節操のないラーメン店。花月嵐(かげつあらし)のことをそう思ってる人も少なくないのでは? 何がウリかわからない謎のメニュー構成、ハイテンションなお店の雰囲気などなど、一見するとよくわからないこれらの要素、実は計算され尽くした経営戦略だった!
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■ターゲット層は全方位
全国に230店舗以上を構える「らあめん花月嵐」の創業は1992年10月。
シンプルな中華そばから始まり、看板メニューの背脂豚骨醤油系「嵐げんこつらあめん」でブレイクしたチェーン店だが、ほかのラーメン店はまずやらないような異色の店舗経営が特徴だ。
中でも異質なのが、期間限定の新作ラーメンやコラボラーメンをほぼ毎月のようにリリースすること。しかもコラボ相手は、なぜか「飯田商店」(神奈川県湯河原町)、「けやき」(北海道札幌市)、「金色不如帰」(東京都新宿区)といった超有名店だ。
さらに、やたらとテンションの高い店内アナウンス、「豚そば銀次郎」「中華そば竹下食堂」など独特すぎるメニューのネーミングなど、ツッコミどころが満載。ある意味、〝日本一、何を考えているのかわからないラーメンチェーン〟ともいえるかもしれない。
そこで今回は花月嵐の運営元、グロービート・ジャパンの企画広報制作部・鈴木 力氏を直撃し、気になることを全部聞いてきた!
――失礼を承知で言いますが、花月嵐を〝節操がない店〟って思ってる人、けっこういると思うんです。
鈴木 ええ、わかります。
――どうしてこんなに型破りな店舗運営をしてるんですか?
鈴木 ラーメンを楽しんでほしいのはもちろんですが、その上でエンタメ的に〝花月嵐という空間〟も楽しんでもらいたいと考えているからです。
――な、なるほど。順に聞いていくとして、まず気になるのはメニューです。「嵐げんこつらあめん」は醤油だけじゃなく味噌、塩と3種類。ほかにも横浜家系ラーメン「藤崎家」など、レギュラーメニューだけでラーメンが11種類もあります。花月嵐が狙っているターゲット層がいまいちわからないんですが。
鈴木 あえて定めてないんです。言ってしまえば全方位型。性別や世代を区別せず、いろいろな方に楽しんでいただきたいので。
ラーメンって好きな人はとことん好きな料理ですけど、例えばグループ3、4人で豚骨ラーメンを食べに行こうとしても、誰かひとり苦手な方がいれば断念してしまいますよね。それってラーメン店にとって機会の損失だと思うんです。
われわれはラーメン業界全体を盛り上げたいので、醤油一本に絞ったり豚骨一本に絞ったりしていません。
■コラボ1杯の裏に100杯の失敗作
――花月嵐といえば有名店とのコラボですが、そもそものきっかけは?
鈴木 全国にはいろんなラーメンがありますよね。でもラーメン業界は、全体の約8割が個人店。だから、その地域では有名でも全国的には知られていなかったり、知っていても食べに行けなかったりすることがとても多いと思うんです。
それなら花月嵐という〝プラットフォーム〟を使って、皆さんに知ってもらいたいね、と。そういうラーメン業界全体を盛り上げたいとの思いから、2009年よりコラボが始まりました。
――依頼先の店主から、強く拒絶されたり怒られたりとかしませんでしたか?
鈴木 怒られたりはしなかったんですけど、スタートした当初は、ご挨拶に伺っても「何言ってんの?」と全然相手にされませんでした(笑)。熱弁してもやりたいことのイメージやビジョンを理解してもらうのが難しかったんですよね。初年度は9割断られました。
ですが、そんな中で初回に取り組んでいただいた「きら星」(東京都武蔵野市)さん、「らーめんせたが屋」(東京都世田谷区)さんにお受けいただいたことは非常に幸運でしたね。
コラボの実績ができてからは、「花月嵐さんならちゃんとおいしいものを作ってくれるだろうから」と、すぐにイメージを共有していただけるようになって。
おかげさまで最近はコラボ交渉で苦労することは減りました。初期にコラボがかなわなかったお店と、数年たってから実現したこともありましたね。
――もちろんコラボ先に承諾してもらうことも難しかったとは思いますが、それ以上に先方の店主から作ったラーメンに対してOKをもらうことも大変なのでは?
鈴木 そうですね。これまでに200品近くの新商品を開発してきましたが、ひとつのラーメンを作るのに50~100回ぐらいの試作、改良を行なってますし、開発期間もおよそ半年から9ヵ月ほどかかります。
――100回も!? 開発期間が長くなるほど、採算が合わなくなりそうですが。
鈴木 コラボラーメンは基本的に採算度外視でやってます。必要な投資だと考えているんですよね。
また弊社では、開発過程で生まれた失敗作をデータベース化しています。スープ素材の組み合わせやその味のおいしさといった基本情報はもちろん、例えばそのスープを何時間煮込むと味がどれくらい濃くなるかなど、細かい部分までデータ化してあるんです。
それ以外にも、コラボメニューに取り組むことでさまざまなことを学ばせていただき、また、開発力も上がってほかのメニューにも反映されるので、結果的にはプラスなんです。
――ただ毎月、新作ラーメンを提供するとなると、仕入れも苦労するのでは?
鈴木 コラボメニューを開発する際、基本的にはコラボ元のお店と同じものを目指しますが、生産ロットの兼ね合いもあって、同じ食材を使用することが難しい場合も多く、苦労はあります。
■限定メニューは3年先まで決定
――期間限定メニューの中にはコラボ以外のものもありますよね。
鈴木 そうですね。例えば「GTR(ガーリックトマトラーメン)」シリーズ。これは2003年に1作目を出したのですが、提供当初は「トマトとラーメンって、それパスタだろ!」とツッコミの声が多く、まったくなじまなかったですね(笑)。
ですが、お客さまの間でクセになるという評判が徐々に広がり、これまで7回も登場する人気シリーズになりました。
――試作をしたけどボツになったものもある?
鈴木 あります。例えば、スープが背脂だけというラーメンなんてのを作ろうとしたこともありました。
また、ずーっと試作し続けているものもありますよ。まだまだ販売できそうもないですが、花月嵐の持てる技術を最大限に詰め込んだ「究極の醤油ラーメン(仮)」を開発中です。
――なぜ完成しない?
鈴木 コラボラーメンなら、目指す方向性が決まってますよね。ところが、理想の醤油ラーメンは十人十色なので、なかなかまとまらないんです。かれこれ、もう試作を750回以上も繰り返していますが、全然完成する気配はありません(笑)。
――とすると、ほぼ毎月限定メニューをリリースするなら、かなり前倒しで進める必要があるんじゃないですか?
鈴木 はい。なので限定メニューは3年先まで決めてあります。
――3年先!?
鈴木 ええ。これもお客さまにワクワクしていただくため。今後のスケジュールはホームページでも公開してるので、ぜひのぞいてみてください。
――徹底してますね。ところで、メニューを企画する上で一番心がけていることは?
鈴木 われわれはひとつひとつのメニューをキャラクター化する意識で企画を作っているんです。
例えば過去に発売した「嵐げんこつらあめんBLACK MONSTER」は、濃厚な味噌と太麺が組み合わさったパンチのあるメニューなのですが、そのポスターにはプロレスラーの蝶野正洋さんを起用したんです。がっつり系のメニューとインパクトのある蝶野さんが合わされば、おのずとお客さまの目が向きますよね。
ちなみに蝶野さんとのコラボは、弊社の営業車と蝶野さんの車のディーラーさんが同じだった縁で実現しました(笑)。
――オリジナリティのある企画を考案、実現できる社内の雰囲気も気になります。
鈴木 アイデアを出しやすい環境をつくり出すため、弊社では社員にあだ名をつけて呼び合っていますね。フレンドリーな名前にして、社員仲を良くしようという試みです。
――ちなみに、鈴木さんのあだ名は?
鈴木 私はキング鈴木です。会社一の理論派なので、キングを名乗っています。
そうだ、社内の雰囲気でいうと、社員のモチベーションアップのために、以前は年に一度、クイズ大会を開催していましたよ。
――......クイズ大会?
鈴木 はい。花月嵐の歴史や調理技術、ポスターに書かれた文字などの細かい問題を出題しています。私は運営を担当していたのですが、毎年600~700問ほど作るので、これも大変で(笑)。ちなみに優勝者には、賞金とトロフィーが授与されました。
――意外とガチ仕様! 最後に、今後の展望をお聞きします。国内で250店舗以上展開していますが、海外展開も積極的ですよね?
鈴木 はい。現在は花月嵐を台湾、中国に27店舗以上を展開中です。当初は味をローカライズすることも視野に入れていましたが、現地のスタッフから「本場の味を食べたい」と要望があり、日本と基本的に同じ味で提供しています。今後は欧米圏にも出店していきたいですね。
――ズバリお聞きしますが、そんな花月嵐がライバル視しているのは? 店舗数の規模的にいえば「天下一品」や「一風堂」あたりですか。
鈴木 いえ、強いてライバルを挙げるなら、花月嵐の各店舗があるその地域ナンバーワンの個人店ですかね。その地元で一番人気のお店を見据えつつ、その地域のお客さまに喜ばれるお店づくりに努めて、お客さまの選択肢の中に自然と挙がるようなラーメン店であり続けたいですね。
――ナゾ路線の裏にはラーメンへのこだわりが詰まっていた!