半年以上にわたる急速な円安は国内だけではなく、海外にも深刻な影響を与えている。とりわけ象徴的な5つの現場をピックアップし、変化のタネを徹底取材した。【海外現地リポート「悪い円安」に泣いた人、笑った人~Part2】
円安により、海外各地で日本への旅行希望者が急増。その結果、航空券が高騰しており、在外日本人たちは日本に帰国できなくなっているという。特に極端なオーストラリアを中心に、実態を取材した!
■閑散期でも片道15万円
長らく水際対策に慎重だった日本政府だが、海外との往来は着実に復活しつつある。とりわけ日本に帰国したくてもできずにいた在外日本人は、このときを待ちかねていたに違いない。
ところが円安の影響が、134万4900人といわれる彼らを直撃している(外務省「海外在留邦人数調査統計」2021年10月1日の推計)。当事者のひとりであるオーストラリア在住のライター、柳沢有紀夫さんが解説する。
「10月11日からようやく日本への個人旅行が解禁されました。ところがこの時期はちょうど円安と重なっており、ただでさえ物価の安い日本がより割安となったことがわかると、旅行希望者は急増。需給のバランスが崩れました。さらに航空各社は減便体制から完全には戻っていない。その結果、日本行きの航空券が激しく高騰しているんですよ」
オーストラリアは特にその傾向が顕著だという。
「オーストラリアの人口は2600万人ほどなので、もともと飛行機の便自体が多くはありませんでした。それにもかかわらず、在留邦人の数はアメリカ、中国に次ぐ第3位。つまり、多数の在留邦人と日本への旅行を望むオーストラリア人が、数少ない航空券の争奪戦を繰り広げ、価格がつり上がっている状態なのです」
なお、カンタス航空のブリスベン発東京(羽田)行きの12月上旬の最安値は、片道1617豪ドル(約14万8764円)であった。コロナ前の同時期であれば、往復で10万円を切るチケットも珍しくなかったことを踏まえれば、高騰ぶりがよくわかるだろう。
しかもこれは、あくまで閑散期の話に過ぎないという。同じくオーストラリア在住ライターの君田亜礼(きみだ・あれい)さんはさらに次のように語る。
「南半球に位置するオーストラリアは、毎年12月10日前後から1月下旬までが夏休みシーズンで、この時期はさらに値が上がります。同路線の価格を見ると、往路の最安値が3592豪ドル(約33万3463円)で、復路の最安値が3173豪ドル(約29万4540円)。ひとり当たり往復約63万円ですから、とても一家4人での帰国など考えられない状況です」
■中国発の便は10倍に高騰
ちなみにこれはエコノミークラスの価格である。おかげで年末年始の一時帰国を泣く泣く断念する声もちらほら......。
「商売をやっているので、年末年始くらいしか休みが取れません。今年は諦めましたけど、来年以降もずっとこんな値段なら、もう二度と日本に帰れないかもしれませんね」(オーストラリア在留邦人のアキオさん・仮名)
オーストラリア以外だと、ゼロコロナ政策を続けている中国の状況はさらにひどい。
「年末年始を問わず、コロナ禍以前は往復で4万~6万円程度だった日本行きのフライトが、現在は40万円前後と、およそ10倍に高騰しています。
おまけに日本から中国に戻るときには、指定病院でのPCR検査が義務づけられていて、これが2回分でおよそ4万円かかります。もちろん自腹で、手続きも面倒なのでコロナ禍以降一度も帰国していません」(中国在留邦人のユエさん・仮名)
これでは帰国を諦めざるをえないのも当然だろう。そして、中国に戻る際にも5日間のホテル隔離と3日間の自宅隔離が必要で、規制を緩めつつある日本とは対照的だ。
問題は、この高騰がいつまで続くのかである。前出の柳沢さんは今後の見通しを次のように予測する。
「各航空会社が今後、フライトを増便してくれれば、少しは価格も落ち着くでしょう。しかし、オーストラリアでは今、CAは過酷な労働の代名詞とされていて、コロナ禍で解雇された従業員が戻ってくる保証はありません」
何より不安なのは、コロナ前の3倍の価格でもチケットが飛ぶように売れている現状に航空会社が味を占めていることで、「こちらの企業はシビアなので、あえて増便しない可能性もあるかも」と柳沢さんは言う。
実際、12月2日の早朝から1ドル=135円台前半をつけるなど急激に円高が進み始めたものの、カンタス航空のチケット料金にめぼしい変化は見られていないという。
「一番の理由は、値下げをしなくても売れるからでしょうね。また、対豪ドルで考えるとこの1ヵ月では1豪ドル=94円から92円とわずかに下がっているだけで、決して円高とはいえない状況ですからね」(柳沢さん)
混乱はまだまだ続きそうだ。