欧米圏はチップがあるため、見かけの時給に対し実際の賃金は跳ね上がる。時給の倍程度の収入になることが多いとか欧米圏はチップがあるため、見かけの時給に対し実際の賃金は跳ね上がる。時給の倍程度の収入になることが多いとか

半年以上にわたる急速な円安は国内だけではなく、海外にも深刻な影響を与えている。とりわけ象徴的な5つの現場をピックアップし、変化のタネを徹底取材した。【海外現地リポート「悪い円安」に泣いた人、笑った人~Part1】

日本はこれまで出稼ぎの受け入れ国だったが、それも過去の話となりつつある。賃金横ばいと円安のダブルパンチを受け、好待遇を求めて海外で働き口を探す日本人が増えているのだ。3人の出稼ぎ日本人に胸中を明かしてもらった。

■「ずっとアメリカで働きたい」

名目GDPで見れば、世界3位の経済大国であるはずの日本。ところが国民の平均所得は20年以上横ばいであり、直近の円安により米ドル換算の所得はむしろ減少している。そうした中で表れているのが「いっそ海外で働いて外貨を稼ごう」という動きだ。

「ニューヨークに来て、手取り額は日本にいた頃の3倍になりました」

そう話すのは、ニューヨークの日本食レストランでウエイターとして働く、岡田啓二さん(仮名・28歳)だ。

「時給は約1700円。でもアメリカではそれと同額以上のチップがもらえるので、平日は4、5時間働いて最低1万7000円ほど、週末は2万8000円くらい稼げます。週6で働いているので、月収は46万円くらいですね」

岡田さんがニューヨークに来た目的は、もともとは語学留学だった。

「観光系の専門学校を出た後、契約社員として大阪のホテルに4年勤めたのですが、2020年のコロナ流行であっさり雇い止めになってしまって。一念発起して去年の9月、ニューヨークにやって来ました。英語力に磨きをかければ、再びホテル業界で働けると思ったからです。

ところがこちらに来て痛感したのが予想以上の物価の高さ。留学は1年の予定だったのですが、半年としないうちに親から借りた100万円が底を尽きると思い、アルバイトを探していたところ、語学学校の日本人に紹介されたのが今のレストランです」

今の岡田さんは、もうホテル業界に未練はないという。

「ホテルマン時代は貯金なんてほとんどできなかったのですが、今は月12万円の学費と10万円のシェアハウスのコストを払っていても、1年ちょっとで200万円以上の貯金ができました。食費が高いニューヨークですが、飲食店で働いているおかげでほぼ毎日、2食賄いを食べられることも大きいですね」

当初の予定では今年9月に留学を終える予定だった岡田さんだが、「もっと貯金してから帰国したい」と、留学をさらに1年延長したという。

「留学ビザさえあれば週20時間まで働けるので、ビザが延長できる限りずっとアメリカで働きたい。日本の低賃金労働に戻るのはごめんです。

今はハワイも気になってます。日本食レストランの給与はニューヨークよりもさらにいいらしく、すし職人なら年収1000万円以上の仕事もあるそう。調理師学校に行けばよかったと後悔しています」

また岡田さんには、外貨を稼いで初めて気づいたことがあるという。

「留学を延長したタイミングで一度帰国したのですが、何もかもが安く感じました。友達におごりまくりましたよ」

■現地語が話せなくてもOK

元ガールズバー嬢の金井瑞穂さん(仮名・27歳)は今、カナダ・バンクーバーでネイリストとして働いている。

「19年夏頃にワーキングホリデーで滞在していたバンクーバーから帰国して、しばらく渋谷のガールズバーで働いていたのですが、コロナになって全然稼げなくなって。

かといっていい昼職も見つからなかったので、ワーホリ時代にバイトしていたネイルショップに連絡したら、『戻っておいで』と言ってくれたので、今年1月にこっちに来たんです。

バンクーバーには韓国人経営のネイルショップが多く、手先が器用なアジア人は重宝されるんです。一日8時間働いて、日給はチップ込みで2万円くらいですね。週5日勤務なので、月収は40万円程度。ガールズバー時代の倍近い額です」

ニューヨークやロサンゼルスのネイルショップと比べると給与は3分の2程度とのことだが、バンクーバーは生活費も3分の2程度だという。

「今住んでいる50㎡のワンルームは家賃12万円で、食費は月8万円くらい。月10万円は貯金できます。それにバンクーバーはアメリカの大都市と比べ治安もいい。親切な人が多いし、のんびり暮らしたい人にはオススメですよ」

物価が安く暮らしやすいイメージがあるのは東南アジアだが、給与水準はどうか。タイ・バンコクのコールセンターで働く土居健太郎さん(仮名・34歳)が明かす。

「こっちには今年2月に来たばかりで、タイ語はまったく話せません。ただ、今働いているのは日系のコールセンターなので、経験不問で日本語が話せれば働けます。月収は月180時間労働で4万バーツ(約15万5000円)前後。

日本人からしたら安いかもしれませんが、バンコクの平均給与の1.5倍程度で、贅沢(ぜいたく)をしなければゆとりをもって暮らせます。

なんせ、新築マンションの2LDKの部屋がエリアによっては3万円ちょっとで借りられますし、庶民的なタイ料理の店なら、ビールを飲んでも1食500円から800円くらいで収まりますからね」

さらに土居さんによると、技術や職歴次第で、さらに高額なポストもあるという。

「同じオフショア(海外への業務委託)系の仕事としては、WebデザイナーやECサイトの運営管理スタッフなどの求人があり、技術や経験さえあれば月収20万円前後が給与の相場です。

ほかには、近年日本人駐在員が増えているバンコク近郊のシラチャというエリアには、日系工場の現場監督などの仕事で、月収27万円程度の求人もあります。タイ語が話せなくても、現地スタッフとのコミュニケーションがとれるくらいの英語力があればいいようです」

実は土居さんは、タイ以前にはオーストラリアで3年間の出稼ぎも経験している。

「27歳のとき、オーストラリアにワーキングホリデーに行ったのですが、そのときやっていたのが農場での仕事です。羊や牛の牧場や、バナナやブドウの農場などで働きましたが、時給は約2300円前後が相場でした。

ワーホリビザは1年ですが、慢性的に人手不足のファームジョブの場合はビザを延長して最大3年間滞在して働くことができます。私が働いていたのはケアンズから車で2時間くらいの場所でしたが、とにかくド田舎で金の使い道がなく、3年間で400万円以上たまりました。

ワーホリビザが申請できる30歳までの方なら、検討してみてもいいでしょう。ただ携帯電話もつながらずWi-Fiさえない場所もあり、車がなければ街にも行けませんでした。話し相手は動物や植物なので、まったく英語は上達しませんでしたね(笑)」

かつて、発展途上国から出稼ぎを受け入れていた日本だが、円安が常態化すればその立場は逆転してしまうかもしれない。