ゲーム機の"相棒"として大活躍した14インチのテレビやテレビデオ、そして"ウォークマンじゃない"ポータブルカセットやCDのプレイヤーなどなど。コスパ重視で昭和・平成には若者の必須家電を連発していたメーカー、aiwaが復活。
「aiwaデジタル」として大画面スマホやタブレットを、1万円台という中国メーカーを超えるレベルの低価格路線で販売スタートした。ブランド復活の経緯、そして今後の展開などを、JENESIS社の藤岡淳一(ふじおか・じゅんいち)社長に直撃ですっ!
※価格はすべてaiwaデジタル公式オンラインストアでの発売記念特価になります。
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■懐かしくて安い!aiwaブランド
8月24日、超低価格帯の大画面スマホやタブレット、さらにはスマートウォッチの新製品を発表した「aiwaデジタル」。昭和・平成に青春時代を過ごした人間を熱くさせるこのブランドをデジタル家電で復活させたのが、藤岡淳一社長が率いるJENESIS社だ。
なぜaiwaブランドを復活させたのか? そして中国・深圳(シンセン)を拠点にする日本企業、JENESIS社とは? 今回は中国のハイテク産業に精通するジャーナリストの高口康太(たかぐち・こうた)さんを聞き手に、JENESIS社の藤岡さんを直撃です!
――まずは高口さんにお聞きします。JENESIS社ってどんな企業なんですか?
高口 日本のIT企業や流通などから、スマホやタブレット端末、各種家電製品の発注を受け、それらを開発・製造するEMS(電子機器委託製造)の国内大手です。
ハードウエア製造の世界的中心地である深圳を拠点とすることで、多岐にわたる製品を安価に開発・製造が可能。これまで翻訳機のポケトーク、飲食店の注文用タブレット、教育用タブレットなど、500機種以上の製品を手がけてきました。
その縁の下の力持ち的な企業が、aiwaブランドの使用権を取得したことが業界的に注目されています。そもそも自社ブランドを持たなくてもビジネスは成功していますから。藤岡さんは、どうしてaiwaを?
藤岡 私は過去に日本のカメラメーカーであるヤシカ社や、アメリカのポラロイド社といったブランドの使用権を取得して販売を行なっていました。そのとき実感したのは、営業や製品に対する信用面での、日本メーカーの大きなブランド力です。
なかでもaiwaは老舗のオーディオメーカーとしての知名度もあり、価格的な親しみやすさもあります。何より私自身「お年玉をためて買った初めてのオーディオがaiwa」という人間ですから、そういった部分でも思い入れが強い。それもあってaiwa製品の製造販売を開始しました。
高口 藤岡さんは、中国の深圳を拠点としていますが、現地でのaiwaの評判は?
藤岡 40代以上の人間だとみんなaiwaを知っていますね。大手より安いけど、実は内部パーツは大手と同じ物を使い高品質でコスパが高い。今の中国メーカーが当たり前にやっていることの先駆けだったメーカー、という認識です。埋もれさせるには、もったいないブランドですよ。
高口 現在、中国メーカーはサンヨーや東芝など、多くの日本のブランドを取得してますが、これはどのような理由が考えられますか?
藤岡 ブランドをイチから立ち上げ、テレビでCMを流したりイベントを開催して、それを育てるまで10年はかかります。
しかし、日本ブランドを取得すれば、それらをすべてショートカットできる。これが中国メーカーの発想です。うちは開発・製造能力がありますので、その中国式をaiwaに取り入れて、ブランド力を育てる時間を買った感じですね。
あと、デジタル分野において日本での製品販売を許諾してくれたことも大きい。aiwa以外にも、誰もが知る家電やカメラの日本ブランドも検討しましたが、〝日本では製品販売できない〟という条件があり、それが障壁となりました。
――高口さん、〝日本ブランドなのに日本で売れない〟ってどういうことなの?
高口 プライド的な部分を強く感じます。日本だとブランドが買われたというのは、マイナスのイメージが強いですから。ところで、今回発表したaiwaデジタルの製品は、深圳の自社工場で生産するのですか?
藤岡 はい。私、中国の工場経営者でもありますから(笑)。
――え!? そこちょっと高口さん、解説お願いします!
高口 JENESIS社は日本企業ですが、関連する工場は藤岡さんの起業した中国企業でもあるのです。なので、新型コロナの影響による各種パーツ不足でも、ほかの日本企業に比べ安定した製造を続けることができました。
藤岡 工場は10年以上経営していますね。ただ、最近の深圳はパーツを確保できても、工員を集めるのがしんどくなりました。100人そろえようとしても、10人しかそろわない。人件費がどんどん上昇する一方で、そもそも労働者が少なくなってきているのです。そしてエンジニアもそろわなくなってきました。
高口 そんな状況で、aiwaデジタルの製品はどのような方向を目指すのですか?
藤岡 今回発表した製品は、子供でもお小遣いをためて購入できる価格帯の製品です。スマホやタブレットを、昭和・平成にaiwaがラジカセで展開したようにパーソナルな製品にすること。そして、過去のaiwa製品でこだわっていた部分がオーディオ。今後は、この部分も積極的にやっていきたいですね。
高口 具体的にはどのようなプランがありますか?
藤岡 現在、60~70代の日本人技術者は、日本のオーディオ技術の頂点を知る人たちです。例えば、【イヤホン内のクッション材の配置を0.5mm下げると低音が格段に良くなります】といったメカ部分の開発を行なえる。
ハイテク技術に強い中国企業ですが、実はメカ部分の開発は弱い。特に若い世代はデジタルのものづくりしか知らないので、日本人技術者を雇っても的確な指示を出すことができません。
なので、このような人材をそろえ、aiwa独自のオーディオ技術を強化していきたい。われわれもハイテク中心でやってきたので、日本人技術者から説教されることばかりでしょうけどね(笑)。
高口 藤岡さんは、これまでスタートアップを目指す日本の若者たちに〝深圳がものづくりの最先端、日本は周回遅れ。現地に根を張って技術を学ぶ〟的なことをレクチャーしていましたよね(笑)。
藤岡 はい(笑)。それこそ私は、〝Jerald Fu〟と名乗り、200万円持って中国で起業し、現地の方言も覚えて日本人とバレないほど同化してきました。ビジネス面でも〝性悪説〟ありきの中国スタイルですよ。ちゃんとした契約書があっても、「話が違うだろー!」と逆ギレする商売相手をいっぱい見てきましたから。
そこまで中国社会とハイテク産業にどっぷり漬かってきた10年間でしたが、これから先の10年を見据えたとき、「やっぱり日本のメカ的な技術すごい!」となったんですよね。ただ、このままだと日本の技術は確実に消滅します。後継者がいませんから。
なので、それを次の世代につなげる役割としても、aiwaブランドを生かしたい。こういったメカ的な部分こそ、日本企業が中国メーカーのシャオミやOPPOにも勝てる要素じゃないかなと感じていますね。
高口 今回のaiwaの製品は一般販売モデルですが、そもそもJENESIS社は法人販売が強い企業では?
藤岡 ある代理店さんに限った話ですが、国内だと昨年の業務用タブレット端末のシェアはレノボが1位、2位が弊社になります。今後は法人営業で「弊社はaiwaもやっています!」と、決裁権のある40代の社員にわかりやすくアピールできるのも、aiwaブランドの魅力なんですよ。
高口 今後、工場も日本に造るといった構想は?
藤岡 今のところありません。コスパの高い製品の大量生産は、深圳でしか行なえません。その一方、過去の尖閣問題での反日デモや新型コロナによる物流の停滞、各種セキュリティ対策などのチャイナリスクを懸念されることも多い。特に法人販売は、そこを避けますから。
高口 それは深圳が拠点だと不利になるのでは?
藤岡 いえ。「中国生産ですけど、日本ブランドで日本企業です」という弊社は、ライバルの中国メーカーより有利なんです。ただ、「うちも性悪説ですよ。中国メーカーより性善説ですけど」と説明しますけどね(笑)。
――おじさん世代には思い入れの強いaiwa製品。昭和・平成の大定番である14インチテレビも新技術を投入しての復活に期待したいです!
●藤岡淳一(ふじおか・じゅんいち)
1976年生まれ。大手電機メーカーに技術者として勤務後、2001年頃から中国・深圳、香港、台湾を拠点に活動。2011年に香港でJENESIS社を創業し、現在では国内最大規模のEMS(電子機器委託製造)メーカーに成長。今年、aiwaブランドの使用権を得て、商品開発を本格スタート。本人いわく「中国人以上に、中国人化してしまった日本人」。著書に『「ハードウェアのシリコンバレー深圳」に学ぶ-これからの製造のトレンドとエコシステム』がある
●高口康太(たかぐち・こうた)
1976年生まれ。中国のIT、テック企業などを多く取材するジャーナリスト。藤岡淳一さんとは旧知の仲で、JENESIS社を創業から知る人間のひとり。著書に『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』がある