FTXのCEOだったサム・バンクマン=フリード。飾らない風貌がネット上で愛され、好感度も高かった。ところが報道を境に数々の不正が明らかになり、評価は一転したFTXのCEOだったサム・バンクマン=フリード。飾らない風貌がネット上で愛され、好感度も高かった。ところが報道を境に数々の不正が明らかになり、評価は一転した

久々に仮想通貨界隈で大事件が起きている。その被害規模は、かつての「コインチェック事件」の100倍以上! なんでこんな騒動が? 日本にも余波はある? やっぱり仮想通貨ってうさんくさいのか? それとも逆に狙い目? ややこしい事の顛末をおさらいした先に、答えが見えてきた!

■発端はひとつのツイート

仮想通貨取引所のFTX(エフティーエックス)が11月14日に破綻し、仮想通貨トレーダーたちが悲鳴を上げている。いったい何が起こったのか。仮想通貨に詳しい1級FP技能士の古田拓也氏に詳しく聞いた。

「FTXの破綻は、ふたつの仮想通貨取引所の争いによって起きました。その二者とは、ここ2年で急速に成長していたFTXと、業界最大手の取引所バイナンスです。戦いの発端はバイナンスCEOのチャンポン・ジャオ氏(以下、CZ氏)によるツイートでした。そして彼のツイートから1週間ほどで、FTXは破綻に追い込まれることになります」

そのツイート内容とは、バイナンス社が保有している仮想通貨・FTT(エフティーティー)を「すべて売却する」と宣言したものだ。

「FTTはFTXによって発行された仮想通貨です。FTX内で取引手数料の割引に使えるなどの用途があり、FTXの業績が上がるほどFTTの価格も上がります。イメージとしてはFTXの株式のようなものですね。

多くの投資家がFTXの事業拡大に伴うFTT価格の上昇に期待していたので、事件以前は人気仮想通貨のひとつになっていました」

つまりCZ氏のツイートは、保有していた競合他社の株式をいきなりすべて売却すると宣言したようなもの。事件後の調査によると、バイナンスはFTTの総発行枚数の6.5%にあたる約2300万枚(当時の価格で約780億円)を保有していたことが明らかになっている。

これほどのFTTが売られれば価格は暴落するため、FTTを保有する投資家はたまったものではない。また、FTTを大量に保有しているFTXにも大打撃を与えることになる。なぜCZ氏は突然こんなことを宣言したのか?

「表向きの理由は、FTXが顧客資産を流用している疑惑があるから、ということになっています。ただ、実際にはFTXがあまりにも短期間で急激に成長したため、脅威に感じて"競合潰し"に動いたのではないかともいわれています」

■面倒見のいい先輩が後輩を切り捨てた

実はバイナンスとFTXにはもともと深い関係があった。2019年にFTXが設立された際に、当時から業界大手だったバイナンスが投資家として支援していたのだ。CZ氏の宣言は、面倒を見ていた先輩が突然後輩を切り捨てたようなものだ。

「CZ氏のツイートによってFTTの暴落を懸念する声が広まったため、FTX側は当時25ドルほどだったFTTを『22ドルで直接購入したい』とバイナンスに対し表明しています。22ドルで買い支えることを投資家にアピールして市場の不安を和らげようとしたのです。

当時のFTXのCEOであるサム・バンクマン=フリード氏(以降、サム氏)も、自社の経営に問題はないと再三ツイートして混乱を収めようとしていました」

ところが事態は急転直下、11月8日にFTXは突如として顧客資産の引き出しを停止し、バイナンスにFTXの買収を乞うていたことが明らかになった。

「CZ氏が仕掛けた戦いに負け、FTXが屈服した形です。しかも翌日にはCZ氏が買収交渉からの撤退を表明し、FTXは11日に破産申請を提出しました」

4コマでわかるFTX破綻4コマでわかるFTX破綻

破綻後、FTXやサム氏の悪事が徐々に明らかになってきた。

「FTXは自分たちが発行したFTTを不適切な形で資産として計上し、自社の資産価値を実際よりも大きく見せて他社から資金の借り入れをしていたのです」

顧客資産の流用疑惑についても、事実だった可能性が高いとみられる。

「FTXは借り入れた資金をさらに投資につぎ込んで利益を出そうとしていたのですが、今年上半期に市況が悪化した影響を受けて資金繰りが悪化し、顧客資産に手をつけたのではないかと推測されています。今のところFTXには顧客に返還する資金が不足していて、出金停止が解除される見込みも立っていません」

FTXは日本法人を設立し、本体とは別の取引所として日本国内でも運営している。その顧客資産はどうなる?

「日本では仮想通貨取引所が顧客資産を勝手に流用できないように法令で定められています。FTXの日本法人も事件後に自社の保有資産を公開し、日本の法令に従っていることを表明しました。これは安心できる対応ですし、ここまで厳格な法整備をしていた日本の金融庁を評価する声も上がっています。

ただし、FTX本体の負債を補うために日本法人の資金が利用される可能性もある。そのため、日本の利用者に資産がすべて返還されるのかは不透明です」

■トレーダーからは愛されていた

古田氏によれば、この事件は単なる一事業者の破綻だけにとどまらない可能性が高いという。

「というのも、FTXはグループ企業を通じて多くの仮想通貨関連企業に投資していたからです。出資を受けた企業の多くはFTXに自社資金を預けていたので、それが引き出せなくなって資金不足に陥っています」

実際にFTX破綻の影響を受けているという人物に話を聞いた。国内でIT企業を経営し、自らもトレーダーとして仮想通貨に投資しているA氏である。

「FTXグループから出資を受けているサービスに資金を預けていたのですが、出金停止になり34万ドル(約5000万円)が引き出せなくなりました。今はアメリカの弁護士と連絡を取って訴訟準備をしています」

それほどの大金を預けることに不安はなかった?

「まさかFTXが破綻するなんて考えもしませんでした。そこから出資を受けているほかのサービスまでダメになるなんて完全に想定外です」

事件以前、FTXについて怪しいと思ったことは?

「どちらかといえば信頼できる取引所という印象でした。例えばバイナンスは日本の法に従わない一方で、日本人の口座開設は受けつけており、金融庁からは名指しで警告を受けています。一方でFTXは、日本の法令に従う形で現地法人を立ち上げました。順法意識が高く、むしろ優等生だったというイメージです」

A氏は元CEOのサム氏にも好印象を抱いていたという。

「サムは資産2兆円を持つ成功者であるにもかかわらず、ずっと同じシャツを着てボサボサのアフロヘア。いかにもITオタクっぽい風貌なのでトレーダーからの好感度も高かったと思います。

まあ、実際には数百億円の豪邸を持っていたことなどが今になって明らかになりましたが。当時はトレーダー仲間の中でもサムをもてはやす風潮がありましたね」

利用者から愛されていたFTXが実は内部で不正をしており、それをバイナンスからとがめられて破綻した、というのが事の顛末(てんまつ)のようだ。

■次の仮想通貨ブームは2025年!

FTX破綻の余波で、ビットコインをはじめとした多くの仮想通貨が価格を下げている。ところが前出の古田氏は仮想通貨市場の今後については楽観的だ。

「今回の事件はサムとFTXが引き起こしたもので、いわば人災です。仮想通貨やそれを支えるブロックチェーン技術に問題が起きたわけではないので、仮想通貨自体の信頼性は揺らいでいません。この下落はパニック売りが原因で、多くの仮想通貨にとってはもらい事故だといえます」

昨年11月に最高値をつけたビットコイン。今年は年初から軟調に推移。5月、6月、そして11月と3段階で下げ、最高値からは3分の1以下となった昨年11月に最高値をつけたビットコイン。今年は年初から軟調に推移。5月、6月、そして11月と3段階で下げ、最高値からは3分の1以下となった

ということは、今が狙い目?

「数年間持ち続けるつもりなら買い時かもしれませんが、私としてはもう少し様子を見たいところです。今はFTX事件の余波がどこまで広がるのかが不透明な状況なので、顧客資産返還などの問題が片づくまでは全力で投資できる状況ではありません」

ではどうなったら買い時になる?

「ビットコイン価格がもう一段、数十万円単位で落ちたら買い時かなと思います。また、下落時には出来高(売買が成立した取引の量)をチェックしましょう。なぜなら、出来高の急増を伴った下落は底値の可能性が高いからです」

ところで、しばらくの間は下げ相場が続くとのことだが、次のビットコイン高騰はいつ訪れる?

「少し先ではありますが、ズバリ25年だと予想しています。なぜなら24年にビットコインは『半減期』と呼ばれるタイミングを迎えるからです。半減期についての詳しい解説は省きますが、過去にビットコインが半減期を迎えたのは12年、16年、20年。その翌年にビットコインは高騰し、底値の何倍もの高値をつけています」

仮想通貨ブームがまた訪れるとするなら、今こそ準備をしておく絶好のタイミングかもしれない。