリマン」など、全国の居酒屋も同じ取り組みを始めた。

「自販機は10万円以下で作れます。困っている店があればマネしてほしいと思い、設計書を送ったり。今では全国に30台以上はあるようです」

始まりは思いつきだが、販売は好調。

「いいときは通常営業の2倍の売り上げですね。店のお客さんは99%中年男性なんですが、自販機ユーザーの7割は女性で、新規開拓になりました」

「焼き鳥 翔輝」は計4台の自販機を運用。地元の中学生たちがデザインした機体もある。また、下には保温機ではなく冷蔵庫を設置し、石巻の名産であるかまぼこを販売している自販機も
さらに無人販売は意外な効果も生んだ。

「ひとりでは調理が間に合わないので、パートを5人増やしました。調理場以外は好きに使えるので、小さい子供を連れてきて働けます。接客もないので、コミュニケーションは不得意でも問題ありません。そういう人を積極的に採用しました」

実は冒頭の「餃子の雪松」でも、店舗管理には子連れの人も働いている。家庭の事情で外で働くことが難しい人は少なくないが、無人販売はそうした人々の受け皿にもなっているのだ。

このように今、無人販売が広がっているが、現状では食品が中心。最後にフードアナリストの重盛高雄さんに今後の展開を予測してもらった。

「ギョーザやラーメンなど無人販売が成立しやすいのは、万人にウケるだけでなくリピート需要も高い食べ物。また、冷凍モノはロスも少なく、冷凍技術も上がっていておいしさを保ちやすい。

そういう意味でマグロやケーキなどは日常的な食べ物であり、もともと冷凍で流通しているので無人販売向きだと思います」

これからどんな新店舗が登場してくるのか。無人販売ビジネスの今後に注目したい。