バレンタイン商戦は早いところでは1月から始まり、約1ヵ月にわたり多くの小売店でフェアや特設売り場が設けられる バレンタイン商戦は早いところでは1月から始まり、約1ヵ月にわたり多くの小売店でフェアや特設売り場が設けられる
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「バレンタインデー市場」について。

*  *  *

1000億円。これはバレンタインデーの市場規模だ。調査によってはそれ以上とするものもあるが、正確にはわからない。買ったものを誰に渡すかも、何を渡すかも不明。そもそもすべての「市場規模の推計」は曖昧(あいまい)で、発表者が恣意(しい)的に作り出す。

ただ、15歳から59歳までの女性は日本に3600万人ほどいる。一回のバレンタインデーで一人あたり3000円を費やせば、約1000億円。おそらくこの程度で推移している。

各小売店のチョコレート販売量を確認すると、毎年2月が突出している。そこから緩やかに下がり、毎年8月が最低量になる。チョコレートは体温を上げる効果があるとされるので日本の冬とも相性がいい。何より業界としては書き入れ時のバレンタインデーのイベントを手放さない。

ただ、その市場規模は数年前からハロウィンに抜かれている。

新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)しはじめてからは在宅・テレワークが広がったためにオフィスへの出社が減少。バレンタインデーにチョコを渡せなくなった。さらにコロナの流行時期も影響した。2022年はバレンタインの2月に感染者数が急増し、ハロウィンの10月には落ち着いていた。

そもそもバレンタインデーは、日本においてチョコレートを売るためのマーケティング戦略の成果として定着した。義理チョコも、ホワイトデーのお返しも、さらに市場規模を拡大するための施策だった。諸外国には見られない。バレンタインデーはマーケティングに乗せられた馬鹿げた風習という指摘は昔からある。実は、私もそう思っていた。

しかし、そうはいっても日本人とマッチしなければバレンタインデーのマーケティングは成功しなかった。広告代理店やメーカーは無数に流行を仕掛けるが、ほとんどは失敗している。みなさんの企業で働く宣伝部あたりの社員に聞いてみれば、トレンドワードを作り出そうとして大金を無駄にした事例を教えてくれるはずだ。

12月のクリスマスに一人ぼっちで過ごした反動で、4月の新年度までには恋人を作ろうと、2月にチョコを渡すイベントとしてバレンタインデーが設定されたのは絶妙だ。

このイベントの創出によって、奥ゆかしい女性が男性へ告白し、新たな愛が始まる"ひと押し"を作ったのは事実だ。

ただしバレンタインデーは大きな転換点を迎えている。

そもそもLINEやSNSなど無数の連絡機会があるなかで、バレンタインデーという告白のイベントは必要なのか。プレゼントだって年に一度の儀式にかかわらず、いつでも好きなときに渡せばいい。

さらにいえば、義理チョコ文化はSDGs的に許容されるか。あるいはジェンダー平等が叫ばれるなか、女性から男性へのチョコ提供という行為はもはや役割を終えたのではないか。実際に最近は女性から女性に渡す"友チョコ"や男性が男性に渡す"強敵(とも)チョコ"もある。

ところで、コロナ禍では妻以外からチョコレートをもらえなかった。実に清々(すがすが)しい。

コロナ禍前はもらえるはずもないのに勤務場所でそわそわして、仕事に手がつかなかった。1日が無駄になり、私のような非モテ男性の生産性が落ちる。日本経済の損失だ。つまり生産性向上のためにバレンタインデー廃止がふさわしい。あ、これ、完全に被害妄想だ!

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI)
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。最新刊『調達・購買の教科書 第2版』(日刊工業新聞社)が発売中!

『経済ニュースのバックヤード』は毎週月曜日更新!