これまでは中国人観光客によるドラッグストアや家電量販店での超ド級の爆買いがトピックスになりがちだった。でも、それだけじゃないんです。サッカーのW杯では漢字表記の広告ラッシュ! さらにゲームや映画業界にも、実は中国企業の影響力が大! そんな中国企業による出資や買収といった次世代爆買いを紹介!
■W杯も五輪も中国企業が満載!
コロナ以前に中国人の訪日観光客が繰り広げて話題となった爆買い。でも、近年ではよりダイナミックな爆買いがあるという。中国企業による出資や買収事案などを、ジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいますっ!
――昨年のカタールW杯で気になったのが、中国企業のものと思われるスポンサー広告。これはどんな企業が広告を出していたんですか?
高口 今回のW杯ではメインスポンサーとして4社の中国企業が協賛しています。その出資額は約1900億円以上。緑バックに白文字の広告は世界的な乳製品メーカーの「蒙牛(モンニュウ)乳業」。蒙牛はオリンピックのスポンサーもやっています。
青バックに白文字は「大連万達(ワンダ)集団」。マンションや巨大ショッピングモール、テーマパークなどを運営する最大手のデベロッパーです。そして日本でもテレビ販売台数を激増させている「海信(ハイセンス)集団」、スマホメーカーの「vivo(ヴィーヴォ)」の4社がメインスポンサーとしてW杯に参加しました。
――これ、どんな目的があって協賛するんですか?
高口 何かと批判、規制されることが多い中国企業の対外的なイメージアップにつながります。それこそ大手が他国の中小企業を買収するときには「あのW杯のスポンサーの!」となりますから。
今回だと、ハイセンスとvivoといったIT分野に強い企業はそういったイメージアップ戦略の側面が強いです。ただ、ハイセンスは広告表示でやらかしていましたね。
――え!?
高口 ハイセンスはW杯開幕戦でピッチ脇の広告に【中国第一 世界第二】(中国で1位、世界で2位)というメッセージを表示しました。これはテレビの売り上げを表現したメッセージなんですが、アメリカや日本では【中国が1番で 世界はその下】という意味に取られて炎上しました。なので、即【中国製造 一起努力】(中国製で一緒に努力しよう)に変更されました。
――ちなみに、中国国内ではどう解釈を?
高口 中国が一番です(笑)。
――そもそも中国でW杯は人気なの?
高口 中国は今回のW杯には出場していませんがサッカー人気は高く、2018年ロシアW杯では中国の視聴者数が世界1位を記録したほど。ただ現在、中国は不動産不況で大連万達集団に対しては「サッカーに金出している場合じゃないだろ!」という批判が多くありました(笑)。
――今回のW杯はスポンサーだけでなく、スタジアム建設や中継システムも中国企業が請け負ったそうですけど?
高口 スタジアム建設だけでなく、EVバスなどの交通インフラも中国企業が手がけ、中継システムに関しては、カタールの通信キャリア大手のOoredoo(オーレドー)に出資しているファーウェイが構築しました。この海外のインフラに出資する手法は、一帯一路の側面もありますね。
――交通と通信のインフラ押さえるとか一番影響力を持つやつ! ちなみに、中継システムで問題などは?
高口 中国向けの中継では観客席の寄り映像が一切放送されず、どの試合も"盛り上がっている雰囲気がない"問題が発生しました。
――ファーウェイの中継システムがやらかしたのでは?
高口 いえ。W杯期間中はゼロコロナ政策デモやコロナ患者の激増などが重なり、「ノーマスクで盛り上がる観客席は放送できない」という忖度(そんたく)判断です。
――W杯にもコロナの影響大かよ!
■中国が狙う最大級の不動産とは!?
では、ここからはエンタメ関連の中国勢力に関しても聞いてみましょう。まず、映画産業はどうでしょうか?
高口 W杯、五輪にも協賛する大連万達集団は、『ゴジラ』シリーズでおなじみのアメリカのレジェンダリー・ピクチャーズを買収しています。
――まさかのゴジラが"実質中国映画"だったという......。
高口 大連万達集団はアメリカの劇場チェーンも買収しており、ハリウッドでも強い影響力を持っています。また、テンセントグループにはテンセント・ピクチャーズという映画部門があり、ここは多くのハリウッド大作へ出資しています。
――なるほど、それもあって最近は中国人が活躍する映画が多くなっているんですね。
高口 ただ、映画会社の買収や出資に関してはリスクもあります。中国に関する政治的な問題が扱われていると、中国本国では即公開中止になる。もちろん、出資した映画会社は中国での立場が危うくなります。
例えば、昨年大ヒットした『トップガン マーヴェリック』にはテンセント・ピクチャーズが製作と出資で関わっていましたが、途中ですべてから撤退しました。
――確かに! アメリカ軍が"努力・友情・大勝利"するあの内容では、お国が許すわけないって!
高口 その一方、中国企業が急速に出資や買収を進めているのはゲーム業界です。世界的に人気の『フォートナイト』や『PUBG』シリーズなどのバトロワ系ゲームには政治的なリスクはありません。
例えば、『フォートナイト』を製作する米のエピックゲームズの主要株主はテンセントのゲーム部門で、ここは『PUBG』のモバイル版の版権も取得しています。
また、昨年『ELDEN RING(エルデン・リング)』を大ヒットさせた日本メーカー、フロム・ソフトウェアもテンセントが主要株主となっています。中国国内はゲーム規制が厳しく、今後はこういった出資や買収がより活性化するでしょう。中国市場はスルーして、海外でゲームを作り海外で売るという戦略です。
――そんな中、最近日本で話題になっているのが、中国発のEVメーカー、BYD。ここも買収上手だとか?
高口 BYDは10年ほど前に日本の金型メーカーを買収し、そこを生産拠点のひとつとしています。BYDの成り立ちは電池メーカーで、そこから自動車製造をするために多くの会社を買収して技術吸収をしてきました。つまり買収や出資を最もうまく活用して成長した会社です。
また最近はBYD的に日本の工場や中小メーカーを買収する中国企業が多く、歯ブラシやマスクなど日用品工場が人気。円安を背景に安く"日本製"の商品を中国国内で販売できることがメリットです。
――このほかにも話題の買収などは? 不動産とかよくトピックスになっていますよね。
高口 日本国内だと温泉施設を買い取り、中国富裕層向けの超高級ホテルとして運営するのが人気です。それこそアリババのジャック・マーが隠れるような施設です(笑)。ただ、近年は不動産よりも大きな利権を回収できる港湾施設の買収に力を入れています。
――スケール、デカすぎ!
高口 ここ数年で東アジアからアフリカ、オセアニア地域など18ヵ所で買収・出資をして、その港湾利権を手に入れています。そして昨年はEU最大級の港湾施設であるドイツのハンブルク港湾ターミナルに資本参加しました。
最終目標は完全買収ですが、これにはドイツ国内でも反発が強く、ひと筋縄ではいかない状況です。現在、このような港湾買収には世界的に厳しい目が向けられており、今後は各国との政治問題に発展する可能性が高いです。
――先ほどのW杯の各種インフラと同じく、完全に一帯一路案件じゃないですか! そんな中、庶民レベルでは"日本製品"の爆買いも復活しているとか?
高口 はい。ゼロコロナ政策が緩和されつつあり、移動も"発熱がなければOK!"というムードの中、ECでは日本製の風邪薬が大ヒット中です。中国国内の薬局では風邪薬や解熱剤の販売が許可制になっており、こういったグレーな商品が買い占め対象となっています。
――それ、コロナ発症を隠して春節大移動しちゃうフラグじゃん! 日本への爆買いツアーは自粛で、お願いします!
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