日立製作所やパナソニック ホールディングスなどが導入を検討していることで話題の「週休3日制」。大手企業が相次いでこれに取り組む背景には何があるのか? そもそも週休3日なんて可能なのか? どんなメリット、デメリットがあるのか?

■人事部主導ではうまくいかない

今年3月、日立製作所は週休3日を選べる勤務制度を2022年度中に導入すると発表した。翌4月にはパナソニック ホールディングスも、22年度中に週休3日制を試験的に導入する方針を明らかに。

すでに昨年11月にはNECが、やはり22年度中の導入を目指すと発表している。いずれも、社員の希望により週に3日間休める「選択的週休3日制」を採る方針だ。

週休3日制はファーストリテイリング、日本マイクロソフト、佐川急便、電通などの企業ですでに一部採用されているが、その内容は大きく分けて3パターンある。

ひとつ目は、「報酬削減型」。従来の週休2日制では一日8時間×5日で週40時間の勤務だが、このタイプでは休みが1日増えた分、週の勤務時間が2割減少する(40時間→32時間)。これに比例して給与も2割ほど減る。みずほフィナンシャルグループがすでに導入済みだ。

ふたつ目は、「圧縮労働型」。このタイプは週の勤務時間が変わらないため、一日の勤務時間が10時間に増える。ただし、給与額は変わらない。日立製作所の週休3日制もこれに該当する。

3つ目は「報酬維持型」で、勤務日数は減るが、一日の勤務時間も給与額も変わらない。日本マイクロソフトが採用しているが、国内での導入事例は少ない。

給与が減るパターンAは不人気だが、Bは全体(400人)の6割、Cは8割が支持。A、B、Cとも若年層のほうが「利用したい」派が多い

これまで800社以上の働き方改革に関わり、週休3日制の導入を支援してきたコンサルティング会社「クロスリバー」代表の越川慎司氏がこう話す。

「企業側から見て、週休3日制を導入する目的はふたつあります。ひとつ目は、人手不足を背景にした雇用維持が目的で、より柔軟で魅力的な働き方を用意する。

ふたつ目は働き方改革。さまざまな業界でDX化の必要性が叫ばれているように、働き方改革の本質的な目的は労働時間の削減ではなく、"短い時間でより多くの成果を残す"点にある。日立やパナソニックがまさにそうですが、大手企業を中心に、週休3日制を導入してそれを実現しようという機運が高まっています」

だが、週休3日は一朝一夕で形にできるものではない。越川氏によると、「人事部主導でやるとうまくいかないことが多い」のだという。

「日本の企業では、人事部は社内的に立場が弱く、現場への影響力が小さいという会社が少なくない。その人事部がトップダウンで週休3日制を導入するケースも多いのですが、現場では『時間が少なく仕事が回らない』『人手が足りない』と不満がたまり、休日出勤が常態化した挙句、2、3ヵ月で元に戻ってしまうということがよく起こります」

越川氏は「週休3日制は経営戦略として取り組むべき」という。

「週休3日制は単なる人事制度ではなく経営改革ですから、経営者や経営企画部、場合によっては営業部などあらゆる部署を巻き込んで制度設計することが大切です。週休3日で休日はどうしたいのか? 社員の幸福度をどう引き上げるのか?といった導入後のビジョンが明確であればあるほど成功率は高まります。

『他社が導入したから弊社も』といったように、本来は手段である週休3日が"目的化"してしまったらうまくいきません」

週休3日に向く業界、向かない業界はあるのか?

「社内デジタル化が進んでいるIT業界や、労働ではなく価値提供をなりわいとするコンサル、講師、企画系の仕事は向いています。逆に、現場労働が必要な建設や流通、接客を伴う小売りや医療はハードルが高いといえます」

全世代で「プライベート」が1位だが、「スキルアップ」は40代に突出して多かった

■「完全週休3日」の老舗旅館

だが、"向いてない業界"でも週休3日にトライし、うまく実現させた企業がある。

神奈川県にある創業100年超の老舗旅館「元湯 陣屋」は20年5月、全従業員を対象とする週休3日制を導入した。一日10時間×4日勤務で給与が変わらない「圧縮労働型」だ。陣屋の女将(おかみ)、宮﨑知子氏がこう話す。

「もともと当館は年中無休でしたが、14年に週2日の休館日を設け、従業員には週休2日で勤務してもらっていました。2年前に休館日を1日増やし、宿泊は金・土・日のみの営業形態に切り替え、完全週休3日制を導入したんです」

陣屋の従業員は41名で、現在は基本、毎週火・水・木の3連休だという。週休3日を実現するために、陣屋は大胆な経営改革を断行していた。

それには一時1万円以下まで落ちていた客単価を3万円台まで引き上げる、客室を改装する、安価なコース料理を高級会席に切り替えるといった変革もあったが、より重要な点は従業員の生産性を大幅にアップさせたことだ。

「通常、旅館ではお客さまをお迎えする係、部屋に案内する係、夕食を出す係と専任スタッフが多いのですが、当館では研修を積ませ、ひとりですべての接客業務をこなせる技量を身につけてもらい、全員にマルチタスクで働ける人材になってもらいました」

そして、あらゆる業務をシステム化したことで、宿泊予約の管理や食材の発注などがPC1台で可能になり、「接客、調理、清掃などの現場仕事においても、ICTでの管理によって生産性が飛躍的に向上した」という。

さらに、来客時には駐車場に設置したカメラが車のナンバーを自動認識し、顧客情報と照合。従業員が携帯するタブレット端末に「○○様が到着されました」とアナウンスされ、来館履歴があればその客の好物や食物アレルギーの有無、浴衣のサイズまでが画面に表示される。大浴場のタオル回収ボックスに設置したセンサーは、浴室の清掃やタオル補充の最適なタイミングを端末に知らせてくれるという。

マルチ人材の育成と業務負担を軽減するDX化が、週休3日を支える土台になった。20代の女性従業員は、「同じ業界で働く友達みんなから、『毎週3連休ってうらやましすぎる』って言われます」と声を弾ませる。

ただ、週休3日には"短所"もある。

「一日の勤務時間が8時間から10時間に増えました。休憩を入れると11時間拘束です。これに体が慣れるまで多少時間を要するので、弊社を志望する就活生には『体力に自信のある方でお願いします』と伝えています。

また、一日の所定内労働時間が10時間になれば基本給は変わりませんが、残業代が減る場合も。例えば、繁忙期に一日12時間働く日があったとして、以前の一日8時間勤務なら4時間分の残業代が付いていましたが、週休3日だと2時間分に減る。なので、当館では休日の副業も許可しています」(宮﨑氏)

■「業務のムダ」を発見する

週プレが400人にアンケートを行なった結果では、週休3日制で最も支持が大きかったのは、一日の勤務時間も給与も変わらない「報酬維持型」だ。越川氏もこれが「週休3日の理想の形」というが、そのハードルは高く、「国内での導入事例は極めて少ない」という。

だが、週休3日には向かないとされる建設業界で、給与を下げない週休3日制の導入を目指している会社がある。一戸建て住宅の建築・販売を手がける「建新」(神奈川県横須賀市)だ。

同社はまず20年に、隔週で週2日休みの勤務体制から完全週休2日制に移行し、その翌年には偶数月に月1回の頻度で週休3日にした。さらに、今年4月には毎月1回の週休3日制に踏み切った。こうして一歩ずつステップを踏みながら段階的に拡充し、「30年度までに完全週休3日制を導入するのが目標」(松嶋和博専務取締役COO)という。

「週休3日を掲げて稼働日の労働時間を増やしたり、給与を下げたり......それって、何も幸せじゃないと思います。社員やその家族など、弊社に関わる方々の幸せを最優先に考えるなら、給与も労働時間も変えずに休日を増やす方向がベスト。だから弊社はそこにチャレンジします」

同社が週休3日にこだわる理由はほかにもある。

「完全週休2日制を導入した20年度の売り上げは前年度比で1.4倍になりました。隔月で週休3日にした昨年度も、それとほぼ同じだけ伸びた。それが社員の昇給や賞与アップにもつながりました。その2年間でわかったのは、余暇が増えれば集中力が増し、社員ひとりひとりの生産性が向上するということです」

ならば今すぐにでも完全週休3日制にすれば?と思うが、それは「やらない」という。

「休みが増えれば、社員は短い勤務時間で目標をクリアするため、自然と集中力が増す。仕事のパフォーマンスを上げようと、自分の働き方を見直してムダを見つけ、業務改善しようとする社員も自発的に出てきます。

ただ、人間の集中力には限界があります。働く時間が急に少なくなったら、集中力を保てずに仕事のパフォーマンスが落ちたり、『時間がない』と目の前の仕事を諦めたり、さまざまな場面で弊害が出てくる恐れがあります。

また、これまでも社内でクラウド化を進め、工程管理をスマホ1台でできる環境を整えたりしてきましたが、完全週休3日にするためには社員の仕事を省力化させる、もう一段上の施策が欠かせません。だから焦らず、ひとつひとつ効果や課題を検証しながら進めていきたいのです」

"理想の週休3日制"の導入を目指す建新には、社員を思いやるブレない姿勢があった。

最後に、越川氏がこう語る。

「週休3日がうまくいっている企業は、制度設計の前に追加となる休日の使い方を社員に考えさせます。趣味を充実させたいのか? スキルアップを目指したいのか? そこを明確にさせて、その時間を絞り出すには何が必要かを考えさせる。これが週休3日制を導入する上で重要なファーストステップになります」

業種別に見てもほとんどの業種で「不可能」派が多数だが、情報・通信業では21人中10人が「可能」派だった。「可能」な理由はテレワークの浸透、「不可能」な理由は人手不足が多い。業種別に見ると、サービス業の43人中10人は「売り上げ/給料が下がる」を選択している

多くの場合、そこで見えてくるのは業務のムダだという。

「弊社で17万人を対象に調査したところ、1週間の労働時間のうち43%を社内会議に費やし、14%を資料作成に充てていることがわかりました。"会議のための会議のための会議"をやっていたとか、パワポ資料を丁寧に作りすぎていたとか、そういったことは一度立ち止まり、自分の働き方を内省しないと見えてきません。

そこに気がついた人は、『こんな働き方は改めないと!』という気持ちに駆られる。この"内発的動機"こそ、週休3日を成功させる最大のカギなのです。

社員が柔軟な働き方を選択できることで生産性が向上して、会社の売り上げも上がる。それが社員の昇給につながる。社員も会社も株主も、みんなが幸せになれる。それこそが週休3日制の究極の理想です」