タワマン節税の阻止は、現在のバブル的状況に水を差すこととなるのか?タワマン節税の阻止は、現在のバブル的状況に水を差すこととなるのか?
政府与党がタワーマンションの相続税評価額を引き上げる検討を始めた。これまで、タワマンの市場価格と評価額との間には乖離があり、それを利用した「タワマン節税」が横行していたからだ。その節税手法を阻止するべく、自民党が動き出したのだ。こうした動きは今後、タワマンバブルに水を差す可能性もありそうだが......。住宅ジャーナリストの榊淳司氏が語る。

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富裕層が相続税を軽減するためにタワマンの上層階を購入する、というのはごくごくありふれた手法だ。1億円の現金があって、それをそのまま相続すると1億円に対する相続税がかかる。

しかしタワマンの上層階を購入すると、かつては相続税を算出するための評価額が2000万円程度に軽減された。それで富裕層は相続税対策のためにタワマンを買いまくった。2015年から16年頃の現象だ。

そのことが各種メディアでクローズアップされたことで、国税庁は見直しに動いた。また、あからさまな相続税の節税目的でのタワマン購入には路線価の一律適用ではなく、個別に課税額を算出する方針も採用された。タワマン節税という「相続税逃れ」は許さない、という国税庁の方針が打ち出されたのだ。

しかし、依然としてタワマン購入による相続税軽減の実態は存在する。私の見るところ、ザックリ言えば1億円を2千万には圧縮できなくなったが、3500万円程度になら出来てしまうのが今の実態。それを是正しようと、いよいよ政府・自民党が動き始めたというわけだ。

■タワマンが「必ず売れる仕組み」が崩壊!?

しかし私は、「エッ、どうして」と思った。なぜなら、このタワマン購入による相続税軽減という、いわば富裕層の「ズルいテクニック」を自民党が主導して是正しようというものだから。

こんな政策を実現させたとしても、自民党にとって何のメリットもないはずだ。そもそも、富裕層の多くは自民党支持ではないのか。彼らが嫌がる政策を押し進めたとしても、票が増えるわけがない。むしろ減る危険性さえある。そんな政策をなぜ自民党が言いだしたのか。

こういう政策を、財務省が言い出して進めるのなら納得できる。彼らは少しでも税収を伸ばして、自分たちの権限を広げたいはずだ。しかも、タワマンは国交省の縄張りだから、そこから税金を取る政策に彼らとしてのデメリットはなにもない。

仮に、タワマン購入による相続税軽減のメリットが薄れれば、もっとも困るのはそれによって相続税対策をやろうと考えている富裕層。次に困るのは、相続税対策になりそうなタワマンを開発・分譲して大儲けしている大手不動産会社である。ちなみに、タワマンはある程度の資本や開発力がある大手業者にしか事業化できない。

都心のタワマンは作れば必ず売れる。なぜかというと、「住むため」ではない目的で買う人がたくさんいるからだ。そのひとつのカテゴリーが、ここで問題になっている「相続税の軽減」需要だ。

11月30日の時事ドットコム配信の記事「タワマン節税、不公平是正へ 24年度以降、相続評価額上げ―政府・与党」では、東京のタワマンを約14億円分買った北海道の富裕層の例が紹介されている。

この富裕層はその評価額を3億円台で申告し、負債と相殺して相続税をゼロにしていたが、国税に否認され、最高裁まで争っていたのだ。残念ながら、最高裁の判決はこのやり方を認めず、国税庁側の言い分を是としたらしい。

こういう相続税対策の需要層がいるから、都心に開発したタワマンは必ず売れる。多少高くても売れる。この相続税を軽減できる制度は、タワマンを開発分譲する大手不動産会社にとっては「願ってもない」市場環境を作りだしているはずだ。

ところが、今回の自民党の動きは、それを改めようというものなのだ。

■自民党にとって不利な政策をなぜ?

この自民党の動きで、タワマンを開発している大手不動産会社はかなり慌てるだろう。なぜなら、この構想通りに制度が変われば、今までのようにバカ高い価格に設定したタワマンがカンタンに売れなくなるからだ。

そこで大手不動産会社は即刻懇意の自民党の「族議員」を通じて、政策立案方面へ「お手柔らかに」という工作活動を展開するのではないか。何といっても、大手不動産会社がタワマンを開発して稼いでいる利益は莫大だ。数十億円の政治献金を積み増しすることで、千億単位の利益を守るのは理に適う行為だ。

自民党の政策立案部門はそういう展開まで読んで、こういうアドバルーンを上げたのではないか。私にはそんな風に思えてならない。

政府与党によるタワマン節税阻止の動きは驚きだったという榊氏政府与党によるタワマン節税阻止の動きは驚きだったという榊氏
●榊淳司
住宅ジャーナリスト
1962年京都府生まれ。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部卒業。バブル期以降、マンションの広告制作や販売戦略立案などに20年以上従事したのち、業界の裏側を伝える立場に転身。購入者側の視点に立ちながら日々取材を重ねている。『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)など著書多数。