中国がゼロコロナ政策を撤廃した直後に迎えた春節連休(1月21日~27日)には、訪日観光客の復活も期待された。しかしふたを開けてみれば、中国からの訪日客は限定的だったようだ。一方、「爆買いは花見の時期に復活する」と話すのは中国人ジャーナリストの周来友氏。さらに氏は、日本側の受け入れ態勢の不足も指摘する。
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中国観光当局は今月6日から、中国からの団体旅行を20か国に限定し解禁しました。発表されたのはタイやインドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポールなど東南アジア諸国の他に、アラブ首長国連邦やエジプトなどの中東国家、ハンガリーやスイスなどの欧州地域などが含まれています。しかしそこに日本は含まれていませんでした。
これは、日本が行なっている水際対策への報復措置と見られています。また、その一方で団体旅行が解禁された国家の多くは、中国が推進している"一帯一路構想"の参加国で、中国側が政治的判断によって団体旅行解禁の国家リストを策定していることも推察されます。
タイでは春節を前に、中国からの団体客第一弾を歓迎するためのセレモニーが現地空港で開催されました。タイの観光当局は今年だけで500万人の中国人観光客が訪れる試算を発表し、観光業界全体の経済効果は9.6兆円に上るとしています。この数字には、日本へ行けない中国人団体旅行客が、タイに流れることで落とされる消費額も含まれているはずです。
■中国からの団体旅行復活は近い
ただ、多くの中国人は、日本に行きたくてウズウズしています。SNSなどを見る限り、20~30代の若い世代を中心とした層からは、「春には日本に行って、和装をして桜鑑賞をしたい」「アニメのグッズを買ったり、聖地巡礼をしたい」「今年は日本で本物の天ぷらや寿司、ラーメンを食べるのが夢だ」など、日本での観光を心待ちにする声が上がっています。
彼らには、団体旅行禁止という政府の措置以外にも日本への渡航を阻む障壁があります。日中間の定期便の便数が限られているため、中国都市部から日本への航空券は往復で概ね20万円前後と、非常に高額となっているのです。
しかし、今後日本への団体旅行が解禁されることにより、航空便の便数は回復すると予想されます。以前のように低価格での往来が可能となれば、若者を中心とする中間層の訪日客もゆくゆくはコロナ以前の状況に戻るでしょう。
中国政府は、日本による中国からの渡航者に対する水際対策に対して不満を表明しましたが、日本に行きたい若者層はそうした国同士の摩擦には興味がありません。
実際、日本への団体旅行解禁が進展しそうな気配もあります。今月に入り、中国側が林外務大臣の訪中を要請していますが、この実現にあわせて解禁が発表されるのではないかと私は見ています。
早ければ日本で桜の咲く頃、遅くてもゴールデンウイークの時期には、日本への団体旅行は解禁されるという見通しもあります。今春には桜の各名所で、中国語が飛び交っていることでしょう。
■日本の業者は受け入れ体制不足
一方で懸念もあります。3年に及ぶコロナ禍を受けて、バスドライバーやガイドは異業種に転職し、団体旅行客対応のレストランやホテルでは廃業や業態転換した例が少なくありません。そうしたなか、日本のインバウンド業界では、団体旅行を受け入るための体制がじゅうぶんに整っていないのです。
こうした状況を商機と見ているのが、日本国内にある中国系の旅行会社や宿泊業者です。人材確保にもさまざまなルートを持つ中国系観光業者は、中国からの団体客受け入れに向け、中国国内の旅行会社とも連携を始め、SNSを使った宣伝広告なども虎視眈々と進めています。
日本の関連業者も、せっかくの爆買い再開の恩恵を取りっぱくれることがないよう、準備を急ぐべきです。
●周来友
ジャーナリスト。1963年、中国浙江省紹興市生まれ。1987年に私費留学生として来日し、司法通訳人を経て現職。翻訳・通訳派遣会社も経営している