千原ジュニアさんとタモリさんのエピソードを知った坂口さんが勇気を出して購入したのはサントリーのシングルモルト、「ザ・マッカラン 18年」千原ジュニアさんとタモリさんのエピソードを知った坂口さんが勇気を出して購入したのはサントリーのシングルモルト、「ザ・マッカラン 18年」
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「人生をいきなり豊かにする方法」について。

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人生100年時代。今回は人生をいきなり豊かにする方法をお伝えしたい。それは「あなたが買える最高価格のウイスキーを買ってください」というもの。

私は千原ジュニアさんとタモリさんのエピソードが大好きだ。ジュニアさんがタモリさんの自宅に招かれると、JAZZを大音量で聴くタモリさんが高級ウイスキーを飲んでいたらしい。初心者は何を飲むべきかと訊(き)くジュニアさんに、タモリさんは「初心者向けなどない、最初から最高を味わえ」と断じた。なんとかっこいい!

ただし......誰もが最高級を味わうお金は持っていない。私が勧めたいのは、あくまで「自分で買える最高価格」だ。というのも、私は居酒屋やコンビニで買えるくらいのウイスキーしか飲んでいなかった。たまにバーで注文しても知れている。しかし勇気を出して、自分がなんとか買える価格帯のウイスキーを買った経験がある。

驚いた。なにこれ! まったく味が違う。価格に比例し味が上がるとわかった。人生の発見だった。「自分で買える最高価格」だから誰もが人生の愉悦を味わえる。近くに幸せがあるなんて。

そもそもウイスキーを生産している国は英国、米国、カナダ、日本など世界でも数ヵ国だけだ。貴重な国産"資源"といえる。戦前に20代でスコットランドへウイスキー製造を学びに行った「日本のウイスキーの父」、竹鶴政孝(ニッカウヰスキー創業者)の狂気と熱情により現在までの道がつくられた。

そして2023年。日本が誇るサントリーのウイスキー事業は開始から100年、同社の白州蒸溜所(山梨・北杜)は50年を迎える。

このタイミングで山崎蒸溜所(大阪)とともにリニューアルが行われ、設備導入、製法改善や試飲カウンターの改修など24年までの投資総額は100億円に達する。ウイスキーの味だけではなく、ものづくりの奥深さなど魅力を発信する。

森を見ながらの試飲は最高だろうなあ。このところの低糖質ブームで蒸留酒は注目を浴び、コロナ禍の宅飲みでハイボールが売れた。今年も売れるだろう。「山崎」などジャパニーズ・ウイスキーはずっと品薄が続いている。

ところで近年、世界的にお金がじゃぶじゃぶ刷られた結果、多くの国でインフレが生じているのは誰もが知るところだ。さらに、さまざまな商品へ投資がなされ、なかでもウイスキーは高騰し、他の金融資産よりも利回りがいいと話題になった。

熟成したウイスキーはオークションを通じて高値で売買される。昨年には米国のオークションで「山崎55年」が一本60万ドル(約7900万円)で落札されるなど、高額落札が続いている。そこまで高級品ではなくても、メルカリを見ると、あらゆるウイスキーがさかんに売買されている。

でも、それって本物なの? そんな疑問を解消するために、ブロックチェーン技術で書き換え不能な情報を記録するNFTの正規品証明書をつける企業が登場するようになった。この技術が広がったら偽物が紛れ込む確率は減っていくだろう。

味で気づかないのか、といわれそうだが「これはいい酒だぞ」と聞かされて飲んだら、美味しくも感じるはずだ。えっ、そんなことない? 冒頭のエピソードも私が価格に騙(だま)されただけ? でも、騙されて幸せになるのも人生の醍醐味(だいごみ)では?

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI)
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。最新刊『調達・購買の教科書 第2版』(日刊工業新聞社)が発売中!

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