コロナ禍に突入して3年目、やっと行動制限のない夏を迎えたが、飲食業やサービス業、小売業などを中心に、いまだコロナ前の業績水準を取り戻せない企業も多い。収入が減少し、自らの働き方を見つめ直す会社員も増えているようだ。
そんななか、脱サラを目指す手段としてフランチャイズ(FC)ビジネスを勧めるのが『会社も個人も最速で繁盛店を目指すならフランチャイズに加盟しなさい!』の著者で、FCビジネスアドバイザーの田中司朗氏。
40年以上にわたってFC業界の最前線で活躍し、後進の指導も行なってきた。今、成長し続けるFCはどこなのか。FCビジネス成功の秘訣(ひけつ)についても聞いた。
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――最近、フランチャイズに加盟してビジネスを始める人が増えているんですか?
田中 はい。経済が停滞しているときは、脱サラして独立を目指す人が増えますからね。コロナでリストラされたり、早期退職制度を使って退職した人が、退職金を元手にFC加盟を希望するケースも増えています。
実はFCの市場規模は、この数年間右肩上がりなんです。副業解禁や定年退職者によるシニア起業増加が追い風となって、2009年度は21兆円の市場規模だったものが19年度には26兆円と大きく伸び、加盟店も増加し続けています。
――脱サラやシニア起業の手段としてFCへの加盟が選ばれている理由はなんですか?
田中 FC本部(フランチャイザー)が提供する経営ノウハウを使えば、加盟者(フランチャイジー)の起業の成功確率が飛躍的に高まるからでしょうね。
例えば、脱サラ起業というと飲食業のイメージを持つ人も多い。参入障壁が低いので、誰でも取り組みやすいですから。ただし、飲食業で5年後も営業を続けている確率は、だいだい1割といわれている。一方、FC店は7割から8割くらいの確率で生き残っています。
――なぜそんなに違いが?
田中 理由は大きくふたつあります。まず、フランチャイザー自身が取り組んで成功したえりすぐりのビジネスモデルを提供しているから。ビジネスを成功させるまでには本来、幾多のチャレンジと失敗、分析の繰り返しが必要です。資金力も信用力もない脱サラ起業者にとって、そんな失敗のリスクを抑えつつ成功の確率を上げるには、FC加盟が有力な選択肢というわけです。
――続いての理由は?
田中 FCに加盟すれば、ビジネスを始めるのに必要な技術は本部からきちんと研修で学ぶことができます。脱サラ組にとっては、徒手空拳で技術を身につけるより格段に成功確率が上がりますよね。
――ただ当然、確実に成功できるってわけではないですよね?
田中 そうですね。そもそも、加盟者の適性にマッチした業種を展開していること。そして、企業として素晴らしいフランチャイザーを探すこと。FC加盟が脱サラ起業成功の近道だとしても、この2点を踏まえてフランチャイザーを選ばなければ成功はおぼつかないでしょう。
――まず、前者の「加盟者の適性」というのは?
田中 第一に、無理せずに用意できる初期投資費用がいくらか。脱サラやシニア起業で小資本の個人なら300万円から500万円以下で始められるビジネスにすべきです。本書では小資本で加盟できるフランチャイザーも紹介しています。
例えば、在宅鍼灸(しんきゅう)マッサージを展開するフレアス。医療保険が適用されるマッサージなので利用者を獲得しやすく有利です。あるいは、作業服・関連用品店で、近年アウトドア用品やアパレルに参入したワークマン。
開業資金は加盟金、保証金、開店手数料、研修費を含めても開業資金は200万円強で済みます。1店舗平均年商は驚異の1億6000万円で、年収が1200万円を超えるフランチャイジーも多くいるようです。
――意外にも飲食業が少ないですね。小資本では難しい?
田中 飲食業は設備投資が必要なので2000万円くらいかかるのが一般的。脱サラ組にとっては大きな勝負になるので慎重に検討したいところです。ただし、もともと飲食チェーンに勤めていたような方なら、勝ち筋を見いだしやすいのでオススメの業種です。やはり経験ある業種のビジネスは有利ですね。
――フランチャイザー選びのもうひとつの勘所「企業として素晴らしい」というのは、「業績が伸びている」ってことですか?
田中 当然、業績が伸びているフランチャイザーを選ぶことは重要です。毎年のように店舗数が2桁成長しているとか、ブランドイメージが高く知名度のある企業を選べばひとまず安心です。
ただし、加盟はゴールではありません。本部と良好な関係を築いて早期に初期投資回収を実現し末永く利益を上げてこそ成功といえます。そのためにぜひ見極めなければならない重要事項が、フランチャイザー経営者や幹部の人間性なんです。
――将来性を見極める大きな要素が、経営者の人間性ですか。意外ですね。
田中 FCビジネスは、本部と加盟者の共存共栄が基本。やはり最後は信頼関係なんです。
フランチャイジーの中には、何店舗もの経営に成功しているようなスゴ腕もいます。そういう人たちも口をそろえて「フランチャイザー選びは経営者の人柄を基準にしている」と言いますよ。
例えば、コロナ禍で客足が大きく落ち込んだ飲食業。「焼肉きんぐ」や「丸源ラーメン」を展開する物語コーポレーションの小林社長(当時)のとった行動は見事でした。日頃から「清く正しいフランチャイザー」を標榜(ひょうぼう)していた同社は、FC加盟店の苦境を察し、2020年4月と5月のロイヤリティをゼロとしたんです。
ロイヤリティはフランチャイザー収益の根幹ですが、加盟店の存続なしにはありえない。そこで経済的体力のある同社がフランチャイジーの負担を一部引き受けたかたちです。同社の事例は、フランチャイジーとともに成長を目指すFCビジネスの根幹を体現した、勇気ある決断だったと思います。
成功の反対は失敗ではなく挑戦しないことだといいます。もし起業の夢をお持ちなら、FCビジネスについて理解を深め、目標に向かって挑戦し、成功を収めることを祈っています。
●田中司朗(たなか・しろう)
FC ビジネスアドバイザー、田中コンサルティング事務所 代表取締役。大手ファストフード店などで店長、スーパーバイザー、営業本部長を経て、1995 年独立。日本KFC よりベストコントローラー賞受賞(最優秀部長賞)。フードサービスおよびフランチャイズシステム全般のコンサルティング活動を展開中。専門はフランチャイズ本部サポート、店長・スーパーバイザー教育。著書に『これからの飲食店経営者・店長の教科書』(同友館)など
■『会社も個人も最速で繁盛店を目指すならフランチャイズに加盟しなさい!』
あさ出版 1760円(税込)
フランチャイズの市場規模は伸び続けている。これには中小企業が新規事業としてフランチャイズ加盟をするようになったことのほかに、定年退職者の増加によるシニア起業のブーム、会社員の副業禁止の緩和などが背景にある。ではどうすれば儲かるフランチャイズを選び、繁盛店をつくれるのか? フランチャイズアドバイザーの著者が前半パートでノウハウを解説しつつ、後半はコロナ禍でも強かったフランチャイズを厳選して18社紹介する