「知ることができたらビジネスを前に進められるけど、調べてもどこにもない数字を探す・つくりだす冒険。それが『フェルミ推定』なんですよ」と語る高松智史氏 「知ることができたらビジネスを前に進められるけど、調べてもどこにもない数字を探す・つくりだす冒険。それが『フェルミ推定』なんですよ」と語る高松智史氏

戦略コンサルタント業界の面接試験で出される代表的な問題のひとつ、「フェルミ推定」。

実際に調べることが難しい数量を、論理的思考力をもとに短時間で概算するものだが、「日本にあるマンホールの数は?」「地球上にいるアリの数は?」といった問題がよく例に挙げられるため、「算数が好きな人が得意」とか、「頭の体操」のようなイメージを持つ人も多いかもしれない。

だが、そんな世間の認識に対し、「悲しいほど誤解されている。でも、そんな時代も終わりです。僕が終わらせに来た」と豪快に笑うのが、『ロジカルシンキングを超える戦略思考 フェルミ推定の技術』(8月18日発売)を上梓(じょうし)した高松智史氏だ。

戦略コンサルタント業界のビッグ3のひとつ、ボストン コンサルティング グループ(BCG)でマネジャーを務めた経験もある高松氏いわく、「フェルミ推定はファンタスティックな思考技術」。その極意を聞いた。

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――「ビジネスで使えるレベルで書かれたフェルミ推定の本がこの世に存在しない」ということで、高松さんは本書を書かれたそうですね。

高松 はい! 読んでもらった方に圧倒的なワクワク感をお届けして、「最近の趣味はフェルミ推定です」とまで言わせるのがゴールです。

――「誤解されている」という嘆きも印象的でした。

高松 本当はめちゃくちゃ現実に即したものだし、ロジカルシンキングなんかよりも日の目を見るべきものなのに、「一部の人向け」といったネガティブな印象を持たれていて......。

そもそも、フェルミ推定とは「未知の数字を常識・知識をもとにロジックで計算すること」。知ることができたらビジネスを前に進められるけど、調べてもどこにもない数字を探す・つくりだす冒険なんですよ。

マンガ『HUNTER×HUNTER』でいえば、暗黒大陸を目指すようなイメージですね。フェルミ推定は答えのないゲームであり、いわば、ビジネス界の総合格闘技です。

――そう言われると、めちゃくちゃ興味が湧いてきます!

高松 しかも、特別な知識は必要じゃない。普通に生活していたらなんとなく知っているような知識で十分。正しい数字ではなくても、「こんな感じだったかな?」が武器になるんです。

例えば、カフェを出店する際に、近所のスターバックスを参考にして一日の売り上げを推定するなら、「1杯のコーヒーの値段」「席の数」「時間帯ごとの混み具合」「店内飲食、テイクアウトの割合」という情報だけで考えられます。全身全霊で自分の人生を思い出し、常識・知識を絞り出すイメージですね。

――本書では「映画『真夏の方程式』の福山雅治さんのギャラは?」という問題も例に出されていて、実に面白かったです。

高松 書籍ではボツになりましたが、「マッチングアプリのTinderでひと月に会える女のコの数は?」という問題も考えていました(笑)。仕事以外でも、フェルミ推定は使えます。

――めちゃ気になります!

高松 最大スワイプ数や日程が合う割合なんかを計算していくと、残念ながら月に約4人しか会えない。そう考えると、「ちょっとかわいくなくても、けっこう価値あるひとりだな」とリアルに考えられますよね。

より身近な例を出すと、「親が死ぬまで何回会えるのか?」もフェルミ推定できます。親とはこれからもたくさん会えると漠然と思いがちだけど、「年に2、3回」「健康で会えるのが20年」と考えたら、「50回」という数字が出てくる。つまり、現実がリアル化する。これがフェルミ推定の本質なんです。

――変化の激しい今の時代にこそ重要な思考技術ですね。前著『変える技術、考える技術』も拝読しましたが、コンサルという仕事そのものが、実はかなり泥くさいんだと驚かされました。

高松 例えば、ワイン屋さんの売り上げを上げる仕事を想像してください。一般的なイメージだと、「カチャカチャと顧客データを分析してプレゼン」って感じですよね。でも、実際はそうじゃなくて。

競合店の前に立って、そこのお客さんに1万円を渡してインタビューして、さらにクライアントのお店に連れていって、「どうして、あちらのお店を選んだんですか?」と聞く、みたいなことを繰り返すんです。

僕より少し上の先輩たちの時代は、ファストフードのコンサルだったら、店長を1週間やったそうです。コンサルってすごく泥くさい。これ、フェルミ推定に通じるんですよね。 

――現実を反映していて、机上の空論感は皆無ですね。ちなみに、高松さんは過去のご自身のことを「ポンコツ」と形容されていますが、本当ですか?

高松 それは事実です。4月にBCGに入社して、翌年1月に「採用ミス」だと言われましたから(笑)。評価も、4段階(4が最低評価)でずっと3.5といった感じで、同期でビリだったと思いますよ。ポンコツ話はほかにもありますよ。入社から1年間しゃべってなかったとかね。話すこともないし、議論もわからないしで、社内でもクライアント先でも無言で。

――今の高松さんのキャラからは考えにくいです。

高松 あとは合宿でFAXと買い出し担当だったこともありました。「役員のアイデアを徹夜でまとめ、翌朝にプレゼンする」という合宿があって、ほかのメンバーが必死にパワーポイントでスライドを作るなか、僕はみんなの分の缶コーヒーを買ってくるという。めちゃくちゃホメられたのを覚えています(笑)。

僕はチャーム(愛嬌[あいきょう])があったから辞めさせられなかっただけ。やっぱり、仕事において仲の良さや距離感は大事じゃないですか。実際、僕たちは今、「この後飲みに行きましょう!」って雰囲気になってますよね。

――こういうご時世でなければ絶対行ってます(笑)。

高松 こうやって初対面の方とお話しするとき、「また街中で偶然会ったときに、気軽に話しかけることができるレベルの関係性を築きたい」っていうテーマが自分の中にあるんですよ。

――高松さんの明るさとロジカルで巧みなトーク、知り合いの熟練ナンパ師にめちゃくちゃ似てます(笑)。

高松 それ、絶対に記事で書いてほしいです(笑)。結局、僕は人が好きなんですよ! だからロジカルシンキングより、現実に即しまくったフェルミ推定が大事だと思うんです。

●高松智史(たかまつ・さとし)
一橋大学商学部卒業。NTTデータ、BCG(ボストン コンサルティング グループ)を経て2013年、「考えるエンジン講座」を提供するKANATA設立。本講座は法人にも人気を博しており、これまでアクセンチュア、ミスミなどでの研修実績がある。BCGでは、主に「中期経営計画」「新規事業立案」「組織・文化変革」などのコンサルティング業務に従事。YouTube『考えるエンジンちゃんねる』の運営者でもある。著書に『変える技術、考える技術』(実業之日本社)がある

■『ロジカルシンキングを超える戦略思考 フェルミ推定の技術』
(ソシム 2420円)
「マッサージチェアの市場規模は?」など、常識を超えた問いを投げかけるフェルミ推定。コンサルティング会社の入社試験で出題されるため、「難しそう」「頭の体操」などと思っている人も多いだろうが、著者は「フェルミ推定は誤解されている」「答えのない時代に求められるスキルである」と断言。初の著作『変える技術、考える技術』が3万部を超すヒットとなった著者による、2000回を超える講義を一冊に濃縮した渾身の第2作

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