外気浴場に設置したディスプレイのイメージ。定員に対し「あと何人入れるか」を表示する外気浴場に設置したディスプレイのイメージ。定員に対し「あと何人入れるか」を表示する

「ドアを開けたら利用者でいっぱい」「人の出入りが多く、温度が上がらない」......。

そうしたサウナの悩ましい問題を、イノベーションで解決しようとする新たな取り組みに注目が集まっている。

どんな仕組みなのか? 今年秋にもリリース予定の、施設外から確認することができるという最新アプリの中身とは?

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■内部の混雑状況がわかれば......

日本が「第3次サウナブーム」にあるといわれて久しい。今回のサウナブームは2010年代なかばからサウナ好きのインフルエンサーが牽引し、年々拡大。

いまではサウナ愛好家を示す「サウナー」、サウナでリフレッシュし、幸福感や爽快感を味わう「ととのう」といった言葉も一般的になってきた。

そのブームは"密"を避けるコロナ禍でいったんは伸びが鈍ったものの、行動制限のなくなった2022年の春以降、再び盛り上がりを見せている。

ところがそのブームのおかげで、サウナーを悩ませる事態もあちこちのサウナで発生しているという。それはサウナ室の混雑だ。

「サウナ室に入ろうと思ってドアを開けたら利用者でいっぱい、空きがなくて気まずい思いをして出てきた」「満員で座れないところに人が次々に来て、室内の温度が下がる一方。じっくり汗をかきたいのに...」、

サウナ室に入る側、サウナ室に座る側双方で抱く不満は、利用者の誰もが経験しているはずだ。なにしろ、たいていのサウナ室は出入口のドアに小さな窓があるだけで、内部も明るいとはいえない。そのためドアを開けるまで「人がどれだけいるのか」がわかりにくくて当然だ。

しかし、もしサウナ室に入る前に内部の混雑状況がわかれば、こうした事態は避けられるはずなのだが......。

■「3D-LiDARセンサー」で人の出入りをカウント

この課題解決に挑んだのが「日本航空イノベーション推進部」と、ビジネスインキュベーター「アクティア」だ。そして両者はこの春、この「サウナ室での悩み」を解決する新たなサービスの開発に成功。「TOKYO SAUNIST」としてリリースすることになった。

発表会で登壇した日本航空、アクティア、および開発支援企業の担当者。中央が日本航空イノベーション推進部で企画開発を担当した岡本昴之氏発表会で登壇した日本航空、アクティア、および開発支援企業の担当者。中央が日本航空イノベーション推進部で企画開発を担当した岡本昴之氏

日本航空は2019年に「JALサ旅」というウェブサイトを立ち上げ、「『サウナ』を日本の観光産業におけるキードライバーに。」を合い言葉に、サウナを目的に飛行機に乗る「サウナ旅行」を推進してきた。

今回の取り組みは、利用者がそのサウナでの時間をより充実して過ごせることに加え、サウナ運営事業者が利用状況を把握し、オペレーションの最適化や利用者の満足度を高めることなどを目的にしたという。

では高温多湿、さらに利用者が「全裸」というサウナ室の環境で、どう人数をカウントする仕組みを作ったのだろうか。

例えば座席の部分に重量センサーを取り付けての利用人数の把握は、設置費用がかさむ上、耐久性も課題になる。またビデオカメラとAIを組み合わせてのカウントは、プライバシーの問題を避けられないため不可能だ。

そこでこのプロジェクトでは、厳しい環境でのセンサー利用に実績のある「SICK」に技術支援を仰ぎ、同社の「3D-LiDARセンサー(3次元状に光を照射し、対象物までの距離、位置、形状を正確に検知するセンサー)」をサウナ室出入口の上に設置し、人の出入りをリアルタイムでカウントする仕組みを作り上げた。

サウナ室入口扉上部に設置された「3D-LiDARセンサー」が出入りの人数をカウントするサウナ室入口扉上部に設置された「3D-LiDARセンサー」が出入りの人数をカウントする

センサーが検知したデータはクラウドにアップロードして処理され、利用人数のカウントが行なわれる。無線LANを使えば配線の必要もなく、設置コストは比較的低廉だという。

■混雑状況を施設外から確認できるアプリも

そしてカウントされた数字は、サウナ室入口やサウナ室から出た利用客が涼む外気浴場に設置したディスプレイやタブレット端末に表示される。サウナ室に入る前に「どれだけ混雑しているか」がわかるため、

「満室だからいったん湯船に入ろう」とか「混雑してるようだからもう少し涼んでから戻ろう」といった行動が可能となり、「入ってみたら満室で逆戻り」という悲劇はなくなるのだ。

サウナ室のドア横に設置したタブレットのイメージ。人の出入りでリアルタイムに変動するサウナ室のドア横に設置したタブレットのイメージ。人の出入りでリアルタイムに変動する

また情報をサウナ運営事業者が確認することで、清掃、マットの交換などを適切なタイミングで実施できるようになり、オペレーションコスト低減とサウナ室の快適性向上が期待できる。

この仕組みを実証実験として設置した「東京新宿天然温泉テルマー湯」では、利用者の好評を集め、ネットにも賛辞の口コミが数多く書き込まれたという。

サービスの開始予定は2023年4月で、現在、導入するサウナ事業者を募集中だ。2023年秋には、こうしたサウナ室の利用状況を施設外から確認できるユーザー向けスマホアプリ「TOKYO SAUNISTアプリ」として提供することも予定している。

2023年秋にリリースされる「TOKYO SAUNISTアプリ」で、施設の満空情報が事前に確認できるようになる2023年秋にリリースされる「TOKYO SAUNISTアプリ」で、施設の満空情報が事前に確認できるようになる

このアプリを使えば「会社帰りに"ととのいたい"けど、まだ混雑しているからもう少し仕事してからにするか」とか、「いつも通ってるサウナは今日込み合ってるみたいだから空いているこっちにするか」など、より適切なサウナ選びが可能になる。

さらにこのアプリでは、ログイン機能によりお気に入りの施設の登録機能、位置情報と連動した自動サウナ利用記録機能なども搭載される予定というから、"サ活"がいっそうはかどること、間違いなさそうだ。