「『企画力』を鍛えることは仕事以外の幸せにもつながります」と語る髙瀬敦也氏

SNSなどで個人が手軽にコンテンツを発信できるようになった"1億総クリエイター"時代。新しいこと、面白いこと、そして売れることを企画・実行できる人材は、業種を問わず、さらに重要度が高くなっている。

本書『企画 「いい企画」なんて存在しない』は『run for money 逃走中』や『有吉の夏休み』などフジテレビの人気バラエティ番組の数々を手がけ、独立後も多分野で活躍するコンテンツプロデューサー・髙瀬敦也氏が、企画作りのコツを語り尽くした一冊だ。

しかし、本書を単なる「ノウハウ本」として見るのはもったいない。実は、人生に迷ったときに読み返す「自己啓発本」としても優れているのだ。

「企画」とは何か? 「企画力がある人」とは誰のことなのか? 髙瀬氏にじっくり聞いた。

* * *

――本書の企画立案のテクニックや思考術は王道なものが多いですよね。

「人の感情を動かすものでなければ、良い企画にはならない」

「マネタイズを考えない企画は成立しない」

「良い企画者は、いろんな人から情報が集まる」

「人を企画に巻き込むためには、『相手の脳内に映像を浮かばせる』まで中身を伝えなければならない」

など、「そうだったのか!」というより「確かにそうだよな」と、自分の仕事を振り返って、反省しながら読みました。

髙瀬 「コンテンツ」と同様に「企画」はみんなが知っている言葉でありながら、実はイメージを共有できていない概念でした。なので、「企画とは何か」「企画はどう生まれるのか」といったことを、細かく網羅的に言語化しようと試みたのがこの本です。

――本書では「企画」を「決めること」と定義しています。

髙瀬 企画って「面白いアイデアを思いつくこと」というイメージで語られがちなんですが、アイデア自体には価値はありません。アイデアは「世に現れたときに初めて価値を生むもの」であり、この価値を可視化したものが「企画」なんです。

もう少し具体的に言うと、例えばある会社が「新商品の売り上げをアップさせたい」とします。そのためには宣伝しなければなりませんが、宣伝予算を決める必要がありますよね。すると使える額によってテレビCMにするのか、SNS発信をするのか、宣伝方法を決めることになる。

宣伝で「誰のリアクションを期待するか」を考え、CMならばどんなタレントを起用するのか、SNSならどのインフルエンサーにアプローチするのかといったことも決めないといけない。このように、「何かを実現するまでの過程で決まった結果」が企画だと僕は考えています。

そして、それが「いい企画」かそうでないかは、世間の反応を見ることでしか本質的には測れません。僕は本書に『「いい企画」なんて存在しない』というサブタイトルをつけましたが、これは世に出す前の企画に「いい企画」は存在しないという意味ですね。

――髙瀬さんにも世に出せなかった企画が?

髙瀬 そりゃあ、山ほど。自分としては「いい!」と思ったけど、クライアントに受け入れてもらえなかった企画は、通った企画の100倍以上はあります。だから、企画者は"多産"じゃないといけません。そうなるための方法もこの本では解説しました。

――企画を「決めること」と定義すると、「企画力」は仕事だけではなく普段の生活にも役立ちそうですね。

髙瀬 そうですね。あと、「企画力」は幸せにも関係しているとも思っています。僕は面倒くさがり屋だし、ついダラダラしちゃう人間です。休みの日なんか家でずっとスマホを見て過ごしちゃったりして、サラリーマンの頃は、いつも後悔していました。

――それ、すごくわかります(笑)。

髙瀬 でも、これが「今日は何もせずダラダラするぞ」という「企画」だったら、むしろ充実した一日を過ごせたと思いませんか?

――ああ、なるほど。

髙瀬 心理学の研究では、人間は「自己コントロール感」が強いほど、ストレス耐性や幸福度が高まるといわれています。つまり同じ状況でも「自分で決めたかどうか」=「企画したかどうか」によって、幸福度は大きく変わるということです。

自分で決めたことならたとえ失敗したとしても、人のせいにしないし、自分で責任が取れる。そうやって能動的に生きるほうが気力が湧いてくるし、上手に企画ができるようになれば、幸せにもつながると思います。

と、ここまで話してきましたが、僕自身はフジテレビを辞めるまで、どちらかというと"流される人生"を送ってきた人間なんですよ。

――というと?

髙瀬 子供の頃野球が好きだったので、中学は野球部に入ろうと思ったんですが、兄が陸上部の部長をやっていて、その流れで僕は陸上部になんとなく入ることになりました。

中1のときに家が火事で燃えて、兄は受験できなくなり、高校の推薦で大学に行ったのですが、僕もそれに影響されまして。行きたい大学もなく、受験する意欲もなかったので、行けそうな大学に推薦で入学することになりました。

でもフジテレビに入社して、営業から編成に移り、『逃走中』などの番組を企画するうち、独立したいという思いが芽生えてきた。特に、自分が会社でやったことは自分ではなく会社の実績として残るということがわかり、これからの時代は70歳、80歳になっても働くだろうし、100歳まで生きる可能性もあるなか会社に寄りかかるのは企画者としてリスクだな、と思ったんです。

そして、もうひとつ。友人として関係を深めていた実業家、起業家といった、身ひとつで人生を切り開いている人たちに対等なパートナーとして見てもらいたかった。彼らはどれだけ仲良くしていても「大企業のサラリーマン」という肩書がある僕を芯の部分では信用してくれないと思ったんですね。

――フジテレビを辞めて、景色は変わりましたか?

髙瀬 独立してみてわかったのは、人間としての信用は組織に所属しているか否かは関係ないってこと。でも、僕は組織から離れないとそれを理解できなかったのだと思います。何より、あのとき僕は「初めて自分の人生を企画できた」って実感できたんです。

●髙瀬敦也(たかせ・あつや)
1975年生まれ、東京都出身。コンテンツプロデューサー、原作企画者。1998年にフジテレビ入社。2003年に編成部に異動し、『Numer0n(ヌメロン)』『有吉の夏休み』といった人気番組の企画立案などで活躍。2018年にフジテレビを退社。その後は中田敦彦の企業研究番組『NEXT』(NewsPicks)や「伯方の塩 二代目声優オーディション」などを手がけ話題を集める。著書に『人がうごく コンテンツのつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)がある

■『企画 「いい企画」なんて存在しない』
クロスメディア・パブリッシング 1628円(税込)
『逃走中』(フジテレビ)などのヒット番組を手がけたコンテンツプロデューサーである著者が、自身の経験をもとに「企画」の作り方の神髄を語る。「よい企画を作れる人」=「素晴らしいアイデアをひらめく才人」というイメージを覆し、伝わる企画の共通点や企画を実現するためのコミュニケーション法、良い企画をたくさん生む思考術などから「企画力」の正体をつまびらかにした。ビジネスはもちろん、"生き方"のヒントを学べる一冊だ

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