ロックバンドのボーカル、ゲームプロデューサー、さらにはクラウドファンディング大手「CAMPFIRE」の顧問としても活躍するbamboo氏。
これまで自身が立ち上げたプロジェクトのサクセス率は9割以上で、累計調達額は約3億円。8月5日に初の著書となる『推される技術』(集英社)を上梓した彼の唯一無二の成功メソッドに迫る。
■いきなりやっていいのはステーキだけです(笑)
――最初にクラウドファンディング(以下、CF)と出会ったのは、ゲームの開発で莫大な損害を負ったのがきっかけだったとか。
バンブー 2013年に『僕が天使になった理由(わけ)』というPCゲームを作ったんですけど、発売直前に違法ダウンロードされて1億円近い損害を食らったんです。会社も倒産寸前だったんで当時は「違法ダウンロードに関わったヤツ、全員死なねーかな」と呪ったんですけど(笑)、同時に「借金以外の方法で資金調達をしないと、好きにものづくりはできねーな」とも思って。そんなときにネットでCFのことを初めて知ったんです。
――当時、日本ではまだCFの黎明(れいめい)期ですよね。
バンブー プラットフォームもまだ3つしかなかったし、プロジェクト数も今とは比較にならないぐらい少なかったです。それでも自分みたいに、ファンのおかげで成り立っているような職種の人間には福音みたいな仕組みで、「これは使える」と思ったんです。それで最初は勉強だと思って手当たり次第にいろんなプロジェクトを支援しまくって、ある程度、仕組みを理解してから自分でもプロジェクトを立ち上げるようになりました。
――バンドのライブイベントの映像化や海外公演の支援、アルバムの制作費など、立ち上げるプロジェクトはことごとくサクセス。なぜ最初から成功できたのでしょう?
バンブー 支えてくれるファンの存在はもちろんですが、実際にプロジェクトを起案していく過程でサクセスに必要な要素が割と早い段階で見えてきたことが大きいと思います。支援したくなる「ムード」、支援者への「メリット」、プロジェクト自体の「ロマン」、過程を魅力的に演出する「ドラマ」、計画的な「予算」、そして第三者的な視点でプロジェクトを俯瞰(ふかん)する「客観視」です。この6つがそろえばたいていのプロジェクトはサクセスできる、と。
――このなかでバンブーさんが支援者に"推される"ために特に重要視されるものは?
バンブー 詳細な予算組みはもちろんですが、あとはムードですね。日本はまだCFの歴史が浅いし、欧米と比べると寄付の文化も浸透していない。だからいきなり「お金ください!」と言っても相手にしてもらえないですよね?
いきなりやっていいのはステーキだけです(笑)。だからそこをちゃんとエンタメにして、お客さんが楽しんでお金を落としてくれるような仕組みにすることが一番大事だと思ってます。
――具体的にはどういうことなんでしょう?
バンブー 例えば支援に対するリターンを決める際は毎晩、ニコ生やYouTube Liveを使って支援候補者たちと、とことん議論してきました。お客さんは何が欲しいのかを勝手に想像するんじゃなくて、彼らと直接、詰めるんです。するとその過程を支援候補者たちと共有できるし、それ自体がエンタメになる。さらに的外れなリターンをつくることもなくなり、宣伝にもなる。いいことずくめなんです。めちゃくちゃ手間はかかりますけどね(笑)。
――究極のマーケティングは"直接交渉"だと。
バンブー スマホのゲームに何十万円と課金する人がいますけど、結局、人が好きなことにお金を出す感覚って他人には理解できないんです。自分のプロジェクトでも100万円とかの高額コースを設定することがたまにあるんですけど、「高(た)けー」って文句言う人は買わなきゃいいだけで、こっちは支援してくれた人に「100万円払った価値があったわ」って喜んでもらうために全力を尽くすだけです。
■ファンと悪巧みする土壌をつくってきた
――16年からはCAMPFIREの顧問に就任し、キュレーターとして活動されますが、なぜキュレーターに?
バンブー それまで自分が培ってきたCFのノウハウが、ほかの人の案件でも使えるのかどうか試してみたくなったんです。それともっといろんなジャンルのプロジェクトに携わって、たくさんデータを取りたいなとも。
――CAMPFIREとは不思議なご縁があったとか。
バンブー 飲み会で「あそこは手数料が高けー」とか「社長の家入(一真)はうさんくさすぎ」とか悪口を言ってたら、ちょうど目の前にCAMPFIREの役員がいて(笑)。怒られるのかと思ったら、その後、なぜか顧問に誘われるんですからなんて懐の広い会社だと(笑)。
――ここでもバンドのクラムボンや声優の緒方恵美(めぐみ)さんらのプロジェクトを成功に導かれますが、バンブー流キュレーションの極意を教えてください。
バンブー 事前の仕込みは徹底的にやります。依頼人がツイッターをやっていたら、そのフォロワーを1000人くらいピックアップして、彼らの嗜好(しこう)や直近の行動をリサーチ......ってもはやカジュアルなネットストーカーみたいなものですよ(笑)。自分の顧問としての立ち位置はマンガ『エリア88』の傭兵(ようへい)だと思ってるんです。細かいことはわかんねーけど、戦場では結果出すよと。
――その傍ら、18年には美少女ゲーム『MUSICA!』(後に『MUSICUS!』に改題)開発プロジェクトを立ち上げ、約1億3230万円を調達。これは当時の国内CF最高額で、大きな話題になりました。
バンブー プロジェクトのスタート日である7月30日はいつもどおりニコ生でスタートの模様を実況していたんですが、開始5分で1000万円を突破し、31分で目標金額の3960万円をクリア。まさかの展開に思考が追いつかない状態で、思わず生放送中に支援者たちに謝罪したんです。「ファンのみんなの熱量をなめてた、ゴメン!」って。
――この超速サクセスの勝因はどこに?
バンブー 一番大きかったのは自分を応援してくれているコアなファンたちが、これまでのプロジェクトでかなりCF慣れしてくれていたことかなと。昔からニコ生とかを使ってファンと一緒に悪巧みしていく土壌みたいなものをつくってきたんですけど、そこで「バンブーのプロジェクトは支援をしたら、それ以上のリターンがある」ってことが前提として共有されていたんだと思います。
――つまり、それまでの積み重ねの集大成だったと。
バンブー CFは「信用の前借り」だと思ってるんです。普段からろくにコミュニケーションも取ってないのに、いきなり「金くれ」「推してくれ」って言われたら、それなりのファンでもそっぽ向くでしょ。その意味ではCFの結果って、これまでの活動の「通知表」ともいえるんじゃないかなって。
――今回、どんな思いを込めながら、ご自身のCFにまつわる冒険記を一冊にまとめられたんでしょうか?
バンブー 別に自分のやり方が正解だとかっていうつもりはまったくなくて、あくまで「こういうやり方もあるよ」と。ものづくりをする以上はやっぱり、自分がやりたいことをやってお金になるのが一番幸せじゃないですか。自分は偉そうに言うほど売れてるわけじゃないし、コロナでライブが飛びまくって大赤字ですけど(苦笑)、それでもCFという道具を使うことによって活動を永らえたり、自分の生き方を守ることは今のところできていて。それが伝わればいいなと思ってます。
――CFを使った次なる野望があったら教えてください。
バンブー ちょうど今日持ってきたこのゲーセンバッグを海外に持っていって、ひと勝負したいと思ってるんです。ゲーセンの筐体(きょうたい)がリュックになってて、差し込んだタブレットを画面にして実際に遊べるってロマンあるでしょ(笑)。ラスベガスとかロスの世界規模のゲーム大会に行って、これを背負ってウロウロしてたら絶対ウケると思うんですよ。
――これ、実際にゲームがプレイできるんですか?
バンブー 最初はレバーもボタンもただの飾りだったんですけど、「せっかく作るんだったら動かせるよーにすればいいじゃん」って思いが湧き上がってきて、まだ試作段階なのにすでに開発費だけでウン百万円かかっちゃって。もう引くに引けないんで、CFで起案しますかね(笑)。
●bamboo(バンブー)
ロックバンドmilktub(ミルクタブ)のボーカルとしてテレビアニメの主題歌などを担当。また、ゲームレーベルOVERDRIVEのプロデューサーとして、バンドや自らの体験をテーマにした『MUSICUS!』『キラ☆キラ』『グリーングリーン』など数々の作品を世に送り出した。近年はクラウドファンディングのキュレーターとしても活動中
■『推される技術 累計3億円集めた男のクラウドファンディング冒険記』
集英社 1650円(税込)
ゲーム開発でウン千万円の負債を負った著者がひょんなことからクラウドファンディングに出会い、2018年には国内最高額(当時)となる1億3230万2525円を調達するまでを赤裸々につづった涙と笑いの冒険記。現代のビジネスシーンで必要不可欠な「推される技術」のノウハウも満載