日本の国民負担率の推移。式として表すと、「(租税負担額+社会保障負担額)÷国民所得」が国民負担率。1970年と比べると、現在の税・社会保障の負担水準は約2倍になっている 日本の国民負担率の推移。式として表すと、「(租税負担額+社会保障負担額)÷国民所得」が国民負担率。1970年と比べると、現在の税・社会保障の負担水準は約2倍になっている
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「国民負担率」について。

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「週刊プレイボーイ編集長が淫行で逮捕」。

この話題をテレビ番組が取り上げて、私がコメンテーターならどう発言するだろう。もちろんこのニュースは架空だが、私は当連載をしている関係で、ちょっと歯切れが悪くなるかもしれない。

「AVを紹介するコーナーがあるんだから、それで処理するべきでしたね。実際に週プレがプッシュしていた小宵こなんさんは最高でしたよ。はっはっは」などとお茶を濁したかもしれない。

昨年120回ほどテレビに出た。比較的自由に発言しているほうだと思う。

ただ、どうしても発言者は利害関係者から完全に自由にはなれない。私はこれまで経験がないが、もしコンサルタントとしてのクライアント企業が不祥事を起こしたら、企業寄りの発言をするかもしれない。これはクライアントから嫌われたくない心理よりも、「知っている人たちだから」という理由が近い。

私は社会人になってからずっと売り込みを受ける仕事に就いていた。そりゃ売るほうは自分の商品に有利な情報を集めるし、仕事につなげたい意図がある。発言者の立場を確認する習慣は後の財産になった。

さて先日、財務省が2023年度の「国民負担率」を発表した。税と社会保障費が、国民所得に占める比率を表現したものだ。なお国民所得とはGDP(国内総生産)とは違う指標で、厳密な説明ではないが、国内外で日本が稼いだ粗(あら)利益と思っていい。

その比率が2023年度はなんと46.8%になる見通しという。内訳は税が28.1%で、社会保障費は18.7%。すごい。21年度の実績(48.1%)や、22年度の見込み数字(47.5%)と比べれば下がるというが、だいたい半分が税と社会保障費に費やされていく。

ちなみに私が生まれた1978年は29.2%だった。昭和は遠くになりにけり。多少の上下はあるものの、ずっと上昇傾向が続く。少子高齢化だから当然の帰結ともいえるが、社会保障費が重みを増していく歴史は、この国に悪影響を及ぼしている。

ただ、多くの報道では、「国民負担率は日本より欧州各国のほうが高い」と追加するのを忘れない。

たしかにOECD(経済協力開発機構)加盟36ヵ国で比べると日本はさほど高くなく、中間くらいだ。日本より上位にはスペイン、ドイツ、スウェーデン、フランス、イタリアなどがある。逆に日本より低いのはカナダ、オーストラリア、米国などだ。

不思議なのは、常に「日本は欧州ほどではない=もっと増税の余地がある」といったトーンで語られる点だ。

けっして「日本は米国より高い=もっと減税の余地がある」とは解釈されない。増税の可能性を示唆するものばかり。財務省から各メディアへのレクチャーが効いているのだろうか。やはり発言者が誰か、その意図は何かを確認せねばならない。

ところで私たちは、税と社会保障費とを区別しているだろうか。

普通の会社員にとっては給与から天引きされるもの。どっちも税金の感覚だ。だから単純に社会保険庁と税務署を統合すればいいのではないかと私は思う。歳入庁構想だ。

こうして徴収の透明性を図った上で、もう国民負担率を算出する際の大本、つまり国民所得の増加を阻害するすべての規制を撤廃するべきだと思う。没落する日本だからそれくらい"異次元"にやってみたら?

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI)
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。最新刊『調達・購買の教科書 第2版』(日刊工業新聞社)が発売中!

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