ニューヨークのあるハンバーガー店。ハンバーガーとビールだけで4000円を超えるケースもあるようで、駐在員たちは気軽に入れないとかニューヨークのあるハンバーガー店。ハンバーガーとビールだけで4000円を超えるケースもあるようで、駐在員たちは気軽に入れないとか

半年以上にわたる急速な円安は国内だけではなく、海外にも深刻な影響を与えている。とりわけ象徴的な5つの現場をピックアップし、変化のタネを徹底取材した。【海外現地リポート「悪い円安」に泣いた人、笑った人~Part3】

「海外駐在」といえば、デキる社員のステータスシンボルだったが、昨今は事情が一変。物価の上昇が著しい海外でも給与水準が変わらず、むしろ倹約を強いられる"負け組駐在員"の姿があった!

■貧しすぎて納豆も買えない

かつて大手企業などでは「3年海外駐在すれば日本で家が買える」と言われていた。充実した海外赴任手当は基本給を上回る金額となることもあり、駐在は出世の証しともされた。

ところが、2022年6月から専門商社駐在員として単身、ロサンゼルスに駐在中の畑中健太郎さん(仮名・34歳)は、「完全にアテが外れた」と肩を落とす。

「それほど仕事ができるほうでもない私に、米国駐在の辞令が下ったのはコロナ真っただ中の21年の夏頃。きっと本命の社員に断られたのだろうと思いましたが、こんな機会、一生ないだろうと思い引き受けました」

給与面は?

「駐在に際して会社から提示されたもろもろの手当の合計は基本給とほぼ同額の500万円で、あっさり夢の1000万円プレーヤーになれたことに浮かれていました。なお、支払いはドルではなく、その時々の為替レートに応じて日本円で支払われます」

ドルで給与をもらえれば円安の恩恵を受けられるが、円でもらうということはその逆。つまり、給与は実質的に目減りするわけだ。その上、激しい物価上昇が畑中さんの生活に直撃する。

「赴任した当日の昼、適当に入った庶民的な店でハンバーガーとビールを1杯注文したんです。会計は当時のレートで約4000円以上。ボラれたと思ってメニューを見直したが、間違ってなかった。これにチップを入れると5000円になります。

1000万円プレーヤーといっても、300万円は住宅手当ですし、生活費として使えるのは700万円ほど。1食5000円のランチは気軽にできませんよ。実際、こちらに来て半年になりますが、外食は両手で数えるほどしかしていません」

それに加えて自炊生活でも節制を心がけているという。

「日本食が恋しくなって納豆を買おうとアジア系スーパーに行ったのですが、3パック500円以上したので買うのを躊躇(ちゅうちょ)してしまった。結局、300円のふりかけを買って帰りました。

今は近所の中国系スーパーで巨大な肉を買って家でちびちび食べるのが唯一の楽しみ。1000万円プレーヤーといっても、ロスだと日本で年収400万円程度の生活レベルなんです」

畑中さんは職場にももっぱら弁当を持参しているというが、こんな場面を目にしたという。

「パートタイムで働いている若いスタッフでも、私が手の届かない2000円くらいするフードトラックのランチを買っていたんです。なんでそんなに余裕なのかと思ったら、彼らの時給は約3000円で、同じ時間働くと私より高給取りになることがわかったのです。正直ショックでした。

この逆転現象は、現地採用の時給は相場に従って上昇させているのに対し、日本円がベースの駐在員の給与はここ数年まったく変わってないことが原因。それに、インフレ対策としてアメリカ人はこれまでにひとり当たり計150万円程度の現金給付を政府から受けていますが、外国人駐在員は対象外です」

■妻の交際費が地味に痛い

物流会社の駐在員として、妻と共にニューヨーク在住4年の木原典孝さん(仮名・42歳)も、円建て給与の目減りを実感しているという。

「私は妻を帯同しているので、単身赴任者よりも手厚い駐在手当がついており、基本給と合わせると年収は約1700万円。さらに住宅は会社が全額負担してくれています。

4年前の赴任当時のレートだと年収は16万ドル程度で、これはニューヨーク市の平均年収のおよそ2倍。夫婦ふたりでも当時はゆとりがありました。しかし円安の影響で今は12万ドルにしかならず、家賃がタダとはいえ、物価の高いニューヨークのど真ん中ではふたりで生きていくのはギリギリです」

生活レベルも赴任当時とは一変したという。

「こちらに来たばかりの頃は、休日の朝、妻とセントラル・パークを散歩した後に、有名デザートレストランのサラベスで朝食を取るのが習慣でした。しかしそれから4年、今ではメニューの値上げや円安のせいで、ふたりで行くと7000円近くはかかるので、散歩の後は朝マックになりました。それでもふたりで2000円はかかるのですが......」

一方で、木原さんには、なかなか抑えられない出費もあるという。

「駐在員の妻はみんな専業主婦なので、平日の昼間は一緒にランチをしたり買い物に行ったりするんですが、この妻の交際費がかなり痛い。多くの駐在員家庭の懐事情はおそらく同じなのに、お互い見えの張り合いで、誰も行く店のグレードを落とそうと言い出せないようなんです」

そんな木原さんは、近所の大型スーパーである張り紙を目にしたという。

「バイト募集でした。なんと時給は1時間24ドル(約3200円)。妻にそこで働いてほしいと心から思いましたね。もちろんビザの面で無理ですが......」

海外駐在はもはやソンな役回りとなりつつあるのだ。