スペースXが開発中のスターシップ(写真はプロトタイプ)は、再利用可能な有人宇宙飛行ロケット。火星などの惑星間飛行も想定する スペースXが開発中のスターシップ(写真はプロトタイプ)は、再利用可能な有人宇宙飛行ロケット。火星などの惑星間飛行も想定する

人類が宇宙へ有人飛行を成功させてから50年余り。民間企業が開発したロケットで宇宙に行ける時代が到来しつつある現在、宇宙に飛び立つ彼らはなぜ宇宙ビジネスに参入するのか?

そして、どんなビジネスが生まれて、これから何が起きるのか。もはや宇宙はロマンだけを語る場所ではなく、ビジネスの最後のフロンティアとして様変わりしているのだ!

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■世界の大富豪が宇宙を目指す理由

1969年7月20日、ニール・アームストロングは人類で初めて月面に降り立った。それから52年後の同月同日、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、高度100kmの宇宙空間への旅に出る。それに先立つ11日には、ヴァージン・グループ総帥のリチャード・ブランソンが高度約85km以上の宇宙旅行を成功させた。

さらに、ZOZO創業者の前澤友作氏は今年12月の国際宇宙ステーション(ISS)滞在に向け、現在はロシアで宇宙船への搭乗訓練に励んでいるという。

実にロマンあふれる話だが、世界の大富豪たちが続々と宇宙を目指すのにはワケがある。単に宇宙への興味や憧れだけでなく、宇宙をビジネスにおける新たな舞台だと考えているのだ。『宇宙ビジネスの衝撃』の著者で宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴(おおぬき・みすず)氏はこう話す。

「これまでは、NASAをはじめとした主に政府機関が宇宙開発を担っていました。それが、テスラCEOのイーロン・マスク氏がスペースⅩを設立し、『ファルコン9』というロケットを2010年に完成させてから状況が一変しました。今では民間企業である同社が、宇宙飛行士や物資などをISSへ送っています。将来的には月や火星などへも行こうと、100人乗りの宇宙船・スターシップを開発中なんです」

大貫氏によると、宇宙ビジネスの分野は大きく4つに分類できるという。ひとつ目は衛星を使った通信や地球観測。ふたつ目は無重力で真空という宇宙環境を利用した新薬や新素材の開発。3つ目は月や小惑星にあるレアメタルなどの資源開発。そして4つ目が宇宙へ行くこと自体を目的とする観光事業だ。

「現在、宇宙関連市場の規模は世界で約40兆円です。これが20年後には100兆円に伸びると試算されています。従来は政府機関の予算が大半を占めていましたが、最近では民間企業による売り上げが8割を超えていて、宇宙の商業利用が拡大しています」

ヴァージン総帥のリチャード・ブランソンはロケット宇宙船「ユニティ」での有人試験飛行に成功。約20人の日本人が搭乗券を予約済みだ ヴァージン総帥のリチャード・ブランソンはロケット宇宙船「ユニティ」での有人試験飛行に成功。約20人の日本人が搭乗券を予約済みだ

このように民間企業が主導することで、宇宙開発はスピード感を増している。例えば、再利用型ロケット。技術進化も多く、今後さらに打ち上げコストが安くなるといわれている。現在の中型から大型ロケットの打ち上げコストは1回に50億~100億円だが、業界リーダーのスペースⅩは1回1億円にまで下げることを目標としている。

「まだまだ富裕層向けですが、ひと昔前には夢や構想だったことが一気にビジネスとして実現しつつあります。現に宇宙空間まで行き、約3~5分連続で無重力状態のフライトを体験できるヴァージン・ギャラクティックの乗船料は25万ドル(約2750万円)ですが、すでに600人がチケットを購入済みです」

だが、ロケット開発が進んでいる一方、単に宇宙旅行といったロマンだけではなく「ロケットで宇宙に何を打ち上げ、何をするか」がより重視されはじめている。文字どおり、宇宙ビジネスが無限の可能性とリアリティを持って広がってきているのだ。

■宇宙産業でホットなのが衛星ビジネス

ジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンの再利用型の有人宇宙船「ニューシェパード」。高度100km以上に到達し数分間の無重力を体感可能。乗員は6名 ジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンの再利用型の有人宇宙船「ニューシェパード」。高度100km以上に到達し数分間の無重力を体感可能。乗員は6名

では、具体的にはどんな事業が注目されているのか。現在の宇宙産業の花形は低軌道の小型衛星を使ったビジネスだと話すのは、『宇宙ビジネス 第三の波』の著者で、元JAXA職員の宇宙ビジネスコンサルタント・齊田興哉(さいだ・ともや)氏。そのうちのひとつが、衛星による地球観測事業だ。

「多彩なセンサーを搭載した多くの衛星から地球を観測することを『リモートセンシング』と呼びます。例えば、気象衛星『ひまわり』のように3万6000kmという静止軌道にある衛星を使って観測するのが一般的でした。ですが、昨今はカメラやレーダーなどの機器がついた小型の衛星を高度数百kmから2000km以下の低軌道に複数基飛ばし、地球上のあらゆる場所を観測。そこで得られたデータを各方面のビジネスに活用しています」

例えば世界に散らばっている石油貯蔵タンク。石油が少なくなるとタンクの上蓋(うわぶた)が沈む構造になっているが、衛星から観測すると上蓋の沈み具合から貯蔵量をリアルタイムで推計できるという。それにより石油の流通量から適正価格が予測しやすくなり、先物取引で有利になる。

また、金融に特化した会社では、ある工場にどれだけのトラックが出入りしているかなどを解析、経済活動の規模を試算したデータを売る企業も出てきている。このように衛星で得られる膨大な情報が解析され、漁業や農業、林業なども含め、あらゆる産業や分野で活用され始めているのだ。

■オンラインゲームをラグなしで楽しめる!

ZOZO創業者の前澤氏(右)は、スペースXが開発中の100人乗りの宇宙船「スターシップ」で、2023年頃に月を周回する予定。世界中から8名の同乗者を募集した ZOZO創業者の前澤氏(右)は、スペースXが開発中の100人乗りの宇宙船「スターシップ」で、2023年頃に月を周回する予定。世界中から8名の同乗者を募集した

すでにサービスが開始され、今後さらに活発になると予測されているのが、小型衛星を使ったインターネット通信ビジネスだ。

「数千から数万基単位の小型衛星を地球の周りに飛ばして、通信に使おうという計画です。スペースⅩは、今年9月にも全世界でスターリンクという通信サービスを開始予定です。ほかにも日本の通信事業者では、ソフトバンクが出資するOneWebや楽天が出資する米・AST&サイエンス、アマゾンのプロジェクト・カイパーなど、複数の民間企業が衛星通信網の構築を急いでいます」(齊田氏)

ITジャーナリストの西田宗千佳(にしだ・むねちか)氏は「すごく簡単に言えば、地上の基地局を宇宙に飛ばすようなイメージ」だと説明する。

「これまでも衛星通信自体はありましたが、従来の通信衛星は、高度約3万6000kmの静止軌道上にあった。これだと通信帯域と地球との距離の関係で、高速通信が行なえません。それに対して、スターリンクの通信衛星は、高度340kmから1325kmの複数の軌道とより地球の近くに配置されるため、高速通信がしやすくなります」

実際、日本から地球の裏側の南米ブラジルやアルゼンチンと通信する際には、地表を這(は)う従来の光ファイバー網経由に比べ、小型衛星同士で連携するほうが、短距離で通信をつなげられる。

その分、映像や音声のタイムラグが短くなり、例えば『ストリートファイター』などの対戦型オンラインゲームを日本と南米のプレイヤー間で戦った際にストレスなく対戦できる可能性が高くなるという。

地球を覆うように多数の人工衛星を配置し、連携運用する衛星コンステレーション。スペースXのスターリンク計画では最終的に1万2000基の衛星を使う 地球を覆うように多数の人工衛星を配置し、連携運用する衛星コンステレーション。スペースXのスターリンク計画では最終的に1万2000基の衛星を使う

「本来はアジアやアフリカなど通信インフラが整っていない場所に向けたサービスといわれていますが、問題は低軌道であるほど衛星1基でカバーできるエリアが狭まることです。そのため、多数の衛星を連携運用する『コンステレーション化』が必須となりますが、最も完成に近づいているのがスターリンクでしょう。何しろスペースⅩは、スターリンク用の衛星を打ち上げるためにロケットを毎月1、2回発射しています。そして、1度の打ち上げで数十から最大60基の衛星を放出。すでに1000基以上の小型衛星が打ち上げられ、最終的に1万2000基で地球を覆うように配置される計画です」(前出・西田氏)

ちなみにスターリンクの接続キットの価格は499ドル(約5万5000円)で、月額料金は99ドル(約1万1000円)。通信をキャッチするためには衛星アンテナが必要で、モバイル端末での利用は想定されていない。

現在、ベータ版サービスが運用され、通信速度は下り最大100Mbps前後と4Gと同等。将来的には5Gと同等の最大10Gbpsまで高速化させる予定だという。

「スターリンクの通信網が日本で使えるようになるのは早くても2、3年後だと思います。ただ、すでに通信網が整備されている日本国内では、ほかのサービスと比べての優位性は高くありません。なので、基地局の整備が難しい島嶼(とうしょ)部や山奥での利用と限定的でしょう。または旅客機で活用されれば、今より快適になるでしょうね」(前出・西田氏)

この分野ではスターリンクが一歩リードしている状況だが、前述のように日本のソフトバンクはOneWebへ、楽天はAST&サイエンスへと、衛星通信サービスに積極的な投資を行なっている。

「ソフトバンクはグローバルでのサービス展開を考えているはずです。一方、通信キャリアとして後発の楽天モバイルは、地上局が不足しています。これを衛星通信で補おうとしているようです。ただ、衛星を使ったモバイル通信の実現は技術的に難しく、実現までにはまだ時間がかかると思いますね」(前出・西田氏)

■日本は宇宙開発でも世界から取り残される!?

堀江貴文氏率いるインターステラテクノロジズの観測ロケット「ねじのロケット」。7月3日に打ち上げられ、高度約100kmの宇宙空間に到達した。今後は量産予定 堀江貴文氏率いるインターステラテクノロジズの観測ロケット「ねじのロケット」。7月3日に打ち上げられ、高度約100kmの宇宙空間に到達した。今後は量産予定

このように、世界ではベンチャーを中心にさまざまな企業が宇宙の商業利用を活発化させている。日本でも大企業による宇宙関連の投資は活発で、トヨタやホンダなどの非宇宙企業も月面ローバー(探査車)やロケットの研究・開発を表明している。

一方、ベンチャーという観点では、堀江貴文氏が創設し、小型ロケット開発を行なうインターステラテクノロジズ以外に目立った動きが見えてこない。

民間でロケットや人工衛星の研究・開発を行なう植松電機の植松努社長は、日本におけるロケット開発の難しさを語る。

「残念ですが、日本は法律や規制、既得権益などが複雑で、ロケット開発をしにくい環境です。また、ロケットが完成したとしても、これからスペースⅩのようなロケットと競争していくのは難しいでしょう」

そんななか、日本が勝ち抜いていくためには、アメリカが手を出していない分野で活路を見いだすべきだと植松氏は続ける。

「例えば、日本の強みである、『はやぶさ2』のような惑星探査技術を伸ばすというのもひとつの手です。そのため当社は、打ち上げられた人工衛星が、それぞれ行きたい惑星を目指せるよう、小型衛星用の推進ロケットを開発しています」

ロケットをはじめとした宇宙開発においても、世界は急速に進化しつつある。そうした進化に、日本の宇宙産業が取り残されることなく、分野によってはリードしていくことを願いたい。

小惑星探査機「はやぶさ2」。小惑星リュウグウまでの往復50億kmを6年間かけて地球に帰還。現在は別の小惑星に向け出発し、到着は2031年予定 小惑星探査機「はやぶさ2」。小惑星リュウグウまでの往復50億kmを6年間かけて地球に帰還。現在は別の小惑星に向け出発し、到着は2031年予定

(写真/スペースX ヴァージン・ギャラクティック ブルーオリジン エアバス インターステラテクノロジズ JAXAのHPより)